次の日から、丸井は変わった。
練習中はいつも通り。明るく、自信家でポジティブ。
パートナーであるジャッカルとは普通に話すし、切原や柳たちとも普通に接した。
でも、それは今までの丸井じゃなかった。
分かる。
分かりやすくしている。
その目に感情は浮かべず、拒絶だけを映す。
笑顔は貼り付けたもので、まるで仮面のようだった。
触れることはなく、近づけば逃げないが一歩下がった。
『桑原?どうしたんだよぃ?』
首を傾げながらガムを膨らませた。
顔を隠していくガムも、細められる瞳も、とても距離を感じるものだった。
その呼び方と変わらぬ声色の差は、ますます隔てを強固にした。
「な、なぁ文月…『名前、やめてくんね?』……悪い…ッ」
ガタガタの部活だった。
丸井一人が拒絶を露わにしただけで、こんなにも崩れた。
『あ、俺先行くなー』
ラケットを肩に担ぎながら、飄々と部室へ入っていった。
"仕方ないだろ?そっちが望んだ事じゃないか"
風に乗ってそんな声が聞こえてきた気がした。
「驚いたよ…」
「…?精市は分かっていたんじゃないのか?」
部室に入っていく無表情の丸井を見て、ぽつりと幸村が呟いた。
隣にいた柳が驚いて聞き返す。
「薄々ね…勘づいてた、くらいだよ。…まさか、あんなに変わるとは思ってもいなかった…」
苦虫を噛み潰したような顔をする幸村に、柳の表情はさらに曇る。
いつの間にか練習を終えてきた真田も隣へ来た。
「精市が責任を感じることはない。あれが本当の丸井だというのなら、俺たちはそれを受け止めるだけだ。」
「…そうだな。むしろ良く気づいてくれた、幸村」
「これからも共に戦う仲間だ。心から分かり合えなければ、勝利は掴めん!」
力強い真田の言葉に、幸村も柳も小さく笑った。
「丸井先輩…」
切原が制服に着替えた丸井を見ていった。
以前のように「文月先輩」と呼ぶことは許されない。
戻りたい。
あのときのような関係に…
否、違う。
今度こそ、本当に心許し、頼り合う関係になりたい…
自分は、先輩達をずっと見てきたはずだ。
違和感を感じることは出来なかったけど、気が付くことは出来なかったけど
今からでも、きっと遅くはないから。
俺は、
俺たちは
先輩を救いたいッス…
他人の悪足掻きを冷笑に伏した
(何やってんのかな)
(ホント…馬鹿じゃねぇの)
[ 6/20 ][*prev] [next#]
[ mokuji ]