あっという間に放課後になった。
今日も厳しい練習を終え、レギュラーたちは更衣室で着替えをしている。
その中で丸井文月はいち早く着替え終わり、他のメンバーを待ちながらつまらなそうに椅子に腰掛けていた。
「ねぇ、文月…」
幸村が話しかけてきた。
また、嫌な汗が伝う。"何か"が恐ろしくて、笑顔の裏は固まった。
「もう、やめにしないかい?」
『………』
スッと真剣になった幸村。
声色は凛と澄んでいる。
今、此処でいうのか…という意味を込めて視線をやった。
これでは、否定のしようがない。拒否することも出来ない。
みんなが、聞いているのだから
「??何のことッスか?」
切原が聞いた。
他のみんなも皆一様に腕を止め、着替えの途中にも関わらず、丸井と幸村を見た。
『…何でだよぃ?』
細かく歯が鳴るのが分かった。
それをぐっと噛みしめて、顔には出さずに可愛らしく首を傾げた。
「終わりにしようよ、俺たちを騙すのは」
「騙す?」
「幸村…何を言っとるんじゃ?」
ヤメロ…
「俺たちは仲間だろ?隠さなくて良いんだよ」
嫌だ、
「ね、文月」
嫌だ。
ねえ、幸村くんまで俺の場所を奪おうとするの?
俺は、まだ、ここにいたいんだ。
"俺"として、ここにいたいだけなんだ。
嫌だ…
嫌だよ、目を覚ましたくないんだ。
この白昼夢が偽りだらけだと知っている。
その中で何より偽物なのは自分だとわかってる。
でもね、
『んー〜〜〜〜…』
俺は意味もなく声を出す。
少しで良い、少しで良いから、もう少しでも…この夢の中に
苦しい
全てをやめることが。
失うことは、
こんなにも恐ろしかったか…?
ああ。
変わってしまうのは…駄目だ。
なら、ここでやめてしまったほうが…いいのかな。
ここで全て断ち切ってしまえば、そんな恐怖とはおさらばだ。
「文月…?なぁ、何のことだよ…?」
ゴメン、ジャッカル
さよなら、だぜぃ
今までありがとう、お前のことは嫌いじゃないよ
みんなのことも、嫌いじゃない
『………………やァーめた。』
好きでもないけどね
常春の白昼夢は静かに終わる
(それは無関心)
(この世で最も悲しい感情)
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