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「#幼馴染」のBL小説を読む
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立海大附属高校、テニスコート



「ほらっみんな、動きが悪いよ!」
「たるんどるぞ!」

部長、副部長が一喝する中練習に励む部員達。

そして…



「あかねちゃーん!ドリンクとタオルだよー!!」
『……あかねじゃない。ありがと、てまり』
「あーごめんー」

文月にドリンクボトルと真っ白なタオルを手渡す小柄な少女、北条てまり。
謝るその顔に、反省の色は全くない。

ちなみにてまりは丸井文月親衛隊の隊長を務めている。
今もコートの外にはフェンスに張り付くように女子生徒がひしめき合っている。

「…相変わらずすごい人気じゃの、文ちゃん。」
『マサ、重い』

ずしっとした重みと共に上から降ってくる気だるげな声。銀髪金眼チョロ毛がトレードマークの仁王雅治だ。

『マサたちもすげーし。』
「いやいや、文ちゃんには劣るぜよ」

のーんびりと会話していると、ミルクティブラウンの影が砲弾のように仁王の腹につっこんだ。

「ゲフッ!!!」
「あかねちゃ…じゃない、文月くんにさわるなこの白髪ヤロー!!!」

「み、ぞおち…入ったぜよ………」

腹を押さえて地面にひれ伏す仁王は、最後に「…白髪じゃなか……」と遺言を残して逝った。

「さすがだな。陸部短距離エースをやすやすと下した脚力は伊達じゃない」
『マサぁーいーきてーるかー。蓮二、マサ死んだかも』

…反応がない、ただの屍のようだ。


「反応がありませんね、ただの屍のようです」


…被った!と文月が思ったら、後ろにいたのは柳生だった。
ツンツン、と仁王を足でつついている。

…ホントにダブルスパートナー?


「本当にダブルスパートナーなのか、と考えている確率94%」
『実際考えてたから100%だぜぃー』

ぽん、と紅い髪に大きな手が置かれる。
完全に上下関係が決まっている二人を見ながらそう言った。

『れんじーおんぶー』

「仕方ないな」

柳の背中に飛びついた文月をひょいっと抱え上げて平然と柳は言う。

「ん?またパワーアンクルの鉛板を増やしたのか?」
『おー。パワーリストが15sでパワーアンクルが15sだから今30s。』

「…そうか。また体重が減ったようだが」
『(ぎくっ)』

図星。と言外に示すように体をビクつかせる文月に、柳はため息を吐いた。

「弦一郎、今日は練習が終わったら焼き肉でも行くか」
「む?何故だ?」
「文月の体重がまた減った。無理矢理にでも食べさせるぞ」
『やぁーだぁー』

無表情ながらも不満げな様子がにじみ出る顔でガタガタと柳の肩を揺らす文月はさながら幼子のようだった。
ふむ。と考え込んだ真田は肯定の意味で一つ頷いた。

「よし。王者たるもの自身の体調管理もできなくてはいかん」
『お、弟。賢太と爛太は…』
「呼べばいいだろう」
『うぅぅぅう……』

"アレ"以来、柳たちと食べに行くと、決まって多量の料理を半ば無理矢理食べさせられる。
文月が肉嫌いでかなりのベジタリアンとバレてからはさらに。

せめてのもの反抗、とばかりに足をバタバタ動かすが、さらに駄々っ子のように見えてならなかった。

「ほら、暴れるな文月」
「あぁ、蓮二に迷惑だぞ」

柳が叱りつけると同時に、ガシィ!と真田が文月の両足を鷲づかみにする。大男2人に虐められている女の子の図そのものだ。

『ジャッカル―――っ!!!』

滅多に大声を出さない丸井が『!』を付けた言葉を発するのは珍しいことことだ。
パートナーもとい保護者であるジャッカル桑原が飛ぶように現れたのは言うまでもない。

「どうした文月!!って何やってんだ柳、真田!」
「「暴れたから押さえつけている」」
「ただのイジメだそれは!」

ガバッ!と柳の背中から引きはがし、半泣きの文月を一生懸命あやすジャッカルは保護者以外の何者にも見えない。
これだけべたべたしていて恋人に見えないのは何故だろう。むしろ兄妹だ。

「俺n…文月を泣かせやがったのは誰かな?」
「幸村…今、俺のって言いかけたろ」
「気のせいだよジャッカル。で、誰?」

背中にブリザードを背負って現れたのは、"神の子"幸村精市。

が、今の幸村を見たものは誰も神の子とは思わないだろう。おそらくマのつく王様と例えるはずだ。しかし口に出してはいけない。誰でも命は惜しい。


『せーいちくん…!』

ジャッカルの側を離れ、大好きで憧れの幸村に駆け寄る文月。途端、幸村の纏う空気が一変して暖かくなる。

『げんちーとれんじが虐める…!』

「そっか…真田と蓮二が……」

ギラッと穏やかだった両眼が輝くのを、柳と真田は確かに見た。

「俺は文月がさらに痩せたから焼き肉に連れて行こうと言っただけだ。暴れる文月を無理矢理押さえつけたのは弦一郎だ」

「なっ!蓮二!?」

さずが達人、頭の回転が速い。
言い逃れだけではなく、嘘一つ言うことなく真田を生け贄に捧げた。

「本当かい?文月。」
『んー。嘘じゃない』

決まった。今、文月の脳内順位は確実に真田<柳だ。


「さぁーなぁーだくん?あーそびーましょー」


最近ト○ダチにはまっているらしい幸村が貼り付けた笑顔でじりじりと間合いを詰める。

「ゆ、ゆきむ、キェェェエエエ!!」

真田ご臨終。

「さぁ、悪は去ったよ文月!」
『やったー』

とたたたたっと幸村に駆け寄りだっこしてもらう丸井。
足下には屍一つ。


「真田…成仏しろよ」


ジャッカルはそっと手を合わせた。いつも不憫な役回りの真田だ…




「文月せんぱーい!」

凄まじい足音をたててやってくるワカm…げふん、切原。
英語の授業中に居眠りをしていて罰則を食らった困った子だ。

『ワカm…あかやー』

「ワカメって言いかけましたよね今ぁぁああ!!??」

ばふーっと全力で抱きついてくる切原をちょっと苦しそうに受け止める文月。


「そうだ、文月。母がお前にとレモンの砂糖漬け作ってくれたのだが」
『食う…!』
「女の子が食うとか言っちゃダメッスー!」

柳母作のレモンの砂糖漬けにわいわいとたかる甘党2人。
きゃっきゃとはしゃぐ姿は子犬が戯れているように見える。



ふう、と一息ついて、幸村が口を開いた。







「文月」
『(もきゅもきゅ)んー?』

レモンの砂糖漬けを頬張る文月は首を傾げながら顔を幸村へ向けた。




「楽しい、かい?」





その問いに、丸井文月は






『おう。あったりまえだぜぃ!』





滅多に見せない本当の笑顔で答えた。





スキだよすきだよ好きだよ
(俺のなかま!)




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