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「#幼馴染」のBL小説を読む
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「…前の文ちゃんは好きじゃった」

『…だろうな』


俺はそこらへんにあったタオルを水に濡らし、仁王に投げ渡した。
仁王は受け取ったタオルで血塗れになるほど怪我をしているはずの足を無造作に拭う。

全く傷ついていない素肌が現れた。




『お前と"同じ"だったころの俺は、好きだったろうよ』

「………………!!」





ビクリ、体が震える。図星だ。

ジロリと無表情な顔で見上げると、仁王の顔は苦しそうに歪んでいた。


『…違和感があった。最初から。お前は"不自然"過ぎるんだ。表情が読めなさ過ぎる』

「そ、れは……俺が…詐欺師じゃから…」


いつも流暢に言の葉を紡ぐ仁王は言葉に詰まった。
俺は、仁王が言葉に詰まり狼狽えるところを初めて見た。


仁王の素顔を、初めて…見たんだ。



『違う。お前が、俺と同じ……』

「黙れ!!」



仁王が激昂した。

いきなり立ち上がり、ガダン!と椅子が音をたてて倒れる。

真っ赤な血糊がべったりとこびりついたタオルが地面に落とされる。



俺は正面から見据え、幾分高い目線に合わせる。







そう、少し前の俺と同じ瞳。

曇りガラスのような、自身を隠し、自分自身すらもわからなくさせる瞳。








『自分を偽って生きてきているから』

「………ッ!」



くしゃりと歪む顔。
金色の両目から、大粒の涙が零れる。


「ズルいんじゃ…文ちゃん。自分だけ…」
『……あぁ』

身を震わせて泣く仁王に、いつかの自分を重ねて

「おまんだけ、本当の自分…晒して……」
『……ごめんな』

崩れそうな肩を、そっと支えた。




『お前を置いてって、ごめん。まだ間に合うから』




いつだって遅くはないんだよ。

みんなはいつだって、いつまでだって俺らを待っていてくれる。






そのまま2人で屋上へ行って、午前授業丸々サボタージュ。

お昼休みになれば、みんながここに来るだろう。


それまで、久しぶりに2人で話をした。
初めて何の仮面もなく話をした。
たくさん、たくさん話をした。





「…2人とも、ここにいたんだね」
「サボりとはたるんどるぞ!」

真田の大声に、2人揃って肩を跳ねさせた。

その姿を見て幸村くんがピタリと動きを止めた。





「…そう。仁王も…」
「………おん」


さすが、せーいちくん。

やっぱり全てを知っている。



「………?」



…げんちーだけが首を捻っていた。この、きんぐおぶけーわいめ。




屋上にみんなが集まった。
俺と仁王はみんなと向き合うようにして座った。

赤也も、ジャッカルも、ヒロも、れんじも、流石に真田だって、この空気を悟っている。

俺より"ヘタ"だったお前に、みんなが気付いてないわけないだろう?





………

…………

……………





仁王雅治はまるで神から愛されたような子供だった。

際だつ容姿、飛び抜けた頭脳、卓越した運動能力、恵まれた裕福な家。

あらゆる事象・事柄が彼を上へ上へと押し上げるように動いていた。




詐欺師症候群、という言葉を知っているだろうか。

英語ではインポスター・シンドロームという。

自らの功績や成功を自分の実力が齎したものだと信じる事ができなくなり、今までの成功はただ単に運が良かっただけで、自分は周囲を騙しているのではないか

と言う疑心暗鬼になってしまう症状が特徴だ。


当時の彼は、正しくこれだった。



彼はだんだん自分が信じられなくなっていた。

周囲から称賛を受けるたびにそれは自分の実力ではないといいたかった。

けれどそれを言ってしまったら途端に捨てられてしまう気がした。

彼は、周囲すべてを騙しているような罪悪感に圧されていた。



そして、彼の世界は少しずつ壊れ始めた。



「俺がいい成績をとるたびに、親は俺を気持ち悪いと殴った」

「俺が女子に告白されるたびに男子は調子に乗るなと虐めた」

「俺が男子に虐められているのを女子達は遠巻きに嗤ってた」

「俺には何もなくて、文ちゃんのように守らなくてはならない存在もいなかった」



どうすればいいのだろう。

暴言と暴力が飛び交う荒んだ世界の中、仁王は必死に考えた。

どうすればこんな世界から抜け出せるのだろうかと。


彼は周囲をよく観察した。

他人の振る舞いを、他人の言動を、目に焼き付けた。


人付き合いは付かず離れず、踏み込みすぎずに飄々と

言動は嫌味にならないように軽くて記憶に残らないものを

そして頭はよすぎてもいけない、運動ができすぎてもいけない

何事も本気でやってはいけない

熱くならず、常に遊び半分の余裕をもって




そうして仁王雅治は、本物の道化となる道を選んでしまった。

卑怯で臆病な自分を覆い隠して、そのままに。




隠さないでよ、見えてるからね
(お前の本当の姿が)
(臆病で弱虫な本質が)




…………………………

詐欺師症候群は実在します。

ですが私はインターネットで調べただけなので、ここに載っていることを鵜呑みにしないようお願いします。

移転前とは仁王の過去を変えてみました。

前は姉が関わってくる話だったんですが、自分の中でピンと来なかったもので…(自分で書いておいて)

新しい仁王(笑)は実は超ハイスペックです。ヘタレですが。

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