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そして、"俺"が生まれた。



明るくて、人当たりが良くて、人気者。

太陽のように笑う、あったかい理想像。



表の俺を作るのなんて簡単だった。

演技をする必要はない。すでに俺の全てはゼロだったから。
造り上げていくだけだ、全てを。



時折、わたしが出てきそうになることはあった。
自分で自分が信じられなくて、本当の俺って何なんだろうって途方もなく空虚な気持ちになって、








そして、自分を自分で切りつけた。

溢れ出るアカが、俺の存在証明のようで、酷く安心した。

けれど深く突き立てた銀色が母を思い起こさせてまた不安になって切り付ける、悪循環。



「…文月。」
『………ん?』


幸村くんが俺に言った。あ、名前で呼んだ。


「手、見ても……いい?」
『………ん』


俺はあっさり承諾した。

幸村くんの手が俺の左腕を掴み、手首に付けているパワーリストをそっとずらした。



現れる、深い傷跡。



初めの頃、無我夢中でやたらめったら切りつけた浅くて多い傷も、最近ゆっくりつけたえぐれたように深い傷も。

一生、消えはしない。




「「「「「「…………ッ!」」」」」」


"6人"が息を飲むのが分かった。






「文月、いや、本当の名前はあかねかな?」


俺は左右に首を振った。


『こっち来た後、法的に名前変えた。』


もう俺は丸井文月だよ。

みんなが呼んでくれた名前が、俺の名前だよ


「そっか…文月」


自分の足下ばかり見ていた俺は、幸村くんが目の前に来ていたことに気がつけなかった。
幸村くんの両手が俺の両頬に添えられ、半ば無理矢理視線を合わせられる。


ビックリして固まった。


見開いた目に、俺の肩や頭に手を添えるみんなが見えた。




「丸井文月は、俺たちの仲間だ。……例え、女でも。」



シンとした部室に、声が響く。

俺は、幸村くんの凛とした声が好きだ。
堂々としていて…俺にはない自信に溢れているから。



「…よく耐えたね。よく頑張った。」



ゆっくり、ゆっくりと、幸村くんの手のひらが俺の紅い癖毛を撫でる。



「文月が自分を愛せないなら」



視線が交わり



「俺たちが、なにより君を愛そう」



熱が伝わり



「出会えなかった時の分も、分かり合えなかった時の分も」



心が伝わり



「これから先、ずっと、ずっと、」



愛が伝わる






永久の時間を、永久の愛を、
(キミへ)



この時、

俺たちを見ていたもう"独り"に気づいたのは

きっと、俺だけ。









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