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「#幼馴染」のBL小説を読む
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適当に俺を受け止めてくれた礼を言って、柳生から離れた。

何で、という疑問ばかりが頭を埋めて

嬉しい、という感情ばかりが心を埋める。





変わっている

変わってきている

それは…いいことなのか…?







「アンタなんて…」

「生まなきゃ良かった!!!」









『ッ……!』


声がする。

耳の奥で、脳髄の近くで

体中に奔る、声がする。







そしてまた、

俺は人知れず涙を流す









ジャッカルの教室は英語の時間だった。

得意教科である英語の授業。
が、得意であるが故に暇になってしまい、ふと窓の外に目をやった。

この3年I組はかなり端のクラスで、窓からの景色なんてたかが知れている。

今日も快晴に広がる空と、ジメジメと影に覆われた裏庭くらい。
裏庭は日当たり皆無。美化委員が完全にサジを投げたほどだ。


だが、今日はそこに。

紅い人影が見えた。


「(………文月!!)」

ジャッカルは声に出さず叫んだ。
咄嗟だったため、呼び慣れない名字ではなく、いつも通りに名前で呼んでいた。


「………泣い、てる…」


今度は声に出していた。

丸井の周りにある影が嫌に濃く見える。
底なしの闇のようだ。

そして、あいつは

飲み込まれそうなんだ、その闇に。


「…………先生。」


俺は考える前に体が動いていた。

立ち上がり、教壇に立って黒板に英文を書き連ねている教師に向かっていった。


「すみません、気分が優れないので、保健室に行って来ます」
「あ、あぁ、分かった。担任に入っておこう」
「ありがとうございます」

教室からでて数歩歩いたあと、全力で走りだした。

"4つの肺を持つ男"と呼ばれるジャッカルだ、当然瞬発力も持久力もある。

走った。

とにかく、走った。



目指すは…

裏庭の真上に位置する教科準備室の窓。











声がする


声がする


突き刺すような声かする




「何で生まれてきたの」

「気色悪い」

「人形みてぇ」

「人間じゃねぇよ」




「うっわー!すごいね   ちゃん!テニスうまーい!」

『…そう、かな?やってみる?』
「やるやるー!」

「テニスやってる時の   ちゃん、すっごくすき!」

『わたしも、  ちゃん、すき』







『……ぅ…あぁ、あ…っ』


涙が止まらない。

言葉が痛い。

悲しかった時の言葉はそのままに

嬉しかった時の言葉は今はそれを感じられないことが

俺に、突き刺さる。




だれも助けてくれなかった。


だれも一緒にいてくれなかった。


息が吸えない。


苦しい。


くるしい。


水中で息ができなくなった魚のような


泳ぎ方を忘れてしまった魚のような…


冷たい息苦しさが身を埋める。




こつん。




頭の上に何かが落ちてきた。
小さくて、固い何か。

ちょっと癖のある赤髪を右手でまさぐって見ると、


『消しゴム…の、カケラ?』


ゴミじゃねぇか、こんなの。どっから。

ふい、と顔を真上に上げる。


「よ、」


色黒な、日本人離れした容姿を持った彼がいた。

かつて、というほど前じゃない。でも確かに「昔」のパートナー…


『くわ、はら…』


ジャッカル桑原。


「ほら、やるよ」


二階の窓から、ぽいっと何かを放った。 べしっと俺の顔にあたった、薄くて長方形のもの…


『板チョコ…?』


どこにでも売ってるような、板状のチョコレートだった。


「疲れてるだろ、最近。お前にとっても色々大変だしな」







…──お前、よく板チョコ丸かじりなんて出来るな…

…──だってよー今日疲れたじゃん!

…──疲れると何で板チョコなんだよ…

…──甘いモン食べると疲れが取れるんだぜぃ?

…──明らかに食べすぎだ。

…──うっせ!あ、ジャッカルにも一カケやるよ!感謝しろぃ!

…──こんな小せぇカケラでかよ!







『お、ぼ……えて……?』

「おいおい、俺を誰だと思ってんだよ」


俺がそういうと、ジャッカルは小馬鹿にしたように何を今更とでも言うように苦笑して、




「お前の、パートナーだぜ?」




途端、すうっと息が楽になった気がした。





「勝手に解消すんなよ、一緒に全国一ダブルスになるんだろ?」

『………ぅ、ん』


小さく、小さく返事をした。

ストッと軽い音がして、俺を包む影が少し濃くなった。

目の前に…桑原が……否、ジャッカルがいた。



「お前が何をどう偽っててもさ」




…──あれ、お前ペアいねーの?

…──だったら俺と組もうぜぃ!

…──なあ名前なんてゆーの?

…──ふーん。かっけぇ名前だなー!

…──じゃ、





「あの時、俺に声をかけてくれたことは…」




伸ばされた手を、強く掴んだ。




「お前の優しさだけは、本物だったって分かってる」





…──よろしくな、ジャッカル!








孤独の泳ぎ方を忘れてしまった
(深く沈んで逝きたいのに)
(少しも逝きができないの)

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