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三時限目、移動教室。

無駄に広い立海大の校舎は理科室やコンピューター室などが複数ある。生徒数が多いからだ。

が、その全てが同じような場所に固まって置かれているモンだから、そこから離れた教室の生徒は移動だけで貴重な休み時間を潰さなければならない。

分けてくれりゃーいいのによぅ…

俺は、誰に聞かれるでもなくため息を吐いた。

いつも誰かしらと一緒にいる、俺。一人での移動は珍しかった。

一人でいるのは辛いと思っているのに、"表"で接することが痛くなってくる。

"素"の俺は孤独だから…一人でいるしかないのに。


「丸井くん?」
『…あー、白皇院?』

声をかけられて振り向くと、またしてもミス立海の白皇院由利亜。

オレンジの髪にエメラルド瞳。
マジで西洋人形みてぇ。

…美人だよなぁ。俺がホントに男だったら惚れてるだろーよ。


「一人で移動しているのなら、私と一緒に行きませんこと?」

『や、いいよ。俺、何か一人でゆっくり行きたい気分だから』


そういうと、そう…と残念そうというよりも悲しそうに、白皇院は言った。

何故だろうか…最近、こいつが俺を見る目が幸村くんと被る気がする。


気のせい、気のせいだ、きっと。

誰も、"俺"には気づいてない……ッ!


ボンヤリとしていたからか、似合わずごちゃごちゃ考え事をしていたからか、




ズルッ…





『(あ、滑っちまった)』



階段の、よりによって一番上で足を滑らせた。


背中からなら良かったが(良くはないか…)あいにく前のめりに俺は傾いていく。


一応、反射神経とかはあるつもりだから、受け身を取ろうとすれば取れるだろう。


でも、取ろうという気にならない。


あぁ、落ちてる。くらいしか感じない。


痛い?痛いだろうよ、そりゃ。


顔面だもんな、人体の急所だっつーの。


でも、まぁいいや、とか思ってる。


何で?


何でってそりゃ…








俺が俺を大嫌いだからに決まってんだろぃ?







壊れようが関係ない。
つーか壊れてしまえ、こんな嫌いな俺なんて。



と、思っていたのに。





「ッ…危ないッッ!!!」





宙に浮いた俺を、誰かが受け止めた。

緩慢に視線を上げると…
 


「大丈夫ですか…丸井くん。危なかった…」


柳生だった。


『…………った…に……』
「え?」  
『たすけなくてよかったのに』


壊れれば良かったじゃねぇか、俺なんて。

仲間を騙して、殻に閉じこもって、こんなにも汚れた俺なんて、


「何を言っているんですかッ!?丸井くんは大切な仲間です!傷ついて欲しくないと思って、助けて、当然でしょう…?」


段々と覇気の無くなる声。
悲しんでる。柳生が、悲しんでるのが分かる。



『俺はみんなを騙してた。仲間だと思ってなかった。

たすけるひつようなんて、ない』
 


あぁ、もう、馬鹿じゃねぇの、俺。

柳生に言ってどーすんだよ、どーなるんだよ。

これじゃ…俺が悪いはずなのに、まるで悲劇のヒロインにでもなったみたいだ。



「待ってます、丸井くん」

『無理だろ』

「ずっと、待ちます」

『無茶言うな』

「信じています、長年共に凌ぎを削り合った丸井くんを」

『…ニセモノだったのに?』

「…本物あっての偽でしょう。私たちが見てきた丸井くんの、全てが全て偽りだったとは誰も思っていませんよ」




え?




「丸井くん、丸井くん」


柳生が笑いかける。


「貴方は、自分が思っているほど隠し事がお上手ではありませんよ」


楽しそうに、微笑ましそうに、


「だから、救いたい。支えたいのです、私たちは。貴方を」



まったくもって未知のお言葉
(すくうとか、たすけるとか、何?)
("こっち側"の俺には理解できねーよ)

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