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俺はあの後、真田が去った後も呆然とその場に立ちつくし た。


…認めた。 認めそうになった。


「みんなが好き」だって。









それは、とても、



怖かった。











翌日は学校に遅刻していった。
寝坊したワケじゃねぇけど、まあ…なんか気分が乗らなかった。

親いねぇとたまーにこういうズルができる。

四限目から出ることにした。
教室には仁王がいるが、仁王は幸村くんに言われたことを忠実に守っているのか、俺には話しかけてこない。


まあ、たぶん違う意味もあるけどな。


《キーンコーンカーンコーン……》


あ、授業終わった。
弁当でも食うか…………って


俺、今日自分の弁当作ったか?


弟のは作った

たこさんウインナーは入れたし、卵焼きは砂糖たっぷりにし たし、嫌いらしいけどミニトマトも入れた。

でも、自分のは…?



『やべぇ…』


購買か学食…?
今日金持ってねーんだよ…

気が乗らねぇけどそこらの女子でも引っ掛けるか

「丸井くん、」

…とか質の悪いこと考えてたらいきなり女子から声をかけられた。
ぶっちゃけ、心臓跳ねた。


見覚えのあるそいつは白皇院由利亜といって、確かミス立海二連覇中。

教室では結構話しかけてくる人物だが、おそらく恋愛感情はない。
俺はそういうのを見分けるのがとても巧い。自慢なんてできないけどな。

俺が俺を守るためだけに鍛え上げた力だから。


「柳くんが呼んでるわよ?行かなくていいの?」


…柳が?

サンキュっ!と言って人当たりの良い笑顔を向けてドアへ向かう。

後ろでキャアキャア言ってる女子の声が五月蠅い。

オモイ溜息をついて教室を出れば、待ちかまえていた柳が声をかけてきた。


「丸井、体調は大丈夫か?」
『…おう』


やっぱり貼り付けの笑顔で接するのはキツい。疲れる。

何故だが知らないけどこいつ等にこの笑顔を向けるのが…最近、辛い。

やっぱり、「表」の俺が脆くなってきてるんだ。

これ以上脆くなったら…俺はどうすればいいのか分からなくなってしまう。


『何しn「何しに来たんだ、とお前は言う…」


…前々から思ってたことだけど、こいつ不気味。

データ云々があったってここまで人の言うことが分かるのはおかしいだろぃ?


「今日の丸井は弁当を持っていない確率84%だ。違うか?」
『!?』


な、何で知ってんだぁぁ!!!怖ぇぇええ!!!
俺はなるべく表情に出さないように戦慄した。
が、柳の口元が少しだけクスリと笑ったから隠しきれていなかったかもしれない。


「丸井が弁当を忘れるのは遅刻した時、金曜日である時、寝不足の時などだ。よって今日は弁当を忘れた確率が高い。だろう?」

『…忘れたけど。』


あぁ、もうメンドクサイ。
もーいいよ何でも…


「さっき購買でメロンパンと焼きそばパンといちごみるくを買ってきた。食べるか?」


嫌がらせか。
ピンポイントで俺の好きなものじゃねぇかよ!どこで知った!
たぶん桑原とかしか知らねえはずだぞ!?


『…食う。サンキュ』


が、まぁここで簡単にはいかないのが世の中ってモンだろぃ?


「その前に少し話がある。屋上へ行かないか?」

『おー』

しゃーねぇか。放課後の部活までサボるわけにいかねぇし、となると昼がないとキツい。

大人しく柳の後についていった。

キィ、と軋んだ音をたてて開いていく扉の向こうには、むき出しのコンクリートに対照的な青い空。
人は、いない。

驚いた。みんなで待ち構えてるもんだとばかり思っていたから。


「…さて、これで人目を気にせず話せるな」


…始まったか。
柳は何て言ってくるんだろうな?

っていうか幸村くんに待てって言われてんじゃなかったのかよ。

せっかく他の奴らに鬱陶しくされないと思ってたのに。


「まずは昨日のことだが…」


げ、真田の奴…話したのかよぃ…と思って俺は顔を無意識に歪めていたらしい。


「すまなかった。不快にさせただろう、あいつは馬鹿正直すぎる所がある」

『…おう』


だと思った。

こいつもこいつで、幸村くんほどじゃないが鋭い。

でも、こいつの違う所は…




「真田の奴を悪く思わないでくれ」




結構、分かりやすいこと。


「嫌わないでくれて本当に良かった。…しかし無理して好きなろうとしなくて良い」

言ってくることが分かんない時は全然分かんねぇのに、分かる時はすらすら分かるんだ。

だから、この後…こいつはきっと、



「無理はするな、これだけは頼むぞ」




俺の心を撫でるように宥めるように、気を使ってくるんだろう。
それがどれだけ俺を苦しめるかも知らないて。



「心を無理に開いて壊れてしまうのは、絶対に嫌なんだ。」




それが計算だったら、俺はまったく動じないけど…本気だから。
いつも計算してばっかりなくせにそういうときだけ考えなしで。




「お前が、大切だからな」




ゆっくり、ゆっくり、言い聞かせるように。

俺に言う。

分かるのに。
何を言おうとしてんのか全部分かるのに。

何で目の前が滲んでくる?



「…丸井?」

……───文月


何でまた、前みたく呼んでもらいたいと思うんだ。


……───糖分の取りすぎは体に良くないぞ。

何でまた、前見たく接して欲しいと思うんだ。


『……やなぎ』
「?どうした……!?丸井!?」


マズい、目の前が歪み、それが溢れていく。

柳も慌ててる。
当たり前、か。


『な、まえで…呼んで、いいか?』 「え……?」


怖い、恐い、こわいけど……

みんなが好きだよ…好きだよ、でも、嫌いかもしれない。

だってこんなに苦しいんだ。

皆が綺麗で真っ直ぐで眩しいから…
自分がどれだけ醜いか分かってしまうから…



「…あぁ」
『蓮二……』
「文月…で、いいか?」



喉が詰まって、痛くて、喋れなかった。

だから必死に首を縦に振った。



読めないようで読み易いんだよ
(何奴も此奴も馬鹿正直で)
(自分の鬱屈さに嫌気が刺す)


苦しくて嬉しくて辛くて温かくて悲しくて…

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