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フトコロアクマノイルトコロ
切原赤也は転生者だ。

この世界に生まれ落ちて14年、初めはこの世界を理解できなかった。

違和感にあふれていたこの世界で、ここは自分のいるべき場所ではない感覚に苛まれた。


そして、思い出した。


自分の最期と、あの方の最期を






前世の自分は子供の頃から殺し屋のコマとして生かされていた。
生きていたのではなく、生かされていた。
意味も意義もないこの世界に何の価値も見いだしていなかった。

裏社会ではそれなりに名の通った殺し屋で、神出鬼没のレッドデビルという二つ名まで付いていた。

ある日、依頼を終えてアジトへ戻ると物凄い死臭がした。
夥しい血の臭いも。

開け放たれたままになっている扉を覗けば、赤いペンキをひっくり返したような部屋。
ペンキと違うのはシンナーではなく鉄の匂いであること、赤には肉片が混じっていること、そして、

地面に伏している元人間から流れ出ていることだった。


「(……死んでる)」


ぐるりと部屋を見回せば、微かに違和感がある場所を見つけた。

きっとそこにいるのだろう。
この惨劇を生み出した人物が
そして殺してくれるのだろう。
生きながら死んでいる自分を



「殺さねーの」



返事はない



「抵抗とかしねーし、こいつら皆殺せる奴にかなうわけねーし、さっさと殺れよ」



返事はない



「殺せよ!!誰かの代わりに人殺しするしか能のない俺なんて!!!」



『感情、あるんですねー』



平坦な声が返ってきた。
藍色の霧が拭われたかと思えば、そこにはエメラルドの髪を持つ若い女性がいた。

『代わりじゃありませんよ』

感情を読ませない瞳だった。
感情を悟らせない顔だった。

『貴方はちゃんとこの世界に存在してるじゃないですかー。誰の代わりでもない貴方はここで息をしているじゃないですかー。』

何かを諦めた声色だった。




『勝手に諦めんなよ』





その言葉には敬語も殺気もなくて、伝わってくるのは怒気と少しの嫉妬のようなもの。
美しい翡翠に正面から見据えられ、俺は生まれて初めて涙というものを流した。




それから俺はボンゴレファミリー独立暗殺部隊ヴァリアーに入隊して、あの方の部下になった。

俺には霧と嵐が半々くらいで流れていて、霧で姿を隠した後に嵐でカウンター攻撃を仕掛けることができるため重宝された。

DからSまであらゆる難易度の任務を片っ端からこなし、あらゆる手段を用いて霧部隊の中からのし上がっていった。


『何かめっちゃ頑張ってるみたいですけどー。ミーを幹部から引きずりおろしてやろーみたいなこと思ってます?』


数ヶ月が経った頃、あの方のほうから話しかけてくださった。

嬉しさを隠すことなく駆け寄った俺にかけられたのはそんな言葉。

とんでもない、と思った。
あの方の地位を奪うなんて恐れ多い。それに…

頑張ってる、と言ってくださった。
あの方が、俺を………

「いえ!!」

即座に否定した。
突然の大声にあの方がぎょっとしている。

『?』
「俺…俺、貴女の側で戦いたいんですッ!!!だから、貴女に少しでも追いつくために…っ!」
『はい…?』

ピシッと直立不動の姿勢で宣言した。
小首を傾げたあの方の大きな被り物の向こうで、金髪の彼から殺気が飛んでくるのを感じる。
何故殺気を向けられるのか、そのときは理解できなくてあの方と同じように首を傾げた。


「おいテメー。そこのワカメモジャ毛のガキ!」

その後、だだっ広い廊下を歩いていたとき、その声は後ろからかかった。
あれ?ひょっとして俺?
と思った瞬間、俺の顔と両側と頭上をナイフが通過していった。

ギギギギと振り向けば先ほど殺気を飛ばされた金髪…もうまだるっこしいから名前でいう。ベルフェゴール様がいた。
ずんずん近づいてくるその人のあまりの殺気に俺は後ずさり、壁に追い詰められた。

「えっと…何か御用ですか?」
「御用ですかじゃねーよサボテンにすっぞ。何なんだよさっきの」
「さっきの?」

え?さっきの?それとも殺気の?

俺が首をかしげているとドスドスドスっとナイフが刺さる。
俺は本当に何のことか分からなくて焦った。


「カエルに言ってたことだよ!どういう意味だ!」
「……言ったままの意味なんスけど」
「あ゛!?」
「俺、あの方にスカウトされて入隊したんで…あの方が目標なんスよ。」
「………あ?」

ベルフェゴール様の肩がカクっと落ちた。
俺は文字どおりの意味で言ったのに、ベルフェゴール様はどういう意味でとったんだろう。

「あー…そういう…いや別に分かってたけど…?俺王子だし」
「はあ…」

何時も思うが王子って何のことなんだろう。自称だったらかなり痛い。
でも本物だったらそれはそれでやばくね?モノホンの王子が殺人鬼してたらやばくね?

顔をそらしてブツブツ何か言っているベルフェゴール様。
そーっと耳を澄ませてみると、

「じゃあ…別にアイツのこと好きとかじゃ…でも言葉通りって……尊敬とか…?いや別にこいつがアイツのことどう思ってよーが関係ねーし……俺の知ったことじゃねーし…あー…何かスッキリしねー…何かムカつくんだよなぁ…」

「(あ、なるほど)」


ベルフェゴール様、あの方のことが好きなのか。
いやもちろん俺も大好きだけど、敬愛だし。
たぶんベルフェゴール様は…恋愛的な意味であの方が好きなのだろう。


「(いつもあの方に酷いこと言う人だと思ってたけど、あれって気を引きたいだけかー………子供かよ)」


俺としてはあの方に危害が加わらないのなら何でもいい。
あの方を好いてくれているのならそれは自分のことのように嬉しいし。


「特に応援はしないッスけど、頑張ってくださいね!」
「は?何が?」


このことがキッカケでベルフェゴール様が俺によく話しかけてくれるようになった。
話の内容はあの方のことが大半だけど、どうやらベルフェゴール様は自身の気持ちに気づいてないようだ。

前途多難だなぁー…と思っていたけど、ある日そうでもないと気づいた。


『ちょっとーそこのくせ毛くーん。えーと名前なんだっけ…そーだアカヤさんでしたね確かー』
「はい!!!」

任務の入っていないオフの日。鍛錬中にあの方が声をかけてくださった。
しかも名前まで呼んでくださった!

「ご用がおありですか!?」
『あー…ちょっと聞きたいことが…ありまして』
「何なりと!!!」

俺はあの方のお役に立てそうなまたとないチャンスに目を輝かせた。

『最近、堕王子あんにゃろーとよく話してるみたいですけど、何の話してるんですかー?』

堕王子あんにゃろー…?俺がよく話してる…?
あ!

「ベルフェゴール様ですか?」
『そーです。あの金髪くるくるナルシスト自称王子ですー』

…何故だろうか、いつもよりも毒舌が3割り増し(俺的に)くらいに思える。

「いえ、特には…。世間話です」

嘘は言ってない。
あの方に盲信する俺だが、人の恋路(しかも無自覚)を本人に暴露するほど鬼じゃない。悪魔だとは言われてるけど。
まあ正確に言うと「(貴女についての)世間話」になるわけだが。

『…ふーん。』

あの方の声色が変わった。
どことなく…拗ねているような。


『ちぇー…何だよあの堕王子ー…ミーには顔合わせるたびにナイフ投げるくせに…部下とはフツーに話すとか…思考回路ワケわかんねー……いや別に?ミーに関係ないけど?堕王子が誰と何話そうがどーでもいいけどー…』


ブツブツと小さな声で独り言を仰っているあの方。
そして俺はぴーんときた。

「(あの方もベルフェゴール様のことが好き!?)」

微かに耳の先が赤くなっていることを術士特有の観察眼で見抜いた俺のやることは決まった。


お二人の(とゆーかあの方の)恋を成就させるッ!!!


俺はこの数ヶ月後に昇進し、あの方の補佐として大抜擢された。つまり幹部補佐官だ。
諸手をあげて喜ぶ俺を、あの方もベルフェゴール様も祝福してくださった。

それから俺は二人を何とか普通に会話させようとした。

喧嘩腰になるベルフェゴール様を宥めて、あの方が吐く猛毒を緩和させて…




けれどそれは…あの日にひっくり返った。




《おやすみなさい、さようなら》


「────────ッ!!!」



無線から聞こえた最期の言葉。
あの方の涙が、悲哀が伝わる。
自分は少しも力になれていなかった。
無力感と絶望感が体を支配する。



気がつけば俺は、

自身のエモノで首を掻き斬っていた。





申し訳ありません。
申し訳ありません。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、貴女の力になれなかった…!
俺は少しでもいいから貴女の支えになりたかっただけだった…!

生まれ変われるなら、また貴女の側にお仕えできるなら、

今度こそ…貴女の……





「フラン様………っ!」




赤の海に沈んだ。
奇しくもあの方とお会いした時のように。



……………………………………

たぎりすぎたこの設定。
本編で使いたくて仕方がない。
朝霧様、リクエストありがとうございました!

赤也の武器ってなんですかね?鉄爪か鎌かナイフか…?


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bkm