今日も今日とてヴァリアー1のバカップルは元気だ。
「フラン!王子と一緒にゲームしようぜ?」
『ミーは今本読んでるんです目ぇ腐ってるんじゃないですかむしろ頭ですか神経ですか今すぐ移植手術を受けてくださーい』
「心配しなくても俺の目にはフランしか映ってないぜ?」
『寝言は寝て言うものですよ永眠しろ』
ソファに三角座りをして分厚い本を読むフランを背後からソファの背もたれごと抱きしめるベル。
砂糖とミルクをたっぷり入れたでろでろミルクティーのようなセリフを吐くベルに対し、フランの言葉は冷え切ったコーヒー並みに冷徹無糖だ。
フランの毒舌はいつもの通り。
しかしそれに本心が全くないとは限らない。
ベルは考えた。フランは本当に自分を鬱陶しがっているかもしれない、と。
彼女に嫌われてしまうのだけは避けたいベルは目の前にある翡翠の頭を撫でまわして頬ずりしてキスを落としたい衝動を抑え込む。
「…そっか。じゃ、俺マーモン誘うわ。じゃあな」
『っ?』
思った以上に冷たい声が出ていたとは知らず、ベルは談話室を後にする。
目指すは金勘定をしているであろう同僚マーモン。
その遠ざかる背中をフランが呆然と見ていたとも知らずに。
『(…え?今のベル先輩の声…ですよね?いつもより低いような気が…ミー何か怒らせるようなことしまし…たよね。いつもしてますけど。でもミーいつもあんな感じですよ?今日だけ特別冷たかったとか毒吐きすぎたとかないしー…いやむしろそれ?それが悪いんですかー…?)』
ちょっと青くなった顔色のまま手に力を込めると開いていた本のページをぐしゃりと握ってしまった。うわ、しわくちゃ。まあいいやどーせ師匠に貸してもらったヤツだし。
それにしてもどうしていきなり…
「嫌われちゃったんじゃないの〜?フランちゃん?」
ギクリ。
真後ろから聞こえた声に息が止まりそうになる。
振り返れば暑苦し…いや迫力がある目に痛い色彩と目に優しくない顔をしたルッスーリア先輩。
「ちょっとぉ!言い直して酷くなるってどういうことよぉ!」
『心を読まれた…だと…?』
「最初から全部口に出てるわよ!」
『最初?』
「え?から。」
ホントのホントに最初からだった。
どうした術士。ダメダメじゃないか。
『嫌われるって、何がですー?』
「あらやだ分かってるんでしょ〜?ベルちゃんによ!」
『…………』
…そりゃまあ。
ミーは素直じゃないし(自覚済)可愛くないし(容姿も性格も)甘えられないし(羞恥心)頼れないし(片意地)好きの一言もキスの一つも言えないできない恋人だ。
むしろこれ恋人?違くね?
ぐっと口を真一文字に閉ざしてしまったフランを見て、ルッスーリアは提案する。
「よしっ!こういうときは胃袋を狙うのよ!」
『槍で?』
「誰が暗殺方法の話したよのぉ!」
さっと師匠より短い三叉の槍を取り出すと叩き落とされた。
…何すんだこのオカマ。師匠からもらったものなんだぞコノヤロウ。
『じゃあ何ですかー?』
「お菓子を作りましょう!」
…はいー?
ミー、生地こねてるなう。
ぺたぺたぺちぺちクリーム色の丸くてすべすべになったクッキー生地。
それを薄く延ばして銀の型で抜いて並べてオーブンに突っ込めば出来上がりである。
「フランちゃんなかなか手際がいいわね〜お菓子作ったことないって本当?」
『そんな裕福な生活してませんでしたからねー。でも料理はしてたんでそれでじゃないですかー?』
「これでベルちゃんもいちころよ!」
『命が?』
「だからすぐ暗殺方面に持ってくなやゴラァ!」
ルッス先輩の大人の溜息も聞けたところでチーン。
あ、ご愁傷様てきなあれじゃないですよー。オーブンの音ですからねー。
「綺麗に焼けてるわぁ!これならベルちゃんも」
『イチ殺ー!』
「変換がおかしいわ!?」
適当な大きさのバスケットに薄緑色の紙ナプキンを敷いて焼きたてのクッキーを入れる。
見栄えのいいそれは手作りとは思えないほどだ。
「はい、じゃあいってらっしゃーい」
『ではまずボスのところに』
「目的地が違うわ!?ベルちゃんのところでしょ!」
『チッ…』
のらりくらりとベルを避けようとするフランの心境が分からないほどルッスーリアはデリカシーの無い人間ではない(ルッス先輩人間なんですかー?)(お黙りなさい!)
むしろ他の遊び相手にマーモンを出したベルの方こそデリカシーがない。
フランは未だに自分をマーモンの代用品だと思っている節がある。
だからこそベルがマーモンよりも自分を優先してくれることを心から喜んでおり、常に望んでいる。
冷たい声色で「マーモン誘うわ」なんて言ってしまえば、それは「お前いらない」という意味に取られかねない。
「(本人はまだ無自覚…ベルちゃん運がいいわねぇ〜)」
『ルッス先輩…やっぱり行きたく「とっとと行けやゴラァ!」げろっ!』
いつまでもグダグダしているフランにもう一度大人のため息が行使された。
その頃マーモンの部屋では
「あ゙ー!マーモン今ズルしたろ!」
「してないよベル。妙な言いがかりつけないでくれる?」
「王子がこんなに負けるわけねーじゃん!まだ負けてないけど!」
「このまま行ったら確実に負けだね。ベル約束守ってよね」
「…やっぱさ、王女のカッコじゃなくて金にしよーぜ」
「それも魅力的だけど研究邪魔されて付き合わされた腹いせの方を優先させてもらうよ。いくら本当はフランに着せたかったとは言えね」
「だってさぁ…フランマジでウザそうなんだもん俺のこと。嫌われたくねーじゃん」
「そんなセリフがベルから聞けるなんて夢にも思ってなかったよ」
「あーあ…今何やってんのかなフラン。あー!抱き締めてーしキスしてぇ!」
「…扉の向こうで聞き耳立ててるよ」
「へ?」
「どんな奇怪な喧嘩だか知らないけど僕を巻き込まないでくれるかいバカップル。さっさと出てって好きにいちゃつけばいいじゃないか」
そう言ってマーモンはフードから触手を伸ばしてベルを部屋の外へと追いやった。
放り出されたベルの後を追うようにピンクのふりふり王女コスチューム一式が降ってくる。
「扉の向こうって、誰もいねぇ……ん?」
ベルが何もない廊下の一角に目を向けたとき、ほんの一瞬だけ空間が藍色に揺らいだ。
常人なら見過ごすその一瞬は天才ベルフェゴールに確信をもたらすには十分な時間だった。
「フランみーっけ!」
『ぎゃあぁあ!?本気の嵐の炎とか殺す気ですかあんたー!』
「だってこれじゃねーとフランの幻術破れねーじゃん」
フランの本気100%の幻術ならベルの嵐の炎でも破れないかもしれないが、今日はやけにあっさりと分解された。
本領発揮できていなかったのだろう。
「フラン、本読み終わった?王子が構ってもオッケー?」
『…別に』
ぼすっ!という間の抜けた音と共にベルの胸に押しつけられたバスケット。
こんがり美味しそうに焼けたいくつものハート型が山盛りだ。
「俺にくれんの?フラン手作り!?」
フランはそれには答えず、ただ小さな声で
『別に、いつ構ってきても、良いような悪いような…まあ、良いですよー…』
その言葉を聞いたベルはバスケットが潰れないように片腕でフランを抱き締めた。
ツンデレ翻訳:いつ構ってきてもいいっていうか構って欲しいですー…
隠し味は素直な気持ち
(フラン、これ着て王子にあーんしてよ)
(は!?何でミーがそんなっ…………い、一時間だけなら)
(やりぃ!フランちょー可愛い!愛してる!)
(…………………ミーもちょっとだけ同感してあげますー)
(オイ、何だありゃあ)
(でろでろミルクティーっていうか砂糖とハチミツと生クリームを入れた紅茶みたいになったわ)
(やめろぉ!想像したら吐きそうだぁ!!)
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はい!お久しぶりです!何とか単位を落とすことなく前期を乗り越えた小手毬でっす!
大学生の夏休みが長すぎる上に宿題もないぜやっほぃ!とかいってワンピに浮気中でございます。
久々の更新は、
あんまりしつこいと嫌われるかもと思ったベルに冷たくされて嫌われたかもと思いデレるフラン。
朱鷺さまのリクエストでしたー
企画の更新久しぶりですねホント!
いちいいやたらと長くするからですよね…分かってるんです…orz
これからしばらくの間、ベルは毒を吐きかけてやめてデレるフランが堪能できます。
王女の格好したかって?……………それはどうでしょうねぇ(ニヤニヤ)