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例えばのお話
例えばのお話


例えば、眠りにつく時

例えば、暗やみに包まれた時

例えば、夕日が沈む時

例えば、朝目覚めるとき時

例えば、人を殺した時

例えば………





貴方の笑顔を見た時


 


「それが何?」
『大したことじゃ、ないですけどー』

最近フランの嘘が見抜けるようになってきたようだ。

特にどこがどうってわけじゃない。強いて言うなら王子の勘、恋人の勘。
何かを隠したがっていて…強がっているときは特に、よく分かる。

「大したことなくても、話して?」

こういうときは飛びきり愛を込めて耳元で囁く。
すると傍目には分からないけど俺の腕の中にすっぽり収まるフランの身体から力が抜ける。
愛されることに慣れていないフランは、俺の与える愛に弱い。
拒否されることもあるし、恐怖に近い表情をするときもある。
けれどそれは慣れていないからであり…失うことが怖いから。

いつか慣れてくればいい。俺はそれまで何年でも待てるから。

そして願わくば、俺の愛に溺れればいい。

溺れて、沈んで、それがなければ呼吸もできないほどになればいい。

…こんなこと、こいつには言わないけど。


『怖くなるんですよ』
「怖くなる?夕日見たりするときが?」
『はい』




例えば、眠りにつく時

次もまた目を開けられるか分からなくて怖くなる


例えば、暗やみに包まれた時

このまま溶けて消えてしまうのではないかと怖くなる


例えば、夕日が沈む時

もう二度と見ることはできないかもしれないと怖くなる


例えば、朝目覚めるとき時

存在があることに安堵して同時に見えない未来に怖くなる。


例えば、人を殺した時

この死体のように残ることがない自らの存在に怖くなる。




例えば、貴方の笑顔を見た時




この笑顔が自分を忘れた世界で輝くことに…怖くなる。辛くなる。苦しくなる。悲しくなる。


泣きたくなる。




後ろから抱きしめている俺からは、フランの顔は見えない。
けれどその唇から漏れる言葉は俺にしか分からないくらい小さく揺れていた。

毒と偽りばかりの、自らを隠すことに大変長けた恋人の口から吐露された本音がどうしようもなく嬉しくて…悲しかった。

少し俯いたエメラルドグリーンの髪をそっと撫でる。
つむじに軽くキスをして、腰に回している両腕に力を込める。

もう二度と消えないように
ここに存在していることを確かめるように


「大丈夫。」
『な、にが…です?』
「もう怖くないだろ?フランはここにいるんだから。居場所があるんだから」


頭を撫でていた手で優しく顔をこちらへ向ける。
紅と碧の瞳に浮かんだ涙が美しくて儚かった。










例えば、眠りにつく時

自らの存在が分かるように抱きしめながら眠ろう


例えば、暗やみに包まれた時

消えることがないようにきつく手をつないでいよう


例えば、夕日が沈む時

2人肩を並べておいしいドルチェを食べよう


例えば、朝目覚めるとき時

ベッドの中でこっそりいたずらの作戦を立てよう


例えば、人を殺した時

不安に思う前に肉片と血液に変えてしまおう




例えば、お前に笑いかけた時

その涙が零れれるより前に、俺が全て飲み込んであげる。

顔中にキスを落として有りっ丈の愛を注いであげる。




怖がらないでほしい。
悲しまないでほしい。
苦しまないでほしい。
幸せでいてほしい…否、

俺が幸せにするから


「だからもう、怖がるなよ。…フラン」
『…はーい。』


素直に返事をしたフランは、1つだけベルフェゴールに言わなかったことがある。




例えば………今この瞬間が、怖い。

まだ現実味を帯びないこの時が怖い。

自らに触れるこの手が、自らを抱きしめるこの腕が、自らを愛してくれるこの人が、

……………ホンモノである確証が持てなくて。




だって、こんなの…夢でないと何故言える?

フランは自らの幻術をちゃんと評価している。

世界で三本指に入る術者であることを自覚している。

だからこそ、




これが自ら創り上げた幻想世界だという可能性を否定しきれない。

もしもこれが、幻だったなら。現実ではない夢だったら。


それは、どうしようもなく優しくて、愛しくて、焦がれていて…



なんて幸福で醜悪で陰険な夢だろう?



この夢から覚めてしまったら、きっと自分は壊れてしまう。
二度と元には戻らないほどに粉々に砕けてしまう。




怖い。


怖い。


怖い。



………愛しい。


『せーんぱい、』

「ん?何だよ」

『ホットチョコレートが飲みたくなりましたー。談話室いってルッス先輩に作ってもらいましょー?』

「しししっリョーカイ。…お前の好物ってマジで六道骸と似てるよな」

『あんな人型パイナポーと一緒にしないでくださーい。侮辱ですー』

「せめてパイナポー型人間にしてやれよ…」


頬に伝い続ける涙を誇るべき幻術で隠して立ち上がった。

それに続いて立ったベルフェゴールは気づいていた。

ベルフェゴールは全て知っていた。彼女の不安に気づいていた。



(大丈夫、)
(今度はいくらでも時間があるから)
(ゆっくり、ゆっくり、)
(幸せを積み上げていこう)




…………………………………


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