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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -
 


 暗殺の時間



今日も今日とて私が所属しているE組の教室は遠い。

昔から体育は割と得意な私には面倒だなー程度にしか思わないけれど、きっと他の人特に女子には厳しいんじゃないかと思う。

よく言えば趣がある、悪く言えばぼろい校舎。私は慣れた動作で靴を履き替え廊下を進む。

今日は少し早く教室に着いたから、今のうちに銃の手入れをしておこうと思う。
机の中から取り出したのは手にあまるほど大きな拳銃。
弾倉(マガジン)を取り出して弾を確認したあと、テイクダウンレバーを引き分解して錆び防止のオイルを塗っていく。昨日は少しでも早く打てるように引き金を軽くしておいたけど狙いがブレたからもう少し重くしよう。
グリップも手に合わせて調節したいところだけど、あんまり弄ると弾倉が入らなくなるしな…


途中のコンビニで買った小さなロリポップを咥えつつ、ガチャガチャと拳銃を弄っていると面白くなってくる。私はナイフや拳銃を改造するのが好きだ。
私は菅谷くんのような美的センスはないけれど防衛省から配給される面白味のない武器を改造して実用性を上げることができる。


「よう、沢田。昨日頼んだヤツできたか?」
『おはよう寺坂。できたけど、これ当たると思う?ブービートラップにしても避けられると思うけど』
「俺に考えがあんだよ。威力はどんくらいだ?」
『中に込めたのはBB弾だし、人は死なないかな。でも至近距離で爆発させたら人間でも怪我はするから使い方は気を付けて。約300発の対先生弾が飛び散るように火薬を使ったから』
「すげぇな…火薬なんてどこで手に入れたんだよ?」
『…ちょっと伝手があって』

昨日家に遊びに来ていた獄寺くんにもらったとか言えないよ。
ちょっとでいいって言ったのに段ボールごとダイナマイト分けてくれるもんだから管理に困る。

見た目はただのちゃちな玩具に見えるそれを寺坂に渡そうとして、私は寸ででとまる。

『寺坂、本当に使い方考えてるよね?』
「当たり前だろッ!!」

深い琥珀色…鳶色とも表現される瞳を一層細めて寺坂を見れば、明らかに動揺している。

『…下手な使い方したら、明日あなたの行く先々にトラップしかけるから』
「陰湿な上に危険だな!!!」


間違いなく危ないことをたくらんでいる寺坂に、私は警戒する。
私の手掛ける武器は、あくまで対先生のもの。人間を傷つけるものじゃないんだから。


そうこうしているうちにショートホームルームの時間になった。

ペタン、ペタンと餅のような音を立てながら教室に入ってくる約3メートルの巨人…ではなくタコっぽい謎の生命体。

毎朝クラス全員は黄色のシューティンググラス越しに"それ"に挨拶をする。


「HRを始めます。日直の人は号令を!」


タコっぽい謎の生命体…もとい、私たちの担任の先生に。


「…き、起立!」

今日の日直の掛け声で一斉に立ち上がり、それぞれがジャキッと銃を取り出す。種類は様々。ライフル、ショットガン、サブマシンガン、リボルバー…etc
私はオートマチックピストルを愛用している。いわゆる自動式拳銃だ。回転式拳銃は弾詰まり(ジャム)がないことが利点だけれど、弾数が少ない。私は数を優先している。
その代わりいつジャムってもいいように最低でも3丁は替えの拳銃を用意している。

「気をつけ!」

油断も隙も無く狙いを定める。
しかし私はまだトリガーには指をかけない。

「れーいっ!!!」

もちろんするのは礼じゃなくて発砲。
みんなが発砲し、先生がそれを避ける。私は一瞬遅れて発砲。先生がみんなの弾を避ける先をできるだけ予測して撃っていくけれど…うん、当たらない。
残像ができるほど早い的に当てるとか無理ゲー。

「倉橋さん……沢田さん、」
『はーい』

名前を呼ばれる間にも撃ち続ける。これ、全部で何発あるんだろ。

今日も一発も命中どころか掠りもせずにホームルームが終わる。
私はため息をついてほうき片手に立ち上がった。

「遅刻無し・・・と。
素晴らしい!先生とても嬉しいです」

私達はあなたが生きてるので嬉しくないですけどね。

毎日こんなのの繰り返しだ。




ことが起こったのは、5時間目のこと。

国語は得意。っていうか私はこれといった苦手教科はない。
得意教科は英語と国語。強いて言うなら理科がちょっと苦手かな…

授業は短歌を作るというもの。それも最後の文を「触手なりけり」で締めるという…

『(あいつだったら触手っていつの季語なんですかー?とか聞くんだろうな。…嫌がらせに)』

もうすぐ停学が解ける、私が知る限りでは4番目くらいの問題児。ここ椚ヶ丘中学だけでいうならぶっちぎり一番の問題児を思い浮かべる。

と、私がシャーペンを持ったままぼんやり考え事をしていると、潮田渚くんがおもむろに立ち上がった。
短歌の紙の影には対先生ナイフが。

でもそんな捻りのない方法であの先生が殺せるかな…

私がそう思っていた通り、潮田くんのナイフは先生の触手に止められる。しかし、


『(なんか、嫌な予感がする…まさか、)』


脳内にチリッとイエローシグナルが点滅する。
先生の首(?)に手をまわして密着した潮田くんの首から下がっているものは、

「もらった!!」
『全員伏せて!!』

バァアアンッ!と激しい爆発音と爆風が教室内に響く。
獄寺くん御用達の火薬だ、少なくとも威力は十二分。

BB弾とはいえ至近距離からくらった潮田くんは…

「っしゃあやりぃ!!百億いただき!!」
『寺坂…私の言ったこと忘れたの』

声が低くなる。表情には出ないけど。

「報酬なら俺の百億から払ってやるからぴりぴりすんなよ沢田!渚の治療費だって…」

寺坂の言葉が途切れる。
潮田くんには怪我がなかった。薄くて透明な膜に覆われているからだ。

「実は先生、月に一度ほど脱皮をします。脱いだ皮を爆弾に被せて威力を殺した。つまりは月イチで使える奥の手です」

先生は触手を広げて天井に張り付いていた。
顔色は今までに見たことがないくらいどす黒い。怒り心頭ってやつだ。

「寺坂、吉田、村松。首謀者は君等だな」
「えっ、いっいや……渚が勝手に」
『そうでーす。この3人が潮田くんに手榴弾を渡しましたー』
「なっ…沢田!!」

うるさい肝っ玉の小さいガキ大将が!
私の手榴弾を自爆テロに使ったこと、そしてさも自分が用意したかのように自慢したことの報復だばーか。
すると先生は一瞬で消え、戻ってきたときには手一杯に…否、触手一杯に表札を持っていた。

「政府との契約ですから、先生は決して"君達"には危害は加えないが、次また今の方法で暗殺に来たら"君達以外"には何をするかわかりませんよ」



おいちょっと待て。

表札があるってことは家にきたのか、先生。まさかまさかリボーンに目撃されてないだろうな…いや絶対見てる。だってリボーンだもの。

このタコっぽい担任の先生、茅野さん命名"殺せんせー"と同じくらいに弟の家庭教師"リボーン"は超次元だ。

くそ…どうやって誤魔化そう…


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ミコの脳内問題児ランク

1位、雲雀(暴力反対)
2位、笹川(うるさい馬鹿)
3位、獄寺(爆薬をしまえ)

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