『ったく、あいつらは…』
「もう許してあげてよキャプテン。こうやって観光できるんだし」
『海賊が観光、ねぇ…』
ボソッと不満を漏らすローだが、船員の前では滅多に言わない。
自分が船長であるという自覚は十二分に持っているからだ。
だから、信頼しきっている旧知のベポや側近のシャチたちといる時くらいしか言わない。
ここ、ニホンという国は戦争も内乱もなくとても穏やか。
海軍の監視網はザルも良い所だったし、ここら辺は潮の流れが特殊だ。
荒くれのチンピラ海賊にはたどり着けないのだろう。
『なかなか変わった文化みたいだしな…医学書買ってくか』
「また!?」
彼女の趣味は医学書集め。
各地で買い込んだ大量の医学書は全て彼女の頭の中に完全コピー、完璧編集までされてい る。
「その前に何か食おうよー…」
『…そうだな』
ぐきゅるるる、と鳴るお腹を押さえるベポの姿にふっと口元だけ笑って辺りにある飯屋を探そうとした所、
ガシッ
突然腕を捕まれた。
この国では目立つと思って袖で隠していた刺青の上をガッチリと誰かの腕が掴んでいる。
『(ほかの海賊か!?)』
油断していた。
この国は平穏すぎたため、その空気に呑まれて警戒を怠っていた。
この国の法律に則って船内においてきた自らが得物、大太刀"スノーティア"もない今、ローは完全に丸腰だ。
『しまっ「貴女!中学生でしょ!?こんな時間に何でここにいるの!」
『……はぁ?』
つい間抜けな声が出た。
え?何こいつ。
ローの腕を掴んだのは中年のおばさん。
濃い化粧の匂いがきつい。
『…いや、何言って…「学校はどうしたの!サボっちゃだめでしょう!?」
『嫌、俺たちは「まだ若いんだから、しっかり勉強しなきゃ!」
『ここ来たばっかr「あら、外国の人!?どれくらい滞在するのかしら?」
『2・3ヶげt「なら学校に通わなくちゃよ!おばさんが手配してあげるわ!」
は・な・し・きけぇええええ!!!
何このおばさーん!何ていうんだって、ガトリング…違うそこまで攻撃力ない。マシンガン…そうだ、マシンガントークだ。
ローが現実逃避とも言える言葉をつらつらつらつらと脳内に並べている内に、瞬く間におばさんは電話をかけてかけてかけまくり…
約15分後。
「貴女、明日から立海大附属中学に転入でき るわよ!学年は2年だからね」
『2、年…って、何歳の…』
「14歳に決まってるじゃない!良かったわね!」
え、ちょ、俺24歳!中学校?しかも二年? 10歳若いわボケェェェェエエ!!
ねぇお願いだから話聞いて!話させてぇぇええ!
船帰れば医師免許あるんだってば!ちゃんと世界共通のヤツ取ったの!
よかったわね?良くない良くない!学校とか何年も前に辞・め・た!!
そして勉強ならしてる!偏ってるけどしてるっつーの!!
「…どんまい、キャプテン」
ぽんっ、とベポが柔らかい肉球のついたふわふわの手を俺の肩に置いた。
「は?補導?」
「そんなんに捕まったんスか船長!だっせぇー」
…こいつらにどうやって説明しよう。
説明したくない嫌すぎる。
誰か助けて。へるぷみぃ。
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