官服の袖に隠すようにして兎(?)を王宮の私室へ連れて帰る。
怪我をしている右手を消毒して包帯を巻いた。これくらいでいいだろう。
お腹がすいているかもしれないと思い、厨房へこの子が食べられそうなものを取りに行った。
ガチャッ
私が部屋へ戻ると、ベッドの上で黄色いものが動き、すぐさま布団の中に消えた。
起きたようだ。
「目が覚めましたか?」
『ぴっ…』
少し怯えた声。
森で寝て起きたら王宮なのだ。驚き怯えて当然だ。
「怪我はどうですかね…」
独り言のように呟いてから、先はどの素早い動きからして問題なさそうだと自己完結した。
「おなかは空いてませんか?」
くきゅるるる〜
…………。
「……ぷっ」
なんというタイミング。
思わず吹き出してしまった。
おなかの音で返事をもらったため、もってきた食料をテーブルに並べた。
「あなたがなにを食べるか分からなかったのですが、とりあえずフルーツとココナッツミルクを持ってきました」
空腹に堪えかねてか恐る恐る布団から這いだしてくる黄色。
まん丸な黒い瞳に私が映る。
…愛玩動物の権化のような可愛らしい顔立ちだ。
ぷにぷにした身体からは想像しにくい軽やかなジャンプでテーブルに乗ると、ココナッツミルクの入った平たい皿を嗅ぎ始めた。
危険はないと判断したらしいが匂いをかぎ終わった後、私の顔を見上げた。
…許可でも待っているのでしょうか?
「どうぞ。」
『ぴっか!』
まるで言葉を理解しているような反応だ。
私がどうぞというと、途端に嬉しそうにミルクを飲み始める。
「おいしいですか?」
『ぴっかちゅ!』
にぱー!と口元や目を緩めている顔は、明らかに笑顔だ。
鳴き声も返事と見ていいような気がする…
「…言葉が分かるんですか?」
『ぴかぴかちゅー』
ひょっとして、と聞いてみればちょっと得意げに頷かれた。
そんなまさか、
「こんなにも知能の高い動物は初めて見ました…あなたは何なんです?兎?」
『ぴかぴか』
首を左右に振る。
長い耳がぷるぷる揺れた。…可愛い。
「ではネズミ?」
『…ぴかちゅ』
そう問えば少し考えるように黙った後、複雑そうな顔で頷いた。
「ネズミですか…しかし言葉も分かるようですし…あの感触…」
大事な書類をかじられてしまうかも…でもこれだけ知能が高ければ言えば分かるかも…しかし素直に話を聞いてくれる子だろうか…………あの感触が捨てがたい。
「あなた、私に飼われる気はありませんか?」
可愛らしく小首を傾げて見上げられた。
もう…首輪をつけてでも愛で続けてしまいたい!
…………………………
ヤン…デレ?
いやいやピカチュウですから。
ジャーファルさんはただ癒しが欲しかっただけですよたぶん。
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