知れば知るほど嫌いなはずなのに
とりあえず俺がディアナと1日行動を共にして分かったこと。
1つ。とろい。
俺が5歩で進む距離を8歩はかかるし時間にすると倍くらいかもしれない。
のたのたと鬱陶しいから腕をつかんで引っ張って歩いた。ディアナが嬉しそうにくっついてくるから歩きにくいし心臓が煩くなった。うぜぇ。
「さっさと来やがれ。授業間に合わねーぞぉ」
『スクアーロ歩くの早いんだもん…』
「おら、歩け。ってあんまくっつくんじゃねぇ!」
『手つかんだのはスクアーロなのに!』
2つ。馬鹿。
勉強道具を必要ないものまで持ち運んでやがる。だからますます歩く速度が遅くなる。
さらに勉強ができない。嫌い。逃げる。仕方ないから俺が横に張り付いてサボらねぇか見張ってなきゃならなかった。
クラス?違うけど別にいいだろぉ?
『スクアーロ…ここ分かんない…』
「こんなの滅多に学校に来てねぇ俺でも分かるぞぉ…」
『だって何でここ13なの?』
「そりゃ…ってここの足し算が違うじゃねーか」
『あ、ほんとだ』
「馬鹿」
『ケアレスミスでしょ!うっかり!』
3つ。ドジ。救いようもねぇドジ。
体中の傷はズッコたちにやられたもんじゃなくて自分で転んで作ったもんじゃねぇのかと思う頻度で転ぶわ転ぶ。
何もないところで何の前触れもなく転ぶもんだから俺は見事に巻き込まれた。
あんなにも天井を見た経験はねぇ。
しばらくすれば何となく転ぶ予兆みたいなもんを察知することができるようになって10回に1回は受け止められるようになった。
「お前はなんでこうも上手く俺をすっころばせるんだぁ…?」
『わ、わざとじゃないの!わざとじゃないの……ごめんね…ごめんねスクアーロ…』
「…まあこれも受け身の修行だと思えばどうってことねぇな」
『スクアーロ…怪我は…?』
「別にこれくらい…って怪我してんのはお前だろぉが馬鹿!!」
『う…べ、別に痛くない!スクアーロ、本当に怪我ないの?』
それが5回に1回になり、3回に1回になり、果ては完璧に転倒を未遂で防げるレベルに達するようになるのは…まあ、後の話だ。
それと、一番驚いたのは…
『ね、スクアーロ一緒にご飯食べよう?』
「あぁ?別にいいけどよ…」
『ふふっ嬉しいな。私、この学校でお友達できるの初めてなの!』
「友達だぁ?そりゃ俺のこと言ってんのかまさか」
『え…ち、違う…の…?』
ディアナの上機嫌だった声色が途端に不安で揺れる。
ぎゅう、とスクアーロのシャツの裾を握りしめて見上げてくる琥珀色の瞳が少しずつ滲んできている気がする。
「ばっ!な、そうだよ!それでいい!!だから泣くんじゃねえ!!」
『っスクアーロ大好き!』
「軽々しく男にそういうことを言うんじゃねえばっかやろぉおおおおおおお!!!!!」
学校一凶暴なスクアーロと学校一弱くて泣き虫でへなちょこなディアナのペアは校内から奇異な目で見られていた。
もちろんディアナは気づいておらず、スクアーロは物ともしていなかった。
その後、2人は同じサンドイッチを買って屋上で食べることにした。ディアナの頭からはすっかり抜け落ちているらしいが先刻彼女が暴行されていた屋上である。
既にズッコたちの姿はなく、屋上はどこも似ているので彼女の印象には残っていないのだろう。
自分よりもはるかに大きい男たちに蹴られ殴られしたことを忘れるなんて、こいつはとんだ大物かもしれないとスクアーロは呆れた。
ぽかぽかと日当りのいい場所に並んで腰を下ろす。
一応スクアーロもイタリア人であるため、彼女に気を使ってカーディガンを床にひいた。
ディアナは嬉しそうにお礼をいってサンドイッチを膝に乗せた。
『スクアーロっ食べよう?勉強したらお腹すいた!』
「それが普通なんじゃねぇのかぁ…?」
普段は頭を使わないからロクに食べていないという意味か。そういえば服の上からではあまり分からないがディアナの手足はかなりがりがりな気がする。
「お前、家にいたときは何食ってたんだぁ?」
『ん?近所のおばちゃんが作ってくれるピッツァとか、あとはファミリーの人が用意してくれるごはん。』
そうだった。こいつ箱入りだった。
スクアーロは頭を抱える。これは…"助ける"の意味が変わってくる気がする。食生活から徹底的に鍛え直さなければいけないようだ。
『いただきますっ』
「?」
『ジャッポーネの挨拶なんだって。』
「ふぅん?」
ばくっ、とスクアーロは豪快にサンドイッチにかぶりつく。
誰かと昼食をとるのはひさびさだが、悪い気はなかった。
それはこいつも一緒なんだろうな…と隣を見て、固まった。
『むぐ…ん、ぅ…んぐ…』
可愛い声を漏らしながら小さな口でサンドイッチを食べている。だけならいい。
しかし…
ぼろぼろぼろ…とサンドイッチの半分ほどがディアナの膝の上に落ちている。
一口食べるごとに一口分の具やパンが零れているのだ。
「ゔぉ゙おい!!!なんっだそりゃぁあああ!!!」
『んぐっ!?す、スクアーロどうしたの?』
「お前がどうしたんだぁあああ!!その悲惨なサンドイッチは何だぁ!?」
『?ちょっと具が大きくて食べにくいね?』
違う。食べにくいとかそういうレベルじゃない。食べ汚いわけでもない。
食べることが、下手なのだ。
いやいやどういうことだ食べることが下手って聞いたことねぇよ!とスクアーロが脳内で1人ツッコミしつつハンカチを取り出してディアナの口元を乱暴に拭った。
スカートの上にある食べこぼしというには盛大すぎる残骸を掃い、その手からサンドイッチを奪い取った。
「もうちょっと零さないように注意して食えねぇのか!?」
『気を付けてるよ!でもちょっと零れちゃうのは仕方ないでしょ?』
「ちょっと…!?」
自分とディアナの中に認識の差があるのかと思った。
箱入りは"ちょっと"を"半分くらい"と教えられるのだろうか。セレブ怖い。
とりあえずディアナにちゃんと昼食を食べさせなければならない。しかしこれ(サンドイッチ)を手渡せばちゃんと食べるというわけではない。半分はゴミになる。ならば残された選択肢は何だ?
「…とりあえず座れぇ」
『?うん』
「で、口を開けろ」
『あー……んむぅ!』
「こうするほかねぇだろぉ…」
スクアーロは無造作にサンドイッチをディアナの口につっこんだ。
琥珀色を見開いたディアナは、それでもおとなしく租借を始める。
スクアーロは立派な人間でありながら雛に餌をやる親鳥の気持ちになってしまった。
『スクアーロ、私1人で食べられるよ?』
「サンドイッチがかわいそぉだ」
『なんで?』
きょとん、としたディアナにため息をつき立ち上がる。
午後の授業も受けさせなくてはならないからだ。
ディアナは剣を携えた自分の後ろをにこにことついてくる。
純粋すぎる笑顔と瞳を眩しく感じながらその手を引く。
そして考える。
トロい奴は嫌いだ
ディアナは嫌いじゃねぇ
馬鹿は嫌いだ
ディアナは嫌いじゃねぇ
ドジな奴は嫌いだ
ディアナは嫌いじゃねぇ
弱い存在は…嫌いだ。鬱陶しいし目障りだ。たたっ斬りたくなってくる。
でも。
とろくて馬鹿でドジで弱っちいディアナが、俺はどうしようもなく好きだ。
理由なんて…俺が教えてもらいたいくらいだ。
知れば知るほど嫌いなはずなのに好きになっていく不可思議
…………………………
ディアナがダメすぎてイライラした方、ごめんなさい。
幼少期編のディアナは本当にどうしようもないので我慢してください…
スクアーロがいないとダメなディアナにしたいです。
スクアーロマジお母さん!
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