己に不純物が生じた瞬間
スクアーロはしがみついてきたディアナを引き剥がし、しかし乱暴にはせず床に座らせる。
彼女がちらちらと恐怖と心配が混じった視線をズッコにやるため、肉だらけの体をひっつかんで扉の向こうに放った。
『あ、あの…「お前、」え?』
何か言い掛けたディアナを遮ってスクアーロが言った。
もっとも、ディアナは沈黙が続くのに耐えられなくて出した声だったが。
「お前、名前は?」
『え、えっと…ディアナ。』
なんとなく言いにくそうにしているディアナに首を傾げ、スクアーロは再度問う。
「ファミリーネームは?」
『…………ディアナ・キャバッローネ…』
「…キャバッローネぇ!?」
スクアーロの声が裏がえった。
信じられないと言いたげな視線がディアナを突き刺す。
「キャバッローネってあのキャバッローネかぁ!?」
歴史と伝統のイタリアンマフィア、キャバッローネファミリー。
確かボスは今代で九代目になるほどだったはずだ。
イタリアで…というか裏社会で知らない者はいないだろう。
その…十代目が…?
こいつ?
目の前でへたり込んで半泣きで俯いて震えてる小動物みたいな天使みたいな少女が?
「いや無理だろ」
『分かってるよ!私そんなのなりたくないし、ならないもん!』
むぅ、と頬を膨らませてむくれる彼女はどう見てもマフィアの次期ボスの資質はなかった。
…なかった、はずだった。
「気まぐれで助けてやるっつっても俺はあんまり学校にいねぇからなぁ。いつもは助けられねぇぞ」
『スクアーロ、学校きてないの?何やってるの?』
「修行に決まってんだろぉ!!俺は剣の道を極めるために世界中の剣士をぶっ倒してまわってんだぁ!!!」
『せ、世界中!?それに剣士って…危ないよスクアーロ!』
何を言い出すんだこいつは、と言いたげな目で見られたディアナはそれでもめげずにスクアーロの心配をしていた。
あまりにも必死に止められるものだから、スクアーロは仕方なく今日一日はおとなしく学校にいることにした。
…しかし、
「1日に何回呼び出されんだぁテメェはぁぁあああああ!?」
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいー!でもそれ私のせいじゃ…』
「昼から夕方まででもう3回目だ!おかしくねぇかぁ!?だいたい律儀に呼び出しに応じるんじゃねえ!!!」
『だ、だって行かなきゃ待ちぼうけさせちゃうよ?』
「させとけよ…つーか自分リンチしようとしてる輩になんで気ぃ使ってんだアホかぁあああああ!!!」
ドスッ!!と苛立ち紛れに倒れているリンチ未遂犯の真横に剣を突き立てた。
ふわっふわの髪を心なしか萎ませて肩を落とすディアナをこれ以上責めることはできず、スクアーロは重いため息を吐いた。
『本当にごめんね、スクアーロ…もういいよ』
「あぁ?いいってどういう意味だ」
『もう、助けてくれなくていいよ。…私、何も返せないし』
見ただけで自暴自棄になっているとわかる口調だった。そして、諦めも。
自分が情けなくて仕方ない。けれど変わる勇気もない、変える努力もできない。
悲嘆に満ちたその表情だけでスクアーロは胸にナイフが刺さっているような痛みに襲われる。
…するなよ
んな顔、似合わねぇ
「っるせぇな、」
『っ…!』
じわ、と琥珀色の瞳に涙が滲む。
剣を鞘に納めて俯いているディアナとの距離を縮めていく、そして、
ぐいっ
「うじうじ泣くなら変な遠慮してんじゃねぇ!だいたい俺は利益云々でいるわけじゃねーんだよ」
服の袖で乱暴に目元を擦ってやった。
すこし赤くなってしまったのを見て、もう少し優しく拭えばよかったと思った。
『じゃあ、なんで助けてくれるの?』
これまでで一番近距離でハニーフェイスを直視したスクアーロは固まってしまった。
なんで?そんなの俺が聞きたいくらいだ。
なんで俺は、こんなへなちょこに構ってんだ
なんで修行の時間まで割いて助けてんだ
なんで、
『スクアーロ?』
なんでこんなに、心臓がうるさいんだ。
その疑問ががいきつく先は、一つだけ。
「お、まえが、」
好きだから
「放っておけねぇからだぁ!!!」
ただひたすらに血を求めていればいいはずの己に不純物が生じた瞬間
(もう、あとはただ)
(君に堕ちていくだけだ)
……………………………………
久し振りすぎて文章が…って毎回言ってる気がする。
本当に文才ないよう(´Д⊂ヽ
リア友の先輩、ハーデス様先輩(既に固定)に勝手に捧げてみたりみなかったり有難迷惑というやつな気がしたり
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