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  魅せられてしまったこと、それだけ


俺は、強くなるために生きてきた。

強く、強く、ただ強くあろうと。

そんな俺が変わった日

それが、お前と出会った日。











骨のない奴らばかりが闊歩する空間。

俺の通っている学校はそんなところだった。

マフィア関係のガキばかりが通っているというこの学校は、つまるところ暴力と勢力がものをいう場所。
集団行動を学ぶだとか一般常識を身につけるだとかの本来の姿はここにはない。

くだらない。

その一言に尽きる。


そんなもんに興味のない俺は、いつものように突っかかってくる馬鹿どもを切り倒して傘下に加わろうと媚びへつらう阿呆どもを掻っ捌いて、とにかく喧噪のないところへ行きたかった。


うんざりした。


人との関わりは面倒事しか呼ばない。


それが俺の自論だ。





屋上ならば人はいないだろうと思って階段を上っていくと、予想外にも声が聞こえた。

チッと舌打ちをして踵を返そうとするが、下卑た声が耳に届いて足を止める。



「よえ……!お前…とに……ッローネの……りかよ!」

「キャバ………真っ暗…な!………ら俺が………やろ…か?」

「まった………んなのが……だなん……笑っちま……ぁ!」




…ズッコか。

身も心も下卑た野郎。

その不快な声を耳にするのも嫌になり、階段を一気に飛び降りようとした、その時。



『………たす…けて……』



とても小さな声が聞こえた。

肉を殴りつける音、馬鹿でかい笑い声や嘲りの言葉を全てすり抜けて、その声は俺の耳に届いた。

雑音のあるのに、鉄の分厚い扉が隔たっているのに、まるで頭に直接響いたように声がした。

澄んだ声。けれど、泣き出しそうな声。

その声がもっと聴きたくて、けれど涙で詰まらせたくなくて、俺は飛んだ。


下へではなく、上へ。


声のしたほうへ。







扉を開けば、ズッコの巨体とその取り巻き達が目に入る。

あの声は、どこから?

ズッコの足が何かを踏みつけにしている。

金色の、とても綺麗な何かを。

俺はそれが何かを認識する前に剣を振っていた。




赤い尾を引いて倒れた体。

取り巻き達は俺だと気付くとズッコを放って一目散に逃げ出した。薄情?いや、その程度の仲だったということだ。




金色の何かが起き上がる。


そして、


琥珀が俺を映した。


瞬間、あたりが一面に光を帯びたように見えた。







それは少女だった。

いや、少女だろうか…淡く輝く人の形をなしたもの。

琥珀色の大きな瞳も、それに溜まった大粒の涙も、太陽を集めたような金髪も、

この世のものではないくらい、美しかった。


天使だと思った。




とにかく俺は、呼吸も忘れてその地上の天使に見惚けた。




『す、スクアーロ…』



震える声が俺の名前を呼んだ。

頭に響いたあの声と同じだった。

やっぱりこいつだったのか、とまだあまり回らない頭で思った。




ゆっくりと近寄ると、そんなに深い傷でもねぇのに気絶しやがったズッコの体が横たわっている。

「邪魔なんだよぉ…」

それを足で退けながらそういうと、なぜか目の前の少女が肩を揺らした。


『ごご、ごめんっ!今退くから…っ』

ちげぇ、という声は出なかった。
言葉がのどに張り付いてまともに紡げない。
立ち上がろうとしているのに痛みでままならないそいつに手を差し出すだけで精いっぱいだった。


「ほらよ、」

『ふぇ?』


可愛らしい間の抜けた声が耳に入る。
左胸がやけに騒がしい。
ドクドクと過剰に送られる血液が、俺の体中で暴れている。

ぎゅっと掴まれた小さな手が柔らかくて、潰してしまわないか心配になった。
あの琥珀に醜い血を見せたくなくて剣を背に回す。

でも、俺の目線よりやや低い位置にある瞳は、まっすぐに俺だけを見ていた。


「…なに見てやがんだ」

『いや、その…優しいなって…』

「あ゙ぁ!?」


優しい?俺が?

そんなことを言われた経験がなく、つい荒っぽい声が出た。

当然そいつはビクッとはねた。

優しいわけねぇだろ、この俺が。

そんなの、


『ひぃっ!?ご、ごめん!でも、その、助けてくれたから…』

「邪魔だっただけだぁ…」

『で、でも助かったよ…ありがとう、スクアーロ』

「…………」



与えたことのない優しさのようなものも、
ズッコみてぇな雑魚にやられてんのを助けたのも、

そんなの、




お前が、生まれて初めてだ。






「お前、いつからだ?」

『へ?』

「いつからコイツ等に暴行されてたんだって聞いてんだぁ!」

『ひゃあぅ!いいい、いつからって…覚えてないよ…入学してから…すぐくらい』

「チッ!」


そんなに前からかよ…!
ちらりと見やれば細くて白い腕にも足にも青や紫が散っている。

…どうしてこいつにそんな真似ができるんだ。

こんな綺麗なものに、何故そんな色を残せる?



そんなこと……させねぇ。



「………………べ」

『え?何か言った?』

「俺を呼べっつったんだよ!!」



怒鳴る。



『え?え!?いつ!?』

「またこいつらに何かされそうになったらだぁ!!暇潰しに助けに行ってやるからなぁ!!」


言ったこともないセリフを叩きつけるように放った。
惚けているそいつの名前も何も知らないのに、何故そんな言葉が出たのか。



『助けて…くれるの…?』

「ひっ、暇だったらだぁ!!」



信じられない、というふうに向けられる視線に耐えられない。
そんなの俺が言いたいくらいだ。

まさか俺が、そんなことを言うなんて。

弱い奴は大嫌いだったのに。
人と関わるのは面倒だったのに。




悶々と考えていたら、小さな体が俺に抱きついてきた。

一瞬思考が完全にフリーズした。

それがあの少女だと理解した途端、ぶわぁああ!!と体温が爆発寸前まで膨れ上がる。

「なっ、て、テメッ、離れろぉおおおお!!!」
『ふやぁあああ!!ご、ごめんなさいぃ…っ』


天使のように綺麗な貴女に魅せられてしまったこと、それだけが人生最大の不運
(やめろバッカ野郎!!)
(俺を爆発させる気かぁ!?)



…………………………………
このスクアーロをどうにかしてくれ。
いわゆる一目惚れってやつなんですか、それにしても盲目すぎやしませんかね…?

ひさしぶりに書いたから文章ガッタガタですみませんorz

 

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