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  潤み色の世界を変えて


「市、丸……銀露!!」

『何やの、その顔は…倒したはずの宿敵が生きとってそんなに「市丸サン!生きてたんですか!」…うぉぉう!』


ビックリした。


硬直していると思ったらいきなりガッと両腕を掴んできた。

目深に被った帽子の奥にある瞳も驚愕に染まっている。


「何でここに…いやそんなことより早く尸魂界に連絡を…『ちょお…待ちぃや』



おかしい。

何故この男は攻撃してこない。

それどころか一片の殺気も敵意もないなんておかしすぎる。

油断させておいて何か企んでいるのか?

確かにそれはこの男の十八番だが、今の自分にそんなことをするほどの価値はない。



「あぁ…市丸サンは知らないんスね」

『何がや。』


貼り付けていた笑顔を消して下からジロリと睨みつける。

が、そんなものがこの男に効くはずもない。


「藍染は倒しましたよ」

『そらそぉやろなァ。じゃなきゃアンタが今生きとるワケないわ』


そんなことは、今更だ。

ここが前いた世界と同じだということが分かった瞬間にそんなことは理解した。

藍染が生きていたら、この世界が無事なはずはないのだから。


「貴方の無実も証明されてますよ、ってことは?」

『…………はァ?』


ついガラの悪い声が出てしまった。

いつも心がけているポーカーフェイスが剥がれて意志のままに顔を歪めてしまう。


「松本サン達が色々説明してくれたんで。まぁ第一は…」





「アヨンに襲われた時の、鬼道」






ギクリ、肩が僅かに動く。


…しまった。

この男の前では十分すぎる肯定の意。


「こっそり放ったつもりでしょうけど、夜一サンや山本総隊長…他の隊長格にもバレてますよ?」

『…ま、当然といえば当然やな』


あれは本当に咄嗟に放ったものだった。

胸の中心を食い破ろうとしたアヨンを僅かに反らしただけの、ほんの僅かな力だったが自分よりも格上の彼らにはバレたかも、とは思っていた。



それに、



「それに何より、貴方が手にかけた死神たちの傷が浅すぎましてねぇ」

『…よぉ気づいたな』


見た目は派手に見えても急所は紙一重で逸れている切り傷。

殺したように見えて、霊圧と意識のみを刈り取った者たち。


「少々、誤魔化すのがおざなりでしたねぇ」

『藍染はんにバレとんのが分かってんねや。必要なことは聞き出しとったし、もうこれ以上コソコソしとっても無駄やったろ』

「……それが、言い訳で?」

『…………』





…そう、言い訳。


だたの言い訳。


本当は、これ以上傷ついていく彼らを見たくないという自分勝手なエゴ。


傷つけるものはとことん傷つけたのに、最後まで醜く宙ぶらりんな覚悟。


ギリッと奥歯を噛みしめた。




ザザザザザザ………



「お……っとっと。あっれ?霊圧上がってません?」

『そうみたいやなァ。何でやろ?』


早くこちらに情報を渡せ。と纏う霊圧で語った。

時間がない。
あちらの動きを察知するためだけに危険を冒して接触したというのに…


「…尸魂界は先日いきなり現れた巨大な霊圧の正体を探ってます」

『…ボクんや。困ったなァー』

「嘘ばっかり。とっても楽しそうッスよ」


嫌味か。楽しいはずがない。

こんな裏切り者、今更どんなツラを下げて会いに行けというのだ


乱菊にイヅル、日番谷はん、ルキアちゃん、雛森ちゃん…黒崎くん。


数え切れないものを傷つけ貶めて、皆の信頼全てを裏切った。
 


会いたい。逢いたい。

けれども、アイタクナイ…





『ボクにだって…』

「…?」

『…もう、どうすればえぇんか分からんねや…』


自嘲の笑みを浮かべ、誰にともなく呟いた。


「会いたがってると思いますけどねぇ」

『…うるさいわ』




乱菊、乱菊ごめんな。

あの時はあんなに生きたいと、死にたくないと願ったのに。

いざ望みが叶えば体も心もすくんで立ち止まってしまう。




…何処までも醜いボクで、

ほんまごめんなァ…



再び目を閉ざして笑顔を貼り付けた。


「で!死神化はできるんですか?」

『…できへん。斬魄刀はあるで?』

「同じのがですか?」


驚いたように言う浦原に、神鎗…と名を呟いて具象化した白蛇姿で出した。

しゅるん、と首に巻き付いてくる神鎗はチロチロと赤い舌をちらつかせた。


「転生後も同じ斬魄刀なんて初めて見ましたねぇ…珍しい」

『解剖はさせへんでッ!』


さすがは元十二番隊隊長。隠しているとはいえ雰囲気があの変態的な涅とそっくりだ。

バッとランドセルと背中の間に神鎗を隠した。


「んじゃ、この札をあげましょう」

『…いくらで?』

「そんなアコギじゃありませんよ!ただで v」

『ハート出すなや良い歳したオッサンが』

はい、と渡されたのはドクロマークの木札。

確か黒崎一護も同じものを持っていた気がする。

えーと、名前は何か長ったらしい…そうだ"死神代行戦闘許可証"だ。よく思い出した自分。


『虚が近づいてきた時に鳴る機能はいらへん。はずしぃや』

「おや?死神代行として働く気は『あらへん。』…そうですか」


きっぱりと告げた。

自分から彼女らに会う危険性を増やしてどうするのだ。

いざというときのために持っておくだけで、死神として動く気は毛頭無い。


「…っと、できましたよー。」

『おおきに。あと義魂丸もくれへん?』

「?それあれば死神化できますよ?」

『これは霊圧のある奴を見分ける用や。ボクは霊圧を隠して暮らしとるんや、他人の霊圧まで感じとれん。』


見知った霊圧ならば別…だが。

隊長、副隊長格の霊圧には常にアンテナを張り巡らせているから問題はない…はず。

はず、というのも転生してからそれらの霊圧にあったことが未だにないからだ。

まぁおいそれと副隊長はおろか席官だって現世に降りてくることはないのだから当たり前だろう。


「どれにしますー?あ、めちゃくちゃ女の子らしいのとかジェントルマンとk『ボクに似た性格の奴にしろや』…やーだなーそんな怖い顔しなくても…いたたたっ」

冗談やない。ボクの顔でくねくね女々しくされて堪るかボケ。

身長差的に顔面をぶん殴ることもできないので全体重をかけて足を踏んでやった。


「…"嘘つき"でどうです?演技派で優秀です よ?」

『そらえぇな。丁度良さそうや』


渡された義魂丸は白…じゃない、銀色?

何だ当てつけか。

ぱくん、と何の抵抗もなく口に放り込み飲み込む。


途端、


ズルッ!

身体がぶれるように揺れると、ボクの服は死覇装となっていた。
隊首羽織もなく、ただの黒い着物。それが心無しか寂しく見える。


「…………。」

『何や。黙っといて気色悪い…』

「いやぁ…昔は可愛かったのに、ってグホッ!」


右ストレートをお見舞いしてやった。

見事に鳩尾に決まった小さな拳は小さいからこそ力が集中してなかなかの威力だったようだ。


『で?ちょぉ喋ってみぃ?』


くるりと振り返れば空色の瞳を開いたままに立っている自分の姿…をした義魂丸。

ちゃんと目を閉じておくように言わなくては、と思う。


「何て喋ればえぇんです?」

『あら、言葉遣いも似とるな…ってオイまさか…』

「あはははーバレました?」


こいつ…元から自分の存在に気づいていたのか…

霊圧が復活した、あの日から

考えてみれば腐っても隊長格。現世にいるのだから他の死神たちよりも気づくのが早くて当然だ。

すぐにボクの霊圧だと気づいたこいつは代行証や義魂丸(ご丁寧に自分用)を用意して、ここに店を構えて待っていた…と?


『…まんまと嵌められたわ』

「人聞きが悪いッスよ、市丸サン」


キッと睨むが効果無し。

ため息を吐くのも悔しいのでくるりと再び自分の身体の方に振り返った。


「シロ、言います。よろしゅうマスター」

『嫌がらせかゴラァ!』


怒鳴った。

何だこの男。どれだけ自分のことが嫌いなんだ。

よりによって仲の良かった日番谷はんの雛森ちゃん用ニックネームを付けやがるとはどういう用件だ刺し殺したい。


「まぁまぁ落ち着『射殺せ、神s「ホントに待ってくださいって!」


へらへらしてやがる浦原に、本気で始解しようと思ったが止められた。

もうえぇわ、と諦めて体の中に入った。

口からころりと出てきたクジ引きのハズレ玉のような義魂丸をポケットに入れ、代行証をランドセルにくくりつける。


『…また何かあったら、よろしゅう』

「毎度ー♪」




最後に飛び切り強い霊圧をぶつけて店を出た。

一瞬だったから問題ないだろう。



色々増えたが色々解決した問題もあったのでまぁよしとする。

取りあえず帰ったら拗ねているであろう雅治を甘やかしてあげなくてはいけないな、と重い足取りで歩いた。



潤み色の世界を変えて



「……やってくれますねぇ」

銀露の霊圧によってぐちゃぐちゃにされた店内に佇みながらそう呟いた

 

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