白殺しより哀を込めて
貫かれた胸から鮮血が溢れ出す。
百何年とかけて練ってきた奇襲は不発に終わり、凶刃に倒れる白い影。
瓦礫に埋もれるように伏した市丸に、乱菊は駆け寄った。
慣れ親しんだ霊圧がみるみる喪われていく感覚に乱菊は発狂寸前だったろう。
「銀露!銀露…銀露、銀露!」
降り注ぐ涙は2人を繋ぐように同じ場所を濡らした。
らんぎく、
もう声も出ない。
空気を振るわせない声は、泣き崩れる乱菊には届かない。
らんぎく、御免な
御免なァ
ごめん、な…
あんな言葉では足りるわけもない。
自分はずっと彼女を騙してきた。
彼女のためだと言い聞かせ、自分への信頼を利用し、裏切り、貶め、傷つけて。
自分はなんて醜いイキモノなんだろうか。
「銀露…イヤよ、もう…お…て……か…いで…」
聞こえない。
最後まで聞きたいのに、自分の最期は待ってくれないようだ。
謝罪と感謝を
ボクの、最初で最後の最愛へ
強い意志を持ったオレンジ髪の死神を見届けて…長きに渡り隠し続けた水色の瞳をそっと閉じる。
瞼の裏に浮かんだのは、輝く金髪と煌めく銀髪。
…そして、翡翠。
たった一筋だけ零れた涙に込められた感情は、なんだったのか。
その感情を知るものは存在しない。
彼女自身すらも、理解できずに。
茨を駆け抜けるような生涯を、閉じた。
白殺しより哀を込めて
(さよなら、世界)
(さよなら、最愛)
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