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「#寸止め」のBL小説を読む
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  薄萌葱のコートで出会って


家々の間を縫うようにして戻ってきた。

極力霊力を押さえた瞬歩、しかも生身で人目に付かないように遠回りもした。

何より久しぶりに使った瞬歩だった。



[おいおい、大丈夫かよ主さん]

『だ、いじょぶ…や……』


鞄の中に入っていた神鎗がしゅるっと出てきた。

斬魄刀にまで心配されるほど消耗しとんのか自分。


休憩のため近くの公園にいき、腰を下ろした。

ドクロマークの禍々しい木札が腰で揺れている。

握りしめた手の中には白い義魂丸が握られている。




泣かない、泣かない、


…泣いては、いけない。




ぎゅう、と膝を抱えて顔を埋めた。

意志とは関係なく震えてしまう体が憎い。

…あの頃は、偽ることが何より得意だったのに。



『(ダメ…やなァ…)』



少しずつ冷えていく空気を感じながらも動こうとしなかった。

すると、2人分の気配がまっすぐこちらに向かってきた。



「あの、『邪魔や。どっか行き』……ぁ…」


まだ声変わりもしていない子供の声。
中性的な声だったため、性別までは分からない。

「いきなり失礼ではないか!邪魔などと…『じゃあ何や?"いきなり"声かけてきたんは失礼やないんか』…む…」

顔を伏せたままなのもどうかと思ったので、顔だけは上げて近づいてきた子供を見た。

一人は最初に声をかけた方。
ウェーブのかかった藍色の綺麗な髪に、子供ながら端正で整った顔立ち。

…見た目でも判断しにくいが、たぶん…男?

もう一人、突っぱねたボクを怒鳴りつけた、古風…っちゅーか古くさい喋り方の少年。
まぁこちらも子供だが、子供にしては可愛げがない、どことなく爺くさい。
眉根を寄せ、腕を組んでこちらを見ている。

二人とも半袖のTシャツにハーフパンツ。…なんかのウェアみたいだ。

手に持っているものからして…テニスか。


『…何の用や。大したことや無いんならどっか行ってくれん?』


愛想笑いするのも忘れ、目を開き無表情のままに見据える。

すると、爺くさい子少年は怯み、女っぽい少年は………なんや顔赤ない?

ガシッ


『はァ?何す「俺、幸村精市って言うんだ!君は?」……はァ!?』


いきなりボクん手を握りしめてきて何を言うかと思ったら…

男でも女でもオトせそうな笑顔でこちらを見てくる。


『何でそんなこと…』

「だって、同い年くらいだよね?運命的だよ?友達になろうよ」


運命…って何クサいことを言っとるんや近頃の子供は…ッ!

と、若干…いやかなり引き気味で出来るだけソイツから離れようとするが、離れた分近づいてくる。


「ねぇ、君の名前教えてよ」


 命 令 か !!

ゴゴゴゴ…と少年の背後に霊圧とは違う、もっと嫌ぁーな感じの黒いモンが見え、しかも迫ってくる。

ひぃぃい!!?と驚愕(とちょっと恐怖)で固まっているボクにさらに、


「お し え て よ 。」

『…………市丸銀露や』


教えてしまった。
市丸銀露、子供に敗北する。

まぁ…名前くらいえぇやろ…

はぁ、とため息を吐くと相変わらずボクん手ぇ掴んだまんまな幸村少年はぐるんっ!と首を回して振り返ったかと思うと、


「真田が名前言わないから銀露が不機嫌になっちゃったじゃないか」

「す、すまん!真田弦一郎だ!」

「うるさい」

「…………」


今の数秒のやり取りで関係が見えた。どんまいや真田少年。

ちゅーかボクを一番不機嫌にしてる幸村少年が何言うとるんや…


『…帰りたい』

「え?土に?」

『冗談です…』


もうやだこのガキ…おっと口が悪い。

まぁ冗談抜きでこの子もう嫌や。


「俺たちテニスしてたんだ。銀露もやらない?」

『さっきからツッコミ忘れてたんやけど…何で名前で呼んどるん?』

「え?俺たち友達だろ?銀露も名前でいいからさ」

『…大して親しくないやろ』

「これからなるから大丈夫」


…もう何も言わん

しょうがないから精市、と呼んであげた。


「で、テニス!」

『ボク汗かくん嫌いや。』

「そっかぁ…じゃ、見ていきなよ!」

『はぁ?!』


ホンっト予想の斜め上行くやっちゃな…!

抵抗しようにも黒いモンと意外に強い腕力には勝てんくて引きずられるようにしてテニスコートに行った。


『ルールも何も分からんねん…』

「む?ならば俺がおしえ「俺が教えるよ!」

『頑張り、弦一郎…』


態ととしか言いようのないタイミングに肩を落とした弦一郎の背にぽん、と手を置いて慰める。

と、今度は身体ごとボクと弦一郎の間に割り込んできた。


「…真田は名前じゃなくていいよ」

『何でや?』

「大して親しくもないだろ」

『これから親しくなるからえぇんやろ?』

「それは俺と。」


えぇー…と再び引き気味になる。

何か雅治と同じ雰囲気を感じる。
ワンコ的な意味やないで。ヤンデレ的な意味や。

ずりずり後ずさりするがむこうは近づいてくる、無限エンドレス。



が、



しゅる…カラン!


『あ……』


腰に括り付けていた代行証が落ちて渇いた音をたてた。

結び目が緩かったか、と身をかがめて拾おうとした時、




「落ちたよ?」




幸村…いや、精市が

 

・・・
拾った。



「む?それは何なのだ?」

弦一郎も首を傾げて札を見る。


「アクセサリー?変わってるね、はい」

『お…おきに……』


見えている。

この二人…常人には見えない代行証を、視認している。

すぅ…と霊圧を僅かに解放して二人の霊圧を探る。


『(高い……)』


席官レベルくらいはあるであろう二人の霊圧。

雅治の霊圧が高いのはとうに知っていたが、この二人もそれに勝るとも劣らない。


『(目ぇつけとくか…)』


虚は霊圧の高い人間を襲いやすい。

監視を強めておく方が良い。


…死神として、再び動くのであれば。





『…これから、よろしゅうな』



薄萌葱のコートで出会って
(色んな意味で…な)

 

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