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  灰汁色の心は晴れて



浦原喜助に出会ってから、早3日。

大物の虚とはち遭うこともなく、平和に…悪く言えばつまらなく日々は過ぎていった。

…そろそろ何か新しいことをしたいものだが。


『……そうや、』


ヒーローに会いに行ってみよう。
 


オレンジ色の髪をした、正真正銘この世界の危機を救ったヒーローに。

幸い今日は休日。ヒーロー探しにはもってこいだ。


『雅治ー、おーいーでー』


犬みたいに呼ぶなて?いやいやあの子ボクの犬やから。

園庭に面している宿舎の窓から呼んでも間違いなく来る。


「何じゃー!ギンちゃーん!」

『ボク、ちょお出かけてくるわ。変装道具貸してぇな?』

「えぇぜよ?どこ行くん?」

『ひ・み・つー♪』


唇に人差し指を当ててウィンクしてやるだけで雅治は真っ赤になる。

…あー自分でやってて気持ち悪ぅなってきた。似合わな過ぎやろ…!

ちなみに変装道具っちゅーんはな、雅治が最近はまっとるんやけど…


『…よー集めたなこないにぎょーさん』


思わず苦笑いしてしまう量だった。

黒茶金銀赤青緑…ってどんな品揃えや。
あ、カツラの話やで。

ちゅーか銀のカツラなんていらんやろ。

クローゼットの中には多種多様のカツラに洋服。

何処で買ったのかカラコンまであった。

そう、雅治が最近はまっとるのは変装。そしてイタズラ。

今も園庭でおもちゃの蛙投げつけて遊んどる。

どこのガキだ…あぁ、ガキか。


ボクの容姿は目立つ。だから無難に黒のカツラ引っ張り出して被った。

顔は…眼鏡かければえぇな。

子供っぽい雅治のショルダーバッグを斜めがけにして、外出届を出して門を飛び出した。









わぁわぁと騒がしい校庭。

今の自分よりも背が高くがっしりした体型の青年達。


…そう、ここは空座町。


つい数年前には世界の命運を分ける戦いを繰り広げた地。



『……………』



その学校に、ボクは来ていた。

尸魂界に勘づかれない程度に霊圧を探り、ここまできた。

ボクの視線の前には、最後に見た時よりも背が高くなっている彼。



「お前等遊んでんじゃねぇよ!真面目にやれ!」

「すんまっせんー!」

「…ったくよー」


トレードマークの派手な髪は相変わらず、無骨なジャージを身に纏ってそこにいた。

…教師として、彼はそこにいた。



『……ッ』



…あぁ、時間は進んでいる。

ボクが死んだ後も、時間は変わることなくこの世を変えていく。

ズルズルとコンクリートの塀に指を擦りながらしゃがみ込んだ。


 

…自分は何をやっているのだろう。


彼らは進んでいるのに、自分は情けなく佇んだまま。

もう一度、この上ないチャンスを与えられて尚、進まない。



『情けな……』



目の奥が熱い。


…ダメだ、今ここで泣くのはダメだ。


この涙は、彼女と会った時に流すものだ。




生身のまま軽く瞬歩を使って黒崎くんの真後ろにある鉄棒に腰をかける。

にぃっ、と口角を上げて一瞬で呟いた。


『…元気そぉやな、黒崎センセ?』

「ッ!!??」


彼がバッと振り向くが、それより早く瞬歩を使ってその場を離れた。




器用に真昼の住宅街を縫って飛ぶように移動する。

風に煽られて頬に当たる人工毛が痛い。




なぁ、もう覚悟は決まった。


逃げるのは止めよう。それはダメだ。


会いに行く勇気は相変わらず欠落したままだけど、


もう逃げないから、


心の中だけで泣くことを許して下さい。




灰汁色の心は晴れて
(さあ)
(お天道様を拝もうか)

 

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