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「#幼馴染」のBL小説を読む
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  さよならバイバイ偽り仮面


その少女が教室へ現れた際、クラスメートは誰1人として彼女を"霧咲フラン"として認識できなかった。


少女がカバンを机の横に下げ、慣れた様子で椅子を引いて腰掛けた音がカタンッと響いた瞬間に金縛りが解けたようにざわめきが広がる。



────あの子誰?


────転校生じゃない?


────じゃあ霧咲さんは?


────転校しちゃったとか?


────不登校かもよ?


────転校生なら変な時期だよね?



疑問符が外れない言葉。

誰も彼もが確証を持ったことを口にできない中、女子生徒の1人が




「あの子……テニス部のマネージャーだよ!」




その言葉が皆の耳に入った途端、ざわめきは10倍に膨れ上がった。


ああそうだどこかで見た顔だとなんでここに名前なんていうのかなテニス部とどんな関係がどうして今まであの髪なんなの変な目の色カラコンじゃないの風紀委員に見つかったら先生何も言わないの可愛いねキレイ系だろ何しにきたんだ誰か話しかけろ挨拶くらいならイヤだよ変な奴かもなんか怖いナンパしてこい問い詰めてあいつ誰


一つ一つ全文が読みとれないほど重なり合った声、声、声。


少女はそれを意にも介さず右手に持ったロリポップを指先で弄くり時々嘗めていた。

左手はポケットから取り出した真新しいスマートフォンをすいすい操作している。


少女が纏っている言い様のないオーラにクラスメートはたじろぐが、1人の女子生徒が恐る恐る近づいていく。
先ほど少女をテニス部のマネージャーだと突き止めた生徒だ。

彼女は意を決した表情で少女の席の横まで足を運ぶ。


教室全体が固唾をのんで見守る中、彼女は口を開く。



「あ、あの…その席、霧咲さんの席ですよ…?」

『それが何ですかー』

感情がまるで感じられない平坦な声だった。
内容といい声色といい、その間延びした口調といい…どこか人を小馬鹿にしたような印象を受ける。

さらにピクリとも動かない無表情。そして同じく動かない身体。つまり少女は目の前にいる生徒に目もくれず、ぼんやり飴とスマホを相手にしているだけだったのだ。

「だ、だから!霧咲さんがきたら…っていうか何でその席に、」

生徒は苛立った様子で再び喋る。もともとテニス部の熱烈なファンであった彼女はいつの間にかマネージャーとして収まっていた件の少女を疎ましく思っていたこともある。

しかし、語尾を強くしたその言葉に返ってきたのは、





『霧咲サンなら目の前にいますー。そしてミーがこの席にいる理由はここがミーの席だからですー』





クラスメートは絶句した。

少女はクラス全員が今まで認識していた霧咲フランとは真逆のような少女だったからだ。



霧咲フランといえば。


根暗、眼鏡、無口、無表情、愛想が悪い、会話をしない、弱気、内気、ダサい、くそ真面目、影薄い、黒髪、長い前髪、うつむき加減、猫背。

イジメの標的にすらならない時代錯誤もいいところな地味子だったはずだ。



…今目の前にいるのは?




教室に差し込む僅かな朝日を受けキラキラと輝く神秘的な翡翠色の髪。

少し垂れ目気味な両眼はオッドアイで右はルビー、左はエメラルド。

両目の下にある逆三角形の藍色の痣は身に纏う不思議なオーラを助長させている。

これだけでも形容しがたい不思議系美少女だが、そのファッションはそれに拍車をかける。

首から下げた黒い蛙を模したヘッドホン、前髪を止める黄色と赤のピン、ブラウスは全開で中に着ている緑と黒のボーダーシャツが丸見えだ。

腰に巻いたベージュのカーディガンと膝上丈のスカート、紺のハイソックスは校則通りだが、それ以外は校則のこの字も気にかけてない。


この奇抜と変人を掛けて足してさらに掛けたような少女が、霧咲フラン?

教室の角が定位置で教師にすら相手にされない霧咲フラン?



「そ、そんなわけ…」

『……てゆーか』





『そんなじろじろ見られると不愉快なんですけどー。ミーがどんな格好してどんなことしてどんな風に生きようとあんたらには関係ないですよねー。つーか関係したくねー』





絶句、再び。




少女には感情がないのか?まともな心を持っていないのか?と思えるほど遠慮も考慮もない言葉。
思ったことがそのまま口から飛び出してしまう体質の者でないかぎり言うはずがない言葉。


「…酷いっ!」

「あんた何様よ!」

「地味子がイメチェンとかバカみたい!」

「前の格好もダサかったけど今のもチョーダサい!」

「みんなに構ってもらえないからそんなので気を引こうなんて…」


女子生徒を中心とした罵倒の嵐。

10代半ばの子供は"出る杭は打たれる"という法則の元に回っているといっても過言ではない。
フランはその杭となったのだ。

もちろん…



『うわ、ベル先輩からまた着信だ…今朝だけで8回目なんですけどー』



騒音と化した罵倒もなんのその。
震えるスマホの画面に表示された本日8回目の名前を見て面倒くさそうなため息を吐く。

ブチっと容赦なく切ってメールで一文「これ以上かけてきたら着拒」と送る。


そんなフランの態度にキレた女子生徒が掴みかかろうとした瞬間、騒がしいはずの教室内に嫌に響くドアの音。


「あっ…切原くんっ!」

今まで般若や鬼女にも劣らぬ形相だった女子は一斉に目を輝かせ頬を染め、声をワントーン高くする。
それを、むしろ気色わるーと内心思っているフラン。

始業時間よりまだ少し早い。テニス部の朝練がなければいつでも遅刻ギリギリな彼にしては珍しいのだが、そんなことを考えている暇などない


「ねえっ!あの子マネージャーでしょ?」

「あの子霧咲さんだったのよ!」

「しかもすっごく酷いこと言うの!私たち何もしていないのに…」

「今まで猫かぶって騙してたんだわ…最低!」


あーあー気づかねーのかなバカ。どんな理由であれ好きな人の前で悪口いうとか自分から株下げてるようなもんですー。と自分を棚に上げて霧咲は毒づく。
本人に問いただせば『堕王子はいいんです堕王子ですからー』なんて毒舌に偽った惚気が飛び出すに違いない。


彼女たちは知らない。


目の前に立つ切原赤也は彼女たちの知る切原赤也ではない。


うねる黒髪に霧咲と同じ色を混じらせた彼は既に、




翡翠に魂を捧げた悪魔へと生まれ変わっている。




「……オイ」

低い。

地を這うどころか地獄から這い寄るような声色。



「それ以上その方を侮辱してみろ。テメェら髪一本まで赤く染めるぞ」






その表情は彼が大好きなテニスをしているときのような笑顔だった。





さよならバイバイ偽り仮面
(そしてこんにちは)
(本性と本能と本当よ)


…………………………………

赤也wwお前ってヤツはww自重しろww
まあさせなかったの私なんですが(`・ω・´)

本性本能本当…はあれですね。ポーカーフェイス。
この話のBGMだったんです

次はテニス部とさよならバイバイの予定は未定。
とりあえず赤也は鉄拳制裁受けなきゃね!


9/30誤字修正しました!里桜さまご指摘ありがとうございます!

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