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  貴方の為だというのなら


ミーが自分の役割を悟ったのは、10にもならない頃だった。


イタリアの貧民街で、親に捨てられて、仲間もいなくて、独りぼっちで、冷たいコンクリートに倒れていた。

もう何日も食べていなくて、手足はガリガリだし喉はカラカラだった。

必死に毎日を生き延びようとする同じストリートチルドレンを妙に冷めた目で見ていた。






生きて何になるの?

苦しみが続くだけなのに。




今思い出しても子供らしくない思考だと思う。

こんな達観した考えを持つ、教養もないはずの子供なんて気持ち悪い。


そう、ミーは自分が"異常"なことを知っていた。


朦朧とする意識の中、頭の中の遠いところから、ミーを呼ぶ声がした。






名前のない、ミーを。





「クフフ…これは珍しい」

『…はぁ?』



どこ、ここ。

餓死寸前、ってゆーか棺桶に片足突っ込んでるはずのミーは、何故か花々溢れる乙女チックワールドにいた。

そして目の前には何て言うか…こう、トロピカルなシルエットの男がいた。

なんだっけこーゆー果物…食えればいいって思考で食いつないできたから思い浮かばない。



…あ!

『パイナップルだ。』

思い出したー。


「誰がパイナップルですか!?これは髪型です!」

『…それ、自分で認めちゃってませんー?』


パイナップルとしか言ってないのにそれが自身の髪型のことだと分かるなんて。

そう言えばパイナップルの人はハッとして頭を抱えた。


「僕と…したことが…!」

『…帰っていいですかー』


どうやって帰るのかわかんないけど。
とりあえずここが現実じゃないことは確かだ。

この世に、こんなに美しい場所があるわけない。

この世界は、とても汚らしいのだから。


「子供らしくない子ですね」

『まあ、諦めてますから』

「何を?」


かんに障る薄笑いを浮かべて、パイナップルの人が聞いてくる。

何を?そんなの、決まってる。





『生きることを。』





諦めている。

そうだ、生などいらない。

近いうちに訪れるであろう死を享受するのみだ。

昔から、意味のないことが嫌いだった。

意味のない行動が嫌いだった。

口ならともかく、わざわざ動く何てばからしい。

それが他人のためならば、なおさら。



「クフフ、面白い考えです」

『面白い笑い方ですねー』

「可愛くない子供ですね!!」


食えない人だった。

常に浮かべている笑みも、丁寧すぎる口調も偽物っぽくてならない。

でも、なぜか。

その瞳は暖かいように見えたんだー…






そして、拾われた。

ロクドウムクロは言っていたとおり、ミーを迎えにきた。


骸師匠はたくさんのものを与えてくれた。


たっぷりの食事に、質素だけと汚れていないし破れていない服、飾り気なくとも風も雨も防げる家(これは廃墟だったわけだけど)

それから、信頼できる仲間。


何考えてるのか分かんない骸師匠。

行動がなんか不統一なクロームネーサン

ぎゃんぎゃん煩くて獣っぽい犬ニーサン

面倒くさがりで超無口な千種ニーサン

強欲で男誑し込む天才なMMネーサン


暖かい場所だった。

家族がいたら、きっとこんな場所なんだろうと思った。


でも、だから分かった。

骸師匠は、打算なしでは何もやらない人だ。

では、ミーを拾って何になる?強くして手駒にする?

そんな面倒なことをしなくても、師匠は十分強い。

答えは簡単だ。
消去法で残ったのは、



"代替"



師匠はミーを何かの代用品にするために拾ったんだ。

すとん、とその事実が胸に落ちた。

悲しくなんてない、今こうして生きていることは紛れもない現実だし、それが恩返しになるならそれでよかった。


役割が終わって、消えてしまっても、よかった。




ミーは基本的にいつも別行動か、MMネーサンと一緒にいる。

犬ニーサン、千種ニーサン、クロームネーサンは三人で何かよく分からない仕事をしている。

クロームネーサンはマフィアらしい。
マフィア嫌いの師匠に言われてやってるってことは、またなんか企んでるんだろう。


また男引っかけて遊びに行ったMMネーサンに、呆れたため息を吐きながら洗濯物を干していた。

そのつまらない日常が一変する。



突然現れたヴァリアーという黒服の男たち。

見るからにザコキャラだし、そんな組織に入る意味もないし、ソッコー断った。

そしたらなんか力にものを言わせてきたのであっさり返り討ちにした。

日頃から何かの命を奪って生きていることを理解しているから、ミーは他者の命を奪うことを躊躇しない。

弱かったこいつらが悪い。ただそれだけ。


だが、これだけでは終わらなかった。



「ししっ、コイツが新しい霧の幹部候補?」

「そうだぁ。さっさと連れて行くぞぉ」


ザコを追っ払ったその日の夜。

闇からに地味でるように現れたシルエット。

金と銀の対称的な髪をした若い男で、昼に襲ってきた輩とは格が違うと分かる。

扇のように広げられたナイフ、研ぎ澄まし狙いを定められた剣。



…これ、本気出さないとヤバいかもー



ダッ!と窓から飛び出し、細く狭い路地裏を駆け抜ける。

後ろから怒号と笑い声が聞こえてきて、撒くことも困難だと悟る。

次々に飛んでくる金髪男のナイフを避けていたが、ついに避けきれずに数本が背中に突き刺さった。


「よっしゃ♪」

「よっしゃじゃねぇえええ!!殺しちまったら意味ねえだろーがぁ!」

『イタタター、ちょ死ぬんですけどこれ』

「「!?」」


背中にナイフが刺さったまま何事もなかったかのように走り始めた。



…っぶねぇええええ!!

良かった!有幻覚作っといてよかった!

あれ喰らったら死ぬって!



本当に涙目になってきたフランは、悔しいが師匠に助けを求めた。

体は動かしたまま、意識だけを幻想世界に飛ばして接触する。


『ししょー、どうしましょーかコレ。』

「何がです。きちんと説明しなさい」


年がら年中幻想世界に籠もることしかやることがない師匠に、ことのいきさつを手短に話した。

すると、師匠はうっそりと笑い、それをミーに向けた。
 
うわ、やな予感。


「その2人に着いていきなさい。ヴァリアーに入隊するのです」

『えー、でもヴァリアーってマフィアじゃないですかー。いいんですか?』

「ええ構いませんよ」

『まあ…師匠がそーいうなら…』

「それより、体の方は大丈夫ですか?」

『はいー?』

「意識のほとんどを飛ばしておいて対処できる相手ではありませんよ、ヴァリアーは。」

『ぇ…』

「サボテンのようになっていなければいいですね」

『あわわわわっ!』


慌ててに帰って行ったダメ弟子を見送り、骸は呟いた。


「…そのために、貴女を生かしたのですから」

悲しげな色を含んだ言葉は、聞こえないふりをした。






それからミーは悪役のアジトみたいなお城に連れてこられて、スカウトされた側だというのに殺気の中で説明を受けた。


「ほーら、コレ被れ!」

『ちょ、なんですかこれー。重っ』

「お前はマーモンの代わりなんだって証だ!」

金髪男に被せられた、大きなカエルの被り物。

反論の言葉は、飲み込んでしまった。





"代わり"




あぁ、分かった。

分かってしまった。

そうか、だからか。

だから師匠はああ言ったんだ。



そっか、

    ・・・・・・・・・
ミーは、この位置にいるべきなんだ。


金髪男と言うとおり、マーモンの代わりっていうのが、ミーが生きている意味なんだ。



この城にきてから、拭いきれないものがあった。


それは、違和感。


似ているようではまらないパズルピースを、無理やり押し込んだ感覚。

周囲の視線も、期待も、嘲笑も、何もかもが。


合わない。逢わない。遭わない。




でも、知ってしまった。

一見殺伐としているこの場所が、どれだけ心地よいかを知ってしまった。

日に日に違和感が薄れていくことを肌で感じ、それを拒むことも出来ない。



ダメだ。

ダメだ、そんなの。

ここはミーの場所じゃないのに。





この人たちを、愛惜しく思うなんて。







そして、再び訪れる真実。

沢田綱吉たちが勝てば、すべて元に戻る。

アルコバレーノは生き返り、ボンゴレは復活する。

ミーは、もういらない。

アルコバレーノの死なない未来。
それは、ミーのいない未来。





この戦いが終わったら、ミーは消える。



初めからいなかったように、記憶さえ消える。



それが、この世界のあるべき姿。

それこそ、この世界の真の姿。






それでもいい。


貴方たちを、貴方を、守れるのなら。


言わなかった…言えなかった、この気持ちも


溶けて消えてくれるのなら…



『…あれ、』

おかしいな。

おかしいんだ、こんな気持ち。

ミーは、なんで、


あの眩しい笑顔を求めているんだろう。

あの人だって、ミーをただの代わりにしか見てないのに。

だからこんなカエルを被せて、だから暴言ばかり吐いて、だからいつも殺そうとする。


おかしいな。


分かっていたのに。




…消えることに、恐怖するなんて



『あー、ダメダメです。こんなこと考えちゃダメー』



貴方のためだというのなら

この命なんて、惜しくない。

"世界>自分"の方程式は、今日も正しく律してる





さあ、開戦の狼煙が上がる。

あと何度目にすることができるか分からない星を見上げて、そっと目を閉じた。





…………………………
過去編…?

でもほかに何書けばいいのやら(^-^;

 

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