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  憎渦巻く世界に


仕事の覚えはよく、体力もある。

見た目こそ気怠げで無気力そうだがを括った彼女はバリバリと働いていた。


それは、マネージャー就任からたった三日で分かった。


『はーいドリンクお待ちー。』

「ホントに待ったぜよ、マネージャー」

『柳生さんどーぞー。』

「なんで目の前にいる俺スルー!?」


レギュラー達は彼女のことを人前では"マネージャー"と呼ぶことにした。

幸村だけは頑なに名前呼びを変えないので、仕方なく全校生徒…主に女子に軽い催眠を使用した。


幸村がフランを呼ぶときに、音に対する集中力をある程度拡散させる暗示をかけたのだ。

面倒だが、卒業までは辛抱しなくてはならない。






だが、日常に差し支えなくとも、部活中の支障はある。

呼び出しなんて僅かな隙があればできるものだ。



「ちょっと!!何でアンタみたいなのがマネージャーやってんのよ!?」

「他校生でしょ!?見たこと無いもの!」

「ひょっとしてスパイじゃないでしょうね!?」


休憩が終わり、部員たちが皆練習に打ち込んでいるときのことだった。

部室裏にある流し台で、使用済みのタオルをザブザブと手洗いしている(家庭科室行って洗濯機ってのもめんどいですし)と、どこからかギャルっぽい格好の子たちがわらわらと現れた。



で、今に至る。



あーあ、
内心ため息とも嘲笑ともとれない声を漏らす。



恋する乙女は可愛くない。


今、ミーはそれを学んだ。




「幸村くんにベタベタしないでよっ!」

「仁王くんに酷いこと言って!!許さないわよ!」

「丸井くんや切原くんは嫌々あんたといるのよ?優しいから!!」


綺麗にお化粧して、髪もセットして、たゆまぬ努力をしているというのに。

この人達は、何故こうも醜いのだろう?

…ああ、人を蹴落としてでも恋を成就させようと盲目的だから?

いやだなぁ、それは、いやだ。





…こんなに醜いなら、恋なんてしたくないな。


…こんなに醜い姿は、見られたくないな。


…見られなくて、良かったな


………………"あの人"に





『……え?』

「聞いてんの!?」




ミー、は、いま…なに、を?




恋って、何で?良かったって、何が?


してないしてないしてない!


恋なんてしてない。あの人に恋なんてしてない…っ!



脳内に浮かぶ金色が、独特の笑い声と白い歯が、浮かんでは消えて、消えては浮かぶ。





…違う!!





だって、そんなことしても無駄だって分かってたもの。


後悔しないように、そんな感情は殺していたはずだもの。


ミーは代わりなんだ、あの人の視線は、言葉は感情は全部全部全部


ミーに向けられたものじゃない。




違う違う違う違う違う違う違う違う!




思考回路がショートする。
みるみるうちに右目に熱が集まっていく。




そして、意識が飛んだ。










気がついたら、周りに呼び出した女子たちが倒れ伏していて。

ミーはその中央に座り込んでいた。



両手には繊細な装飾が施された三叉の剣が握られている。

前髪の下の右目が熱くて、使用後なのだと分かった。

血の臭いはしないから、彼女達を殺してしまったわけではなさそうだ。




あぁ、でも、これで決まりじゃないか。




理解しただけで力が制御できなくなる。

それほどの想いが、自分の中で巣くっていた。



『…ベル…せん、ぱい…っ』



地面に突っ伏して、惨めに泣くことしかできなかった。


どうして、この世界は苦しみに溢れているんだろう。


この世界に幸せなんかない。


みんなに、会いたい。





『会いたい…っ!』


遠くから、幸村さんたちの声がした。

そんなものは耳を通り抜けて消えていく。



叶うことのない望み。




"望んでも、無駄なのにね"




遠くから高くから、自分自身の声がした。






(人間誰しも生きている)
(それに気づくか気づかないか、それだけ)


……………………………………

防衛本能でベルへの恋心に気づいてなかったフラン。




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