×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -



  手癖の悪いおチビさん



『あービックリしたー』

「「!!??」」



むくっ、と何の抵抗もなくその女子は体を起こした。

未だ真紅の鮮血がだらだらと流れ続けている。


「だ、大丈夫なのか!?急いで救急車を…」

「いや待て弦一郎。…怪我、ではないのか?」


すると、その女子はきょと、と首を傾げてこちらを見た。

右しか見えない瞳は髪と同じエメラルドグリーン。目の下にある藍色の痣が特徴的だ。

全体的にスマートだがバランスの良い体型で、世間一般では"美少女"と分類するに相応しい容姿だろう。


『あー怪我じゃないですよー。血糊ですー』

「「血糊…?」」


俺も弦一郎も首を傾げた。

何故そんなものを持っている…?


『昨日変な人に襲われた時にスッたんですよねー』

「襲われたのか?」

「たるんどる!油断している証拠だ!」

『えぇー…ミーが悪いんですかー?』


確かにそのセリフはおかしいぞ弦一郎。


…俺としたことが一番大切なことを言い忘れていたな。



「お前が助けてくれたのだろう?…礼を言う」

「ああ、すまなかったな。怪我が無くて何よりだ」


少女は再びさっきとは逆方向に首を傾げると、ぼとぼとと嫌にリアルな血糊が滴る。

俺はハンカチを取り出してそれをふき取っていく。


『あーすいませんね。別に近くにいたんでミーも避けるついでにちょっと突き飛ばしただけですよー』

「いや、とても助かった。…名前を聞いても良いか?」

『黙秘しまーす』


予想外の返答だった。

まさか黙秘されるとは…


『まぁ学校同じですよー?生徒会の人ですよねー』

「ああ。…同じ学校?」

「服装頭髪点検などでお前を見かけたことがないのだが…」


風紀委員長たる弦一郎ならば、丸井や仁王と並ぶほどに奇抜なこの容姿を覚えていないはずがない。


『ヅラとか色々してるんでー。目立つの嫌いなんですよね』

「なるほどな…自力で探し当てるのは有りか?」

『見つけられるものでしたらねー』


べー、と無表情なままに舌を出す。ミスマッチに思わずくすっと笑いが漏れる。


「何かお礼をしよう。何か希望は?」

『そういうの本人に聞かれてもー』

本人に聞くのは確かに間違っているが、これもデータ収集の一つだ。

俺を見て生徒会、と答えたと言うことは俺がテニス部員でありレギュラーだということはおそらく知らないのだろう。

つまり、俺が達人ないし参謀と呼ばれ、データを駆使したテニスを得意としていることも知らないはず。

データを取るチャンスは、ある。


「そういえば…その袖はどうした?」

「む、風紀委員として見逃せんな」

『あーこれですかー?こないだビリッとやっちゃったんですよねー』

「…その理由を聞いているのだが」

『黙秘権でー』

案外、話の核心部分ははぐらかされるな…

ガードが堅そうだ。


「…では礼と言っては何だが、これをもらってはくれないだろうか?」

『…はいー?』

俺が差し出したのは、紺色のセーター。

冷房が利き始める季節になったため持ち歩いていたものだ。


『そーですね。もらっときますー』

それはやはり予想外にもあっさり受け取られた。


『んじゃ、もう二度と会わないと思いますけどー』


そう言い残してひょいっと人混みにあっという間に紛れていった。

ふわりと残り香が桜の香りになったことを感じ、にやりと笑った。








(いってー咄嗟に幻術で隠したけど結構ヤバい…)
(あー病院いこー)



………………




prev 

[back]