ミーのテリトリー
…最近、ミーのテリトリーとも言える屋上に乱入者が多い気がする。
ここは旧校舎の屋上だから、人なんてほとんど来ないし、大抵は鍵がかかっている。
ミー?ピッキングピッキング。
で、うっかり鍵閉め忘れちゃうんですよねー。だからでしょう。
「うっ……ひっく………」
何か一人で泣きじゃくってる赤髪の人がここにいるのは。
え?何で泣いてんのこの人。わけ分かんないんですけどー。
ミーの学年では見たことない人だから、たぶん先輩。後輩ってのはないと思う。
一年生のころはみんなこの場所を怖がって近づかないから。
大抵は三年生しか来ない。
ミー?ミーが幽霊なんて可愛らしいもの怖がると思いますー?
修業時代にそれの数倍怖いもの見させられたんでー。
さて、現実逃避はそろそろ止めないと。
さずがに目の前で泣いてる人ほっとけるほど冷酷非道な人間じゃないんで。よく勘違いされますけどー。
ミーはいつもの定位置から顔を覗かせ、下を見る。
『…いつまで泣いてるんですかー?』
「っ!」
バッ!と顔を上げた赤髪。薄い赤(ピンク?)の大きな瞳には涙がたっぷり溜まっている。
っていうかこの人顔立ちいいですねー。ちょっと女顔ですけど。
「おっまっ……いつからそこに……」
『最初からですよ。ってかミーが先にいたんですけどー』
俯せになりながらポケットから出したアメの包装紙を剥いて食べる。
あ、ソーダ味。
こないだ破いてしまったカーディガンの右袖。うん、右だけすーすーする。
「な、なぁ…頼むから他のレギュラーには黙っといてくれよぃ…心配かけたくねぇんだ…」
『?レギュラー?って、誰ですー?』
この人運動部?あーダメだな、ミーにはそういう情報網まったくない。
「お前…テニス部知らねぇの…?」
『テニス部?あー、ワカメくらいしか知りませんね。だっていっつもどっかのアイドルコンサートみたいな騒ぎになってますから』
テニス部の人だったかー。
あんなに騒がれてるなら、人前でおいそれと泣けませんよね。
「わ、ワカメ……って…」
『切原くんですよー。ほら、マジックワカメヘアーの』
「ぷっ…!ワカメ!ワカメっぽい!」
『でしょー?あ、笑った。』
何だ、この人笑うと可愛いじゃないか。
何て言うか、人の心をあったかくするような…太陽みたいなはじける笑顔。
ミーには到底できっこない、綺麗な笑顔だった。
『…何かお悩み事でも?愚痴くらい聞いてやってもいいですよー。ミーは優しいんで』
「自分で言うな自分で。…まぁ、ちょっとプレッシャー?みたいな?…頼れる人もいねぇし、ぶっちゃけ笑ってんのも疲れちまってよ…」
なるほどねー、やっぱり。
『なら、隠さなくてもいいじゃないですかー』
「…え?」
『頼れる人がいない?部活の仲間はそんなに頼りないんですかー?』
「…そんなこと、ねぇ」
『気兼ねせずに寄りかかっちゃえばいいじゃないですかー。』
「…そ、だな」
ほっと安心したように微笑む赤髪さんは綺麗で格好良かった。
「あ!俺丸井ブン太!シクヨロっ☆」
『よろしくー。この屋上内限定で』
「何でだよぃ!?ってか流れ的にお前も名前いうとこだろ!」
きっぱりとミーが言うと食ってかかってくる丸いさん。
…小型犬を思い出した。
『ミーは立海生ですけどー、いちおこの髪とか容姿とか隠してるんで。』
「んだよ…綺麗な髪じゃん。エメラルドって感じ?」
『目立ちたくないんでー。あ、ありがとうございますー』
さらりと褒められた。うん、褒められると嬉しいっていうのは人間の基本的心理ですよねー。
『アメ食べますー?』
「話飛んだなオイ!食べる!」
『それでも食べるって即答しちゃっている丸いさんにびっくりー』
「あたりまえだろぃ!え?ってか丸いさんっつった?言ったよな今?」
『だって丸いじゃねぇか。あ、口が滑りましたー』
「滑ったレベルじゃねぇぇぇえええ!!ってか丸くねぇぇえ!!」
丸いさんがシャウトした次の瞬間。
キーンコーンカーンコーン…
『3時間目の終わりのチャイム、ですねー。んじゃ、ミーはもう行きますねー』
「あっ!お前の名前!」
『おチビさん、とでも呼んで下さい。丸井さん』
そう告げてから屋上を後にした。
……………
泣き虫な丸井くんって萌えるよね。
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