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  大空と闇の布陣


大空の布陣を語るに欠かせない集団がある。
西の軍勢は既に加わった。

最後の一駒を埋める配役は、





まだ彼女が獄寺たちと再会していなかった時のこと。
立海と氷帝が練習試合を組んでいたことを覚えているだろうか。

『俺は貴方たちもそうなると思いますけどね』

怒りのままにそう言い放ったあとのこと。
一人の少年が声をかけた。

「…幸村?」

『え?あ…えっと…日吉!日吉くん!』

「立海にいたのか。何故道場をやめたんだ。俺はまだお前に勝ってない」

『ちょっと中学入ってから忙しくて…』

「テニス部のマネージャーが?確か2人いるんだろう」

『…いや、あの人は…まあね』

小学生のころに通っていた武術の道場にいた日吉くんがいた。
目つきが少しきつくて言葉が足りていないところがあるけれどとても優しい人だ。思わぬところでの再会だ。

「なんや日吉の知り合いなんか?」

「はい。同じ道場にいました。俺よりも強いです」

『それは合気道での話だし…古武術では敵いっこないよ』

「俺はお前に負けてから本格的に合気道を習った。でも勝てなかった。お前は強い」

『あはは…ありがと…』

確かに日吉くんは俺よりも弱かったけど…超直感があるため対人戦では俺が圧倒的に有利だから仕方がないと思う。

「日吉がそこまで言う女ならそこらの雌猫とは違うヤツなんだろ。いいぜ、お前のことは認めてやる」

『結構ですけど』

どこまでも高圧的なこの男は確かに一般より高い能力を有しているのだろう。
しかしそれを振りかざし、他者を見下すような存在は人の上に立つものとしてふさわしいといえるだろうか。その振る舞いすら魅力の一部にしてしまえるほどの支配力が、この男には備わっているのか?

『貴方に認められるメリットが思い当たらないので遠慮します。とりあえず遅くなるとうるさい人たちがいるので案内させてもらっていいですか?』

人間は感情の臨界点が超えると何も感じなくなる。というか、感情が死んでくるらしい。
今まであった苛立ちや嫌悪感が徐々に消えて、面倒と感じるようになってしまった。
理由はまあ、言わずともわかるだろう。


「…お前。部長の幸村の血縁か?」

『妹ですがそれが何か?』



「……本当に、"それだけ"か?」



なるほど。
この人はどうも侮れないようだ。









ふっと空気が漏れるように笑った。

「市華、思い出し笑いか?」

『ええ。跡部さんと初めてお会いしたときのことを思い出してました』

目の前で足組む跡部に微笑みかける。
以前とはまったく違う風格を持ったそれに半ばあきれたように跡部が言った。

「あの時は…お前がまさかあの"ボンゴレ"の人間とは思わなかったぜ。とんだ猫かぶりだ」

『ライオンは猫科ですから、子猫のふりをするだけ楽ですよ』

「はっはっはっ!流石じゃねーか!」

高らかに笑う彼もまた、以前とは異なる雰囲気を纏っている。

日本における五大財閥の一つ、跡部財閥。海外にも幅を利かせ、「アトベ・コンツェルン」といえばその界隈で知らぬ者はいないほどの規模だ。
それ故に、裏社会とは細く、しかし強靭につながっている。

その一つがボンゴレファミリーだ。

『お話したことが全てとは言いません。ですが過去のことはもういいでしょう。これからの話をしましょう』

「"ボンゴレを穢した者に粛清を"か。内部結束がどこよりも強いとされるボンゴレなら当然の結果だろうな。だが、そこに俺たちが加わるメリットはなんだ?」

『具体的な"利益"を提供することはできません。金銭を要求する方々ではないことは分かっているつもりです。ですのでここは、あなた方にとってもっとも価値があるもの…"誇り"を"利益"とするのはいがかですか?』

「誇り?」

「これまでの試合結果…氷帝は公式記録上、一度も立海に勝利していない」

柳は鍵がかかるようになっているノートを開きながら答えた。
それは匣と同じようにリングと炎を填めることで解除するため実質本人以外には開けられない構造になっている。

「練習試合では互角といえる結果を出しているが、総合的な戦力では立海よりも下回っている」

「何が言いたい」

「屈辱ではないのか、という意味だ」

かつて仲間だったことを感じさせない冷淡な声色。
しかし跡部の眼力(インサイト)はその奥に燻る感情を透かして見ていた。

「お前たちより先を行き、栄光を手にしていた好敵手と認めた相手が堕落していく様を見て抱いた感情が失望だけなわけではないだろう?」

跡部の涼やかなアイスブルーが剣呑な光を帯びて柳を見る。図星といったところだろう。後ろに控える面々も同様の表情だった。

「確かに、今のあいつらは憐れに思えるほど弱体化している。このまま大会が始まれば俺たちが手を下すまでもなく大敗する」

「それでいいのか」

「良くねぇな、ちっとも」

跡部は即答した。
足を組みなおし、口元に挑発的な笑みを浮かべた。

「俺はあいつらを認めていた。実力だけじゃない、強靭な精神力を、だ。そんな奴らをこのまま腐らせて他校に潰されるのは気にくわねぇな」




ここに、



「その喜劇、乗ってやろうじゃねぇか」



氷の帝国の参戦を、宣言する。




………………………………
跡部財閥
権力を持つためある程度裏社会との繋がりがあるが、いたってクリーン。
裏と表の均衡を保つことに一役買っている。

跡部景吾
次期跡部財閥当主として徐々に仕事を引き継いでいる。
裏社会は世界に必要な存在だと考えている。

氷帝レギュラー
跡部財閥の次期幹部。秘書に忍足、SPに樺地など各々役目が決まっている。

 

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