折原臨也が殺人鬼3
とてつもなくキャラ崩壊注意。あくまで家族愛。
たたん、たたたん、とリズミカルにパソコンのキーボードを叩く音がする。
「〜♪」
「…気持ち悪いわね、貴方の機嫌がいいと」
空調のよく聞いた高級マンションの一室。そこには青年と女性がおり、機嫌の良さそうな青年とは対象的に女性に眉間には皺が寄っていた。
「えっ波江酷くない?俺が機嫌いいのは昨日思いっきり呼吸ができたからだよ!」
「ふうん。貴方の殺人事情に興味なんてないわ」
「いひひ。波江のそういうところが好きだよ。俺が殺人鬼って知っても普通に接してくれるところがね!」
「私は好きじゃないわ」
だよね!と陽気に返す彼に、波江と呼ばれた彼女の言葉で傷ついた様子は見られない。
青年が猛スピードでスクロールしていくアルファベットを見ながら鼻歌を続けていると、ピンポーンと電子音が鳴った。
「今日は来客の予定ないけどなぁ…シズちゃんはチャイムなんて鳴らせないし。単細胞だから」
「出るわよ」
首を傾げながらさらり暴言を吐く彼を完全に無視し、波江はインターホンの画面に近づいて来客を映す。
画面の向こうには高級なスーツを着込んだ20後半から30半ばくらいの男性がいた。
「俺だ。…っちゃ」
妙な語尾ね…と波江はそう思った。まるで何かのアニメのヒロインだ。
自分には見覚えがなかったため振り返って青年を見やると、パソコンを見たままの姿勢で固まっている。
「………」
「貴方の知り合い?」
「………」
「ちょっと?」
「き」
「き?」
彼は突然ガッターン!とスタイリッシュなデザインの椅子を蹴り倒す勢いで立ち上がると、
「軋兄だぁああああああああああ!!??軋兄が来てくれたぁあああああやったね!唸れ俺のテンション!!!きゃああああああああ久々の軋兄!!あっでも甘楽に会いにきたのかな?それならぐっちゃんで呼ばなくちゃ!あとキャラも戻さなくちゃ!でもでも愛識に会いに来てくれたならこのままでいいかなっ!でもでもでも大穴で折原臨也かもしれないかもかもファイナルアンサー!!何でもイイや嬉しいからぁー!!セブンもイレブンもいい気分だからちょっとそこらへんの会社のインサイダー情報ネットに流しちゃおうかなぁああああ!!!そういえばこないだネブラが…まあいっか波江ドア開けてきてくれる?」
「貴方がいったいどこの誰なのかも気になるけれどまずネブラがどうしたのか聞きたいわね…」
まさにコロンビアのポーズでハイテンションに跳ねる青年。
それなら目をそらして知人が人の皮を被ったエイリアンだったと知ってしまったような表情の波江がドアを開けに行った。
チェーンと2重ロックを外してドアを開けると何故か腰を低くして身構えた男性がいた。まるで何かに襲われることを想定しているような格好だ。
彼は出てきたのが波江だったことに面食らったようだったが、特に何も言わずそのまま家に入り、フェラガモの靴を脱いで上がった。
廊下を抜けてリビングへ到着すると、
「久しぶ「軋兄ぃいいいいいいい!!!」
「相変わらず過激な歓迎だっちゃ…」
青年が飛びついてきた。これに警戒していたのか、と波江は納得する。
木に登るコアラのように男性の頭をホールドしているが、軋兄と呼ばれた彼は慣れた様子で青年を抱え込む。
「お?おお?軋兄が軋兄モードだっちゃっちゃ!でも服はぐっちゃんだね?あれあれ?俺はどっちになればいい?俺かな私かな?」
「愛識でいいっちゃよ。俺はちょっと暴君からいただいた仕事を片づけてきたっちゃ。そしたらお前に会いたくなった」
「そっか。友のやつ俺には何も言ってくれないのになぁ…一言くらい相談してほしいよね!」
「そこそこ危険な仕事だったからな」
愛識という青年は軋兄に抱っこされて大変満足そうだった。その後ろで波江が世界の終焉を見てしまった表情をしていることも目に入っていない。
零崎愛識という殺人鬼にとって、零崎軋識という兄は何者にも勝る最優先事項なのだ。
「甘楽ちゃん不満ー…ま、いっか!軋兄に会えたから全部チャラにしちゃおう!ねえねえ軋兄、俺新しいパソコン欲しいんだ。作って!」
クリスマスプレゼントを強請る無邪気な笑顔で軋識にそう要求する。
軋識はスタスタと広いリビングを歩き、ソファに座ると隣に愛識を降ろした。
「それは折原臨也としてか?甘楽としてか?愛識としてか?」
「臨也も甘楽も使うけど、基本的に愛識くん用かな。なんか違うの?」
「折原臨也は赤の他人、甘楽は上司、愛識は家賊だっちゃ」
「んんん?」
「つまりモチベーションの差だっちゃ」
慣れた手つきで愛識の形のいい頭を撫でる軋識。
されるがままになっている愛識は先ほどよりも格段に上機嫌だった。
「臨也、いい加減説明して頂戴」
理解不能すぎてイライラしてきた波江が声をかけた。
愛識は特に悪びれることもなく見やると、ソファから立ち上がった。
「ごめんごめん忘れてたよ波江。それから今の俺は愛識だからね」
「愛識、俺の方こそ聞きたいっちゃ。こいつは?」
「こっちは俺の、愛識の兄で零崎軋識!甘楽とも関係あるけど詳細は秘密ね。でこちらは波江さん。臨也の部下だよ」
それぞれを手で示して名前と関係をいう。
愛識の兄なら同じ殺人鬼か、と波江は脳内のどうでもいい情報フォルダに記録した。
「……どうも」
「悪いが折原臨也の関係者には興味ないっちゃ」
どうでもいいと思ったのは波江だけではなかったらしい。
言葉の通り興味なさげに視線がそらされた。
「いひひひひ。軋兄、今日はお泊りしてくでしょう?」
「何も用意してきてないっちゃよ」
「それくらい正布に用意させるよ」
「…じゃ、泊まっていくっちゃ」
「そしたら鍋にしよう!波江、鍋出しておいてくれる?」
「…私は帰ってもいいのよね?」
彼女にしては珍しく恐る恐るといった様子で尋ねる。
「うん、俺と軋兄と正布で3人のつもりだよ?でも波江が嫌じゃなければ一緒に食べる?」
「…マサシクが誰かも分からないけれど正直今すぐベッドに入ってこの記憶を夢にしてしまいたいくらい貴方のキャラクターが理解できないわ。帰らせて頂戴」
「いいよいいよー。波江は甘楽と愛識には会ったことなかったっけ?正布にも?」
「私は折原臨也の部下だもの。多重人格レベルでキャラが違うなんて知りたくもなかったのだけれど」
疲労が限界を超えて顔が青くなり始めている波江とは対照的に笑っている。それはもう殴りたくなるほど華やかに。
「えー波江冷たいなー。軋兄もそう思わない?」
「臨也ならともかく愛識が知らねえ女と仲良くしてたら零崎したくなるし甘楽が懐いていたら物理的に解体したくなるからいいっちゃ」
それを聞いた愛識は飛び上がって喜び、軋識の腕に抱きついた。
「わぁい俺、軋兄に愛されてる!」
「当たり前だっちゃ。愛識は大切な家賊で弟、甘楽は暴君の大事な親友で俺の"同士"だっちゃよ」
「いひひひ、軋兄だーいすきー!」
「その一割でいいから双識の奴の前でも見せてやるっちゃ…」
「はあ?別に双識なんて好きじゃないし。気持ち悪いし」
突然2オクターブくらい声色が下がった。喜色満面の顔からは表情が消える。
それを見て軋識は大袈裟にため息をつく。
「ちゃんと愛してるくせに…」
「愛してないし。殺人鬼なんて人類の敵じゃないか。人類最愛とまで呼ばれた俺が人を害する存在を愛する訳無いだろう?軋兄は超特別枠なんだよ。あの変態は論外の場外の大気圏外だよ」
「お前はほんっとに面倒くさい性格してるっちゃね…」
ぶんぶんと首を振りながら軋識の言葉を全力で否定する愛識。
「軋兄が甘やかしたせいですぅー。なので責任をもって俺を生涯甘やかせさもないとネットワーク世界ぶっ壊す」
「臨也と甘楽も混じって言動めちゃくちゃになってんぞ。心配しなくても俺が生きてる限り大事にしてやるっちゃ。可愛い弟なんだから」
「いひひひっ!」
双識の話題から逸れると、氷点下のオーラが霧散し、元の懐いた猫のような表情に戻った。
そこへ、愛識と部屋の中にいる人間以外には開けられない玄関のドアが開き、とある人物が入ってきた。
「鍋の材料を買ってまいりました愛識さま!!!!」
両手にスーパーのビニール袋を提げて飛び込んできた紀田正臣もとい闇口正布に、哀れにも巻き込まれた表世界の矢霧波江はさらに混乱した。
……………………………………
零崎愛識
軋識にはハイテンションのデレ120%、他の家族には臨也に近いテンション+ツンデレ、双識には氷点下テンションツンデレ200%
愛識を最初に見つけたのは軋識で、随分長い間面倒を見ていた。軋識も愛識を弟として大層愛しているが双識に対してもっと分かりやすく愛情表現すればいいのにと思っている。
二つ名は人類最愛。病的なまでに人類を愛し、どんな人間でも愛し抜く異常さから付けられた。本人が愛されているわけではない。
「○○じゃないし」というセリフはツンデレの証拠だと軋識だけが知っている。
甘楽
ネカマっていうか女装。《仲間》プロデュースの超絶美女。見た目も言葉遣いも女性。多重人格でも性癖でもなく「甘楽はこう」と決めたからには貫き通したいというだけ。ぶっちゃけ悪乗り。友の悪友兼《仲間》の中でも強い発言力を持つ2。性的な意味で兎吊木に狙われている。安全地帯は軋騎か友のところだけ。
特技はウイルス作り。世界をひっくり返すことができるウイルスを何種類も保有している。
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