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  大空が頑張る日々


とりあえずうざったく纏わりついてくる兄をかいくぐって俺は頑張った。

生前はダメダメなダメツナだったことを悔い、勉強運動とにかく頑張った。


一番努力したのは武術。それも合気道。


女がやるには護身術、と言い訳しやすいそれは同じく過保護な両親にも認めてもらえた。
兄は最後まで渋っていたけれど『兄さんに守ってもらってばっかりじゃ悪いと思って…だめ?』という言葉でコロッと機嫌が直ったので俺は自分の成長を感じた。



ダメダメな自分なんて嫌だ。


生まれて初めて、心の底から思った。


こんな自分じゃ誰も守れない。自分自身だって守れない。


自分を守ることが仲間を守ることと同義だと俺は気づけなかった。


自分すら守れないくせに何を守ろうというのか。


自分の傷は、自分だけのものではなかったのだ。


俺は無意識のうちにどれくらいの人を、友達を、家族を、仲間を傷つけてしまったのだろう…





もう嫌だ、嫌なんだ。


何も守れない自分なんて!誰かに守られるだけの自分なんて!



遅すぎたことは分かってる。

それでも贖罪のように、俺は………意味のない努力をし続けた。





気が付けば俺は通っている道場で一二を争うと言われるほど強くなっていた。

「お前、強いのか?」

『…君は?』

「日吉だ。」

『私は幸村だよ。』


道場で日課である型の練習をしていると、茶色の髪を綺麗に切りそろえたちょっと目つきが悪い男の子が話しかけてきた。

俺の着ているものとは違う胴着を身に着けていることから、同じ道場だが違う分野の門下生なのだと分かる。


『君は合気道じゃないでしょ?いいの?』

「専門ではないが、人並よりできるつもりだ」

『…うん、分かった。それならいいよね』


女の子に負けた言い訳としては、十分でしょ?


「―――ッ!!」


緩やかに弧を描いた唇から零れた言葉に相手は逆上し、一気に攻め込んできた。

俺はそれを素早くかわし、追撃も難なく受け流し、相手の呼吸を計る。


合気道はその名の通り、相手と自分の気を合わせるもの!


大切なのは気と脱力。

柔と剛を使い分け、相手の体勢を崩す。
鋭いが単調な動きの手首を掴み、そのまま相手の力すら巻き込んで…



ダァンッ!!



日吉は一瞬自分の身に何が起こったのか理解できなかった。

ぐるりと視界が反転したかと思えば、次に目に映ったのは滅多に見ることのない道場の天井だった。


『えっと…そんなに強く叩きつけてないつもりなんですけど…』


呆然と天井を見つめていたら、市華の方から恐る恐る声をかけてきた。

身動きしない日吉を見てやりすぎてしまったかと危惧しているのだ。


「…問題ない。」

『よ、よかった…』


ほっと息を付いた。怪我をさせるつもりは毛頭なかったのだから。
手を貸せば案外素直にそれをとり、彼は立ち上がった。


「お前、名前は?」

『え?ああ、名前は市華だよ。』

「俺は日吉若だ。」

『あ…うん、日吉くん』

「……………。」

『な、何…?』

「下剋上だ!」

『はいっ!?』


いきなり叫ばれた。

日吉若くんと言うらしい同年代の子は俺をギッと睨みつける。


…やっぱり女子に負けるのはショックだったかなぁ
プライドとか傷つけちゃったか。

下剋上ってあれでしょ?
日本史で習った…「下位の者が上位の者の地位や権力を侵すこと」だったよね?

…うわぁ、俺、敵認定された!


「必ずお前を倒してやる!」

『あー…うん。』



この先、市華が中学生になりこの道場を辞めるまで。

日吉若は一度たりとも彼女に勝つことはなかった。



大空が頑張る日々
(何も言わずに道場辞めたけど)
(若くん怒ってるかな…)

 

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