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  大空が広がる日


『と、言うわけでこちら柳蓮二先輩です。先輩、こっちは私の仲間たちです』

「柳蓮二だ、よろしく頼む」


市華の隣に並ぶ男に視線が集まる。困惑と警戒を込められた視線をぶつけられても、柳は顔色一つ変えなかった。
僅かだが殺気も混じっているというのに。


「ボスのお前が決めたことだ。俺達は反対しねぇ。だが、そいつは本当に信頼できる奴なんだろうな?」

『もちろん。私は信頼も信用もしてるよ』 

「十代目の審美眼を疑うわけではないのですが、カタギの野郎ですよね?」

『そう…だね。それでも仲間になって欲しいって思ったから』

ふわりとほころぶように笑う市華に、"年上の野郎は全て敵"主義の獄寺も言葉に詰まる。


「…足手まといにならないレベルの腕なんだろうね?」

「極限に危険なこともあるぞ!」

「そうですね。入っても早々に殺されるか、最悪敵対ファミリーに捕獲されて拷問なんてことも考えられますよ」

思惑はそれぞれ違うものの、年長者の3人からはそんな意見が出た。
反対とまでは行かないものの、歓迎の雰囲気ではないようだ。

「薙刀を少しかじっている程度だ。その辺はご指導ご鞭撻のほどをよろしく頼む」

すっと美しい動作で頭を下げる柳に、3人も口を閉ざす。
その様子を心配そうに見ている市華に、リボーンはピンときた。




「…お前ら、デキてんのか」





「はっ?」
「へ?」
「!」
「なっ!?」
「む?」

獄寺、山本、雲雀、骸、笹川がそれぞれ反応した。
おそらく山本と笹川は理解していないのだろうが。

『えっあのっそれは、えっと…!』
「ああ、結婚を前提にお付き合いをしている」
『先輩それは初耳ですけどぉおおおおお!!!』

あるぇ!?先輩どっかで頭打ったの!?
天然!?計算!?たぶん計算だと思うけど先輩のことだし!

「じっじっじっ十代目ぇ!?本当ですか!?」
「デキてるって何がだ?」
『あの、本当だけど…えっと…』
「…ふーん。興味ないけど」
「極限に何の話だ!」
「あの男と市華が付き合っているということですよ」


雪肌を真っ赤に染めて慌てふためく市華と、それを穏やかに見る柳。
2人を包む雰囲気は紛れもなく恋人同士のそれだった。

爆弾を投下した恋人に、どう言葉を返したものかと頭をフル回転させていた市華は、リボーンの次の言葉で停止する。




「これから入ファミリー試験を始めるぞ」

『唐突すぎるーっ!!いつもだけど!』
「いつもなのか。」


場が混乱してきたところを一刀両断するようにリボーンが言った。 
蓮二先輩は冷静にデータとってる…って今から!?

『それって山本の時みたいなやつ?』
「いや、今回は特例だからな。それなりに厳しいぞ」

じゃあ山本の時は厳しくなかったのかよ!
ボウガンやライフルやダイナマイトが飛び交う試験が厳しくないのかよ!
市華は心の中で叫ぶ。口に出したらまた殴られることは分かり切っているからだ。

「柳蓮二、お前は夜空の守護者候補だ」
『「夜空?」』

2人の声が重なった。
みんなを見ても首を傾げていたり眉をひそめていたり…知らないようだ

『リボーン、そんな守護者あったっけ?』
「守護者は天候に準えた大空、嵐、雨、晴、雷、雲、霧の七つだと聞いているが」
「オメーはペラペラ喋りすぎだアホイチ」
『痛いっ!』

げしっ!と慣れた痛みが頭に走る。蓮二先輩がぎょっとしているのが分かる。

「市華!」
『慣れたもの何で大丈夫ですよ先輩』

その証拠に他のファミリー達は平然としている。見慣れたものだからだ。

「 夜空の守護者は大空と表裏一体。大空の背を守り、全てを塗り潰す宵闇だ。」
『でも、リングは…?』
「コイツだぞ」

リボーンがソフトボール大の黒い固まりを取り出した。
その小さな体の小さなポケットにどうやって収まってたとか聞いちゃいけない。

よくよく見ればそれは鎖だった。鎖がぐるぐると巻きつけられてボールのようになっているのだ。

「鎖か?」
「ただの鎖じゃねぇ。マモンチェーンだ」
『マモンチェーン?それってリングをレーダーで感知できないようにするためのものでしょ?』
「そんなものもあるのか…」

蓮二先輩がまたノートを開く。もう気にしないことにした。市華の適応能力は天下一品だ。

それよりも何故、過剰なまでにマモンチェーンが巻かれているのかの方が気になった。

「コイツは…俺たちには触れねーんだ」
『触れられない…?』
「だから鎖を巻いているのか?」
「こいつは適合者を自分で選ぶらしい。詳しいことは何も分かってねーし、守護者の前例はない。この代で新たに出現した地位だ」
『え…』


新たに出現した?それは、どういう意味なのだろう


「…お前が死んだ後の話は、少しだけしたよな」
『!』


重い石を吐き出すような声色だった。
いつでも横暴で傲慢不遜な家庭教師とは思えない。
改めて、仲間の目の前で死んでしまった重みを知る。

私は彼らを置いていってしまった。
目の前で失わせてしまった。
それは、紛れもない私の罪だった。


「十代目の体が消えて、残ったのは大空のリングだけではなかったんです」
「大空のボンゴレリングともう一つ、別のリングが浮かんでたんだぜ」


ふわふわと、まるで誰かを求めるように炎の残滓を瞬かせる大空のリング

そしてもう一つ。




漆黒。




すべての光を飲み込むような闇が、橙に寄り添うように浮かんでいた。
目を凝らしてみると、それはリングの形をしていることが分かった。

しかし、誰も触れることができない。

守護者もアルコバレーノも触れようとした瞬間に弾かれる。
果てはボンゴレ・ヴァリアー・キャバッローネ・アルコバレーノ総動員で抑えにかかったが、闇が消えることはなかった。
仕方なくマモンチェーンを巻き付けて抑えることにしたのだ。


『だ、誰にも触れないって…!そんな危ないもの、蓮二先輩に渡せないよ!!』

「市華。その場にいた俺たちアルコバレーノはこう考えたんだ」









このリングは、必然的に現れたものであり

トゥリニセッテが欠けた影響で出現したものである

適合者はおそらくただ1人

今この場にはいないもの

元の世界にはいなかったはずのもの

そして、

大空を支え、寄り添うことができる者のために現れた…もう一つの空






「推測だったが間違っちゃいねえだろう。この条件に当てはまる者はそうそういねぇと思ったが…」

「それが、俺だと言うことか?」

「確証はねぇ。だが、この地位はお前の望み通りだろ?」

「確かにな。大空…市華を支えることができれば、俺はそれ以上望むことなどない」


うっすらと開かれた切れ長の瞳を見て、リボーンは思った。

同じ漆黒だ、と。

リングと同じ、強い覚悟を持った澄んだ漆黒だった。
リボーンはこの時点でほとんど確信していた。



「鎖を外すぞ。柳以外はぶっ飛ばされねーように手すりにしがみつけ!」



守護者たちは急いでリボーンから離れ、手すりに捕まった。
困惑している市華も獄寺と山本に両側から挟まれるように固定された。


じゃらり、と重苦しい音と共に鎖が外される。
途端に墨のような闇が空を塗りつぶす勢いで溢れ出した。

「相変わらずすげぇ炎だな…」

「とんでもねぇ力だ。本当にあいつが適合者なのか?」

『先輩…っ!』

柳は物凄い圧力に晒された。
前へ倒れるように全体重をかけるがそれでも足がずるずると後退する。


『…あれ?』


何メートルも離れている獄寺達にも届く夜空の炎。
しかし、

『(私を…避けてる?)』

市華は髪が少し後ろへ流される程度の力しか感じない。
まるで磁力に操られているように綺麗に穴があいている。


『(この炎…そこまで攻撃的じゃない?)』


みんなは押されてはいるものの吹き飛ばされてはいない。
屋上から吹き飛ばされれば一溜まりもない。…とはみんなに限ってないかもしれないけど危ないことに変わりはない。

この炎は…ただ、守ろうとしている。


そのことに気づいた市華が大声を上げて柳に知らせようとするが、


ゴスッ、

『ふぐぎゅっ!?』


口を開いた瞬間、中に鉄臭い何かを詰め込まれた。
それはついさっき外された長いマモンチェーンだった。
そんなことをするのは…

『ひぃほぉーん!!!』

「余計なことは言うんじゃねぇ」

近距離で炎とぶつかっている柳を助けようと思ってのことなのに、何故止めるのだ?と視線で反抗するが、リボーンはどこ吹く風。

市華の肩に腰かけて快適空間にいるリボーンは、さらに言葉を続ける。

「お前の言葉で柳がリングに認められなくなる可能性がある。黙ってろ」

『ぺっぺっ!で、でも!』

炎は強くなる一方だった。
まるで柳に何かを問うているような炎…

「仕方ねーな…柳!」

「くっ…な、んだ!?」

「お前の覚悟は何だ?お前は力を手にして何がしたい?」

「俺の、覚悟…」

柳の瞳に光が宿る。
漆黒が輝くその瞳で、リングを見据える。






「俺は、ただ市華を守りたい!!それ以外は望まない…市華を愛しているからだ!!!」







音もなく炎が爆発した。
内に秘めていた力が解放されたかのように…

市華たちは目の前が闇に塗りつぶされた。

刹那、



漆黒の炎を灯したリングが目に入った。



それは、柳の右の中指に納まっていた。






………………………………………
ぅぷ!完了!

そのうち柳さん視点の話をいくつかあげようと思います。

主人公視点ばっかで何で柳さんこんなに惚れてるのか分かんないって感じがしたので




 

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