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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -



  大空が救われる日


次に目を開けたとき、真っ白な天井と珍しく焦燥の表情を浮かべた蓮二先輩が映った。

ゆっくり身を起こすと、消毒液の匂いが鼻につく。
ここは、保健室のようだ。


「大丈夫か、市華。突然倒れたんだ。おそらく貧血だろうが、一応病院に…」
『いえ、大丈夫です。問題ありません。』


かけられた厚意を突っ返すように言った。
…あの程度の混乱で、俺は倒れたのか。
情けない。リボーンがいたら射殺されそうだ。

「市華…1人で抱え込むのはやめろ。お前は人を頼らなさすぎる」

蓮二先輩の言葉に失笑しか出ない。
頼る?俺が?

誰よりも強く誰よりも逞しくあらねばならない俺が?

そんなこと…できない。やっちゃいけない。
望んではいけないんだ。



決別しよう。

今ここで、表の幸村市華と別れるんだ。



『蓮二先輩…』

「どうした、市華」

『私、兄さんたちが嫌いです。』


まっすぐ前を見てそういった。
蓮二先輩の方は…向けなかった。


『好きだったからこそ嫌いです』


好きだった。

ウザったくてどうしようもない兄でも、好きだったんだ。

家族だもの…愛していたんだ。

でもね、もう失望してしまったんだよ兄さん。

"私"を無くしてしまいたいと思うほど悲しかったんだ。嫌ってしまったんだ。


『私はこの学校を辞めます。もう見ていられない…もう大切だと思えない。』


天秤は傾いた。

元より立海の皿には兄さんと蓮二先輩しか乗っていなかったし、並盛のみんなは俺を必要としている。

傾いた…はずだ。

蓮二先輩がいても、俺は…



「市華…」


胸の中で感情がくすぶり、焦げ付き始めるのを感じる。


グイッ、

『っ!?』

突然顔を真横にずらされた。
バチンと音がしそうなほど正面から蓮二先輩と目があった。

鋭い漆黒は…全てを飲み込むようだった。


『…ほんとうは…ついて来てほしいんです』


しまったと思うより早く、口から言葉が零れた。
優しくて穏やかなその漆黒に囚われる。


『でもそれは、学校が変わることで兄さんたちと敵対することで…俺の世界へ足を踏み入れること』

「その程度なら…俺は、」


慌てて取り繕うように言った俺に、蓮二先輩は初めて反論を口にした。
漆黒を見ていられなった。俺は静かに目をそらす。


「今の精市たちと共にいても意味がない。いたくない!それに、俺はお前が『その程度じゃないッ!!』


どうしちゃったの、俺。

冷静でいなくちゃだろ。

どうして、この人の前だと…ッ!



『その程度じゃないんだ!それだけじゃない…っ!私は、俺は、貴方の未来を奪ってしまう!』

「…どういう、ことだ?」

『みんなを巻き込んじゃった時とは訳が違うんだ…。これからは俺の意思でみんなを危険にさらす…!』


俺は、みんなを守らなくちゃいけないんだ!


まるで、喉から血の固まりを吐き出すように叫んだ。

堅く堅く結んだ手に爪が食い込む。
…痛い。

痛い、痛いよ…っ!


「…お前の言っていることが、今の俺には理解できない」


だが、と硬くなった声色の言葉と共に両肩を捕まれて…無理やり蓮二先輩と向き合う形なった。

見たこともないほど怖い顔をした蓮二先輩。

俺はそれが悲しくて、顔を歪めた。


「ならばお前は誰が守る!?お前が傷つくだけだろう!!」

『仲間がいる…俺の後ろに、たくさんの仲間がいる…っ』

「お前の隣には?」




…となり?





……いない。


だれも、いない。


俺は…独り…?


違う!


仲間がいるよ、ちゃんと………でも、


弱いところ何て見せられない。


俺がトップ俺がボス俺がリーダー





…じゃあ、私は何処に行くの?





「俺は、お前の隣にいたい。お前が…市華が好きだからだ。」



市華が。

幸村市華が…?



『でもっ!俺は普通じゃない…俺はマフィアなんですから!』



もう、堪えきれない。

溢れるように、俺は俺の正体と、私となった経緯を話した。



…終わりだ。


…軽蔑される。


…失望される。



ひとりに、される…








そう、思っていた。


「だから何だ?」

『だ、だから…っ!』

「それが何だ?いいだろう、お前の隣に立つためならマフィアにでも何でもなってやる。」

『貴方の幸せを、奪ってしまうんだ…』


弱々しく呟く俺を見て…蓮二先輩はふっと表情を緩めた。

暖かく寄り添うようなそれを…私に向ける。


「…市華」

『…?』

「 恋の悩みほど甘いものはなく、恋の嘆きほど楽しいものはなく、 恋の苦しみほど嬉しいものはなく、恋に苦しむほど幸福なことはない。」

『…はい?』

蓮二先輩の口から出てきた言葉が理解できなくて間抜けな声がでてしまった。

「ドイツの詩人、エルンスト・アルントの言葉だ。」

『いや、あの…どういう、』

「愛の光なき人生は無意味である。
人が天から心を授かっているのは、人を愛するためである。
そなたのために、たとえ世界を失うことがあっても、世界のためにそなたを失いたくない。
ある一人の人間のそばにいると、他の人間の存在など全く問題でなくなることがある。それが恋というものである。」
 
『な、な、何それっ!?』

ぼわっと火がついたように顔が赤く染まる。
混乱のあまり敬語が抜け落ちている。

「恋の格言というヤツだ。俺はこれらが今まで全くと言って良いほど分からなかった。」

『ぁ…え…』

「でも今は…身に染みてよく分かる。」


先輩が屈んで市華と目を合わせる。
いつも閉じられている瞳が薄く開き、橙と漆黒が交わった。

市華は、動かない。動けない。



「お前を…本気で愛しているからだ。」
 


駄目だ。

駄目なんだよ、先輩。

そんな曖昧な愛や恋で乗り切れる世界じゃない。


『せん、ぱっ…』


…本当は分かってる。

先輩の気持ちは強固だ。

年不相応なくらいに頭のいい先輩が、何も理解せずに決心するわけがない。

ここで突き放せばいいのに…俺は、私は…



『…っき、です』

「市華…?」

『すきです…蓮二先輩…!』


馬鹿。

今の私は世界一の愚か者だ。

もうなんの涙かも分からないものが溢れた。

自分勝手で傲慢で、とても組織の上に立てる人間じゃないだろう。




…でも、貴方はそんな私を好きだと言ってくれるんだね。

…こんな、弱い私でもいいんだね。



受け入れて、くれるんだね…









この日、この時、この瞬間に。


私は…本当の意味で幸村市華になった。


俺と私を受け入れた、貴方の隣で。





「お前が隣にいてくれさえすれば、俺は幸せだ。」




…どうして貴方は、私を泣かせることばかり言うんだろう。

泣き疲れて寝てしまうまで、ずっと

蓮二先輩は私の背中を擦ってくれていた。











…ありがとう、ごめんなさい、愛してます。

私も、貴方が隣にいてくれれば幸せです。

きっと…世界で一番幸せです…




……………………………

恋の格言を調べると非常に面白いです。

蓮二がやたら熱い人になりましたが、恐らく市華ちゃん関係のみでしょう(笑)

さっさと爆発(転校)しろお前ら!



 

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