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  大空が変化する日


俺は幸村家に帰った。

辺りは初夏にさしかかる頃だというのにすでに暗く、どれだけ並盛にいたか分かる。
時間を忘れるほどの幸せなんて、再び生まれて初めてかもしれない。



俺は、一つの決心をした。

それが揺らがぬうちに、伝えてしまおうと思う。



『母さん、お願いがあるんだ』

「あら、なぁに?珍しいわね市華ちゃん」

『…あのね、母さん』



私、転校したいんだ―――……。







俺は翌朝、何食わぬ顔で登校した。

朝練の準備ため、兄さんよりも早くに家を出て支度する。

ちなみに立花さんはこない。
何でも朝が弱いそうで。レギュラーもそれを容認しているようで。



なんだそりゃふざけんなよ。



俺だって朝苦手だったさ!
リボーンに叩き起こされるうちに慣れちゃいましたけど。
何なら毎朝生命の危機を感じる早朝ライフルドッキリでも仕掛けてあげましょうか?

『…でも、後少し』

昨夜の俺の話は割と簡単に受け入れられた。

何でわざわざ県外の公立に?と首を傾げられたが、頭が格段に良くなった俺の半端じゃない話術を発揮して丸め込んだ。

沢田家こと元自宅への下宿も認められ、近々母さんと挨拶に行く予定。


うん、順調だ。


順調…なのに、

「…市華?どうかしたのか?」


何で?
欠片も嬉しくない。

何で、何で、何で?
少し…ほんの少し前までの俺なら、諸手をあげて喜んだはずだ。

少し前。

そう、テニス部に入る前までは。


『いえ、何でもありませんよ。』
「いいや、何か隠しているだろう。」
『何の証拠があるんですか?お得意のデータですか?』


あぁ、刺々しくなってしまう。
可愛くないな…"私"


「違うな。お前のデータは、もう取っていない」
『はい?』
「データを取るまでもない。お前のことなら分かる。」
『は、?』
「…何故、だろうな?」

『………。』 


その含みある物言いは、俺に悟らせるには十分で。

俺の虚勢を叩き割るのにも…十分だった。



『…うそ。』



うそ。

こんなことはあっちゃいけない。

だって俺は"俺"なのに。

俺は、私は、貴方に選ばれていい人間じゃない。



「嘘じゃない。俺は、無理矢理お前を調べ上げ、知られたくないことを暴くつもりはない」
『…うそ、嘘、だっ!』
「お前から話してくれることを、待っている」
『やだ、やめてっ…!』


俺は、

私、

わたし、は…


あなたが、





俺はその場を逃げ出した。

全力で、準備運動もなかった足が軋むのも気にせずに

逃げろ。
逃げろ逃げろ逃げろ!!

何から?蓮二先輩から?



…ちがう。



俺の、内側から声がする。



きみがにげたいのは、



聞きたくない。
なのに、耳をふさいでもしゃがんでも目をつぶっても響き続ける。



きみのこころからでしょう?



『やめて…やめて…!』


苦しいよ…
兄さんが離れていった時よりも、誰かに謂れもない陰口をたたかれた時よりも、比べものにならないくらいに胸が痛い。

知っている。

これは、昔に感じた痛みだ。




ぐらりと傾く身体 

霞んでゆく視界

遠くから声が聞こえる

意識が…混濁する




閉じた瞼の裏に浮かぶのは、大切な仲間ではなくて…


優しく微笑む    ひと…







私の幸せは、貴方の未来を奪います。

私の想いは、貴方の手を汚します。

だから私に近づかないで。

私は、貴方が、


あなた、が…





(それは、失う痛みだ)



………………………
急展開とか言わないで!

お前らいつの間にそんなに仲良くなったの!?
って言ったら負けだよ!

閑話入れるとただ市華がきゅんきゅんしてて柳が脳内で暴走してる話にしかならないから省いたよ!

…いつか書きたいなぁ

 

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