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BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -



  大空が涙する日


抱き合ってひとしきり泣いたあと、俺達は応接室にいた。

…何で雲雀さん何も言わないんだろ。群れてるのに。



「…で、お前の今の名前は幸村市華なんだな?」

『う、うん……女の子になっちゃったみたいで、凄く焦ったよ』

そりゃあ、ね。
一応年頃の男子だった俺がいきなり女の子になっちゃったんだから当たり前だけど。

「ツナはツナなのな!」
「十代目はどんなお姿でも凛凛しいです!」

相変わらずな2人にほほ笑む。顔は若干似てるけど性別も髪型も違う俺にすぐ気がついてくれて、本当にうれしかった。

「じゃあ市華ちゃんって呼んだ方が良いのかな?慣れないなぁ…」
「ツナさんはツナさんですもんっ!」
『京子ちゃん…ハル…』

「確かに呼び名は重要だな。その判断はツナ、お前に任せるぞ」


以前の俺なら…たぶん、弱々しく即刻"無理"と言っていただろう。
けどね、もう俺は決めたんだよ。


『分かったよ、リボーン。俺はボンゴレ十代目、だもんね』


にこり、と微笑んでそう返した。

リボーンを含め、他の守護者たちが驚いているのが分かる。


『俺が死んだのは、俺が不甲斐なさ過ぎたから…これからは、ちゃんとボスらしくする。みんなを、守りたいんだ…』


一見、綺麗事に聞こえるけれど、俺はその綺麗事を言うために強くなる…なりたい。


「やっとボスらしくなってきたか」
「くふふ…乗っ取り甲斐がありますね」
「君、まだそんなこと言ってるの。綱吉に手出したら咬み殺すよ」
「冗談に決まっているでしょう」
『ふ、2人ともやめて……って、え!?』

雲雀さんが何か…俺のこと考えてくれてる発言…?っていうか骸、俺のこと乗っ取るのやめたの?

「君がボスとして覚悟したように、僕だってそれなりに考えたんだよ」
「…素直にもう失いたくないと言ったらどうです雲雀恭弥」
「うるさいよ南国果実。君だけは気にくわない…っ!」

『仲悪いのはそのままーっ!?』


俺はそう叫んだが、内心は嬉しくて仕方なかった。

みんなが俺のことを考えてくれている。

嬉しくて堪らない。



あぁ、やっぱりここが、



俺の、居場所だ…




『…あれ?』
「どうした?」
『俺、ブラッドオブボンゴレじゃ…ないよね?』

リングに拒絶されるんじゃ…と思ったことを口にした。

でも何故だろう。
不安も心配も全くない。


「…お前はどう思うんだ?」


リボーンが聞く。
それはいつもの、何かを知っていて俺を試す時の顔。


『根拠はないけど……大丈夫な、気がする』
「超直感か?」
『分からない。もし超直感だとしても、何で今の俺にあるの?』
「それは俺も分からねぇ。だが…ひょっとして市華の魂に刻まれているのかもな」
『俺の魂…』

リボーンから市華って呼ばれるの、新鮮だな。

でも俺はもう新しい俺なんだ。
いつまでも悩んで迷って止まるわけにはいかない。



「ただ、分かることが一つある」

と言ってリボーンが取り出したのは…


『おしゃぶり!?え、あれ?リボーンのはあるのに!?』


リボーンの首にあるのと同じおしゃぶりだった。ご丁寧に色まで同じ。


「ちげーぞ。」

そう言うや否や、おしゃぶりが真っ二つに割れた。
えぇええ、と焦るが…中から出てきたのは指輪。…って、


『リングケース!?紛らわしっ!!』


なんでわざわざおしゃぶりにしたの!?
とつっこめば、おしゃぶりの形がうにょ〜と変わる。


『レオンだったのかー。それにしても、その指輪…』


輝きを失い、錆び付いているそれ。
エンゲージリングなどのアクセサリーとは違い、大きくて装飾も細かい。

色こそ変わり果てているものの、それは…


『お、大空のボンゴレリング!』


埋め込まれた宝玉は濁り、金属部分は光も反射しない。
荘厳な雰囲気を、一切無くしてしまっている。


『一体何が…』


俺がそう聞くと、皆一様に顔を背けた。
京子ちゃんたちなんて、泣きそうだ。


「十代目が…お亡くなりになった後のことです。」


獄寺くんが口火を切る。…俺が死んだ後…?

「せめて体だけでも、過去に帰そうってみんな言ったんだ。」
「でも、綱吉の体に触れた途端に…」
「オレンジ色に輝いたかと思えば、綺麗に消えてしまったんです。」

それに山本、雲雀さん、骸…と続く。

「それで、後に残されていたのは…」
『リング、だけ?』
「…そうだ」

俺が死んだ後に…そんなことがあったんだ。
そう思って、"沢田綱吉"の遺品であるリングに触れた。


…すると、



ぽぅう…



『う、わ…っ!』

瞬く間に暖かなオレンジ色の炎を噴き出した。

それはリングを覆い尽くし、浮き上がったと思ったら、ひとりでに俺の中指に収まった。



『え……あっ!』



ふっ、と炎が消えたかと思うと、光を反射し白く輝く指輪と、その中央で大空のような煌めきを取り戻した宝玉があった。


「…リングもお前を待っていたみてぇだな」
『そっか…』

ありがとう、信じて待ってくれてて。


『…俺、こっちに転校してきたい』
「…俺達は良いが、お前が今通っている学校はいいのか?」
『うーん…友達はいるけど……嫌なことも多いし』
「嫌なこと?」

リボーンの声が低くなった。
その後、俺は洗いざらい部活での出来事を吐かされた。
適当なところはぼかそうとしたけど、リボーンの読心術まで防ぐことはできませんでした。はい。

俺の黒属なんて所詮そんなもんさ…リボーンに敵うなんて思っちゃいなかったよ!




「…市華ー俺ちょっとでかけてくるわ」
『は?』
「十代目!自分も怨敵を…いえ、ダイナマイト仕入れてきます!」
『いや、待ってちょっと!』
「下等生物は潰さないと」
『下等生物!?』
「堕ちろそして巡れ…というか巡るな。輪廻から外れろ」
『骸、口調がー!?』

終いにはリボーンまで。

「最近良い的がなくて困ってたんだ」
『ライフルー!?』

しかも米軍御用達の一品だと…!?
みんなもそれぞれ、銃刀法違反も裸足で逃げ出す光景を織りなしていた。ヤメテ!

『ほ、ほら、一般人に手を出したら捕まっちゃうよ!』

そう言う事じゃないんだけどね、本当は!



「…そうだな」



そういってリボーンは銃を下げた…が。
わ、笑ってる……!




「お返しは敵の土俵でおっ始めるか」



………………嫌な、予感が。



『生きて帰れなかったらごめんなさい蓮二先輩…!』



俺は別の意味で泣きそうになった。





………………

次回は沢田家に帰ります。




 

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