気分は最悪。


「う……」


好きなひとにあそこまで言われたら私でも、というか私はすぐには立ち直れない。
…あーあ、


「……見られる前に部屋に戻ってたかった」


レイヴンが引き留めるせいだ。


「(…………もう、好きでいるのもやめようかな、)」


その方が自分と彼のためな気がする。
そんなことを悶々と考えていると、ドアのノック音が聞こえた。
そこで私の思考は中断される。


「リア?居るかしら?」


ドア越しに聞こえたのは恐らくジュディスの声だ。
私は早急に目に溜まった涙を拭き、受け答えた。


「あ、あぁ、ちょっと待ってて」


私は必要最低限の持ち物を腰のポーチに詰め、ドアの方へ向かった。
ドアを開けるとそこにはやはりジュディスが居た。


「ごめん、待たせて」
「いいえ、全然待ってないもの。
……何か、あったのかしら」
「!い、いや、何でもないんだ」


この疑問形で聞いてこないのが怖い。
きっと分かって言っているのだろう。


「それならいいのだけれど」
「…あぁ、じゃあ行こうか、」


私はこの場の雰囲気を誤魔化すために、足早に外へと出た。










* * *










そうして遂にやって来た悪党の巣。
様々な裏路地を縫って来たため、光が当たらずジメジメしている。
…少し肌寒いのは私の服装の所為であろうか。


「じゃあリア、頑張って」
「う…全く自信がない」
「ちゃんとこなしてくれればいいわ。
貴女が親玉を誘ってる間に、こっちでは下っ端を倒すから」


多分すぐ終わるわよ、その言葉に素直に頷くと、ジュディスはいい子ね、といって微笑んだ。
…何処までも絵になる女性だ。


「…行ってきます」
「ふふ、行ってらっしゃい」


…しかし……気が重い…!










* * *










「…あ?誰だお前」


その悪の巣の前には丁度、門番みたいなものであろう男性が二人立っていた。
向こうは私に気付いたようで不審そうに話しかけてきた。
下手に出てたらまず問題はない、かな…


「はじめまして…私、貴方達の仲間になりたくて来たんです」
「仲間だぁ?」
「えぇ、どうしたらいいですか?」


相手二人は尚不審そうだ。
くそ、こうなったら…
私は自分に近い方の相手に近づき、腕に身体を擦り寄らせた。
…あぁ…自分が気持ち悪い…


「…ね、お願いします…」
「!」
「どうしたらいいですか、…お金?それとも、夜のお相手…?」


女の武器である胸を押し付け、言う。
もうさっさと通してよ…!
すると相手はもう一人と目を合わせ、何かを合意した風に頷いた。
それと続くように私を下卑た顔で見てこう言った。


「…俺らの相手、してくれんのかぁ?」
「ふたり?激しそうですね」
「それじゃ連れてってやるよ」


付いて来い、そう放ち男性逹は悪の巣へ足を踏み入れた。
一先ず第一関門突破か…


「それにしても…嬢ちゃんイイ身体してんじゃねぇか…」
「…そうですか?」
「あぁ、今すぐ犯してぇな」
「ひゃ、」


急に胸を触られ変な声が出る。
この男共は…!


「お?感度も良いのか?
こりゃ最高だな、ハハハッ」
「も、もう…どうせすぐ夜は来るんですから、今はちょっと我慢してて下さい」
「それもそうだな…
…ま、お前みたいなのはすぐに頭に喰われちまうんだが」


…嘘でしょ
まさか出会って二秒でそんなことに…とかないよね…!?


「その後俺らが美味しく戴いてやる」
「……………」


激しく不安だ。
今こんなこと言うのもなんだが一応私は処女だ。
…それは、避けたい。
まぁジュディスがすぐ来るって言ってたし、大丈夫かな…


「着いたぞ、頭下げろよ」
「分かりました」


頭を下げて扉が開くのを待つ。
ギィィ、と古めかしい音が止み、男の声が響いた。


「頭、仲間になりてぇとか言ってきた女なんですが…」
「通せ」
「はっ」
「…………」


私は頭を下げたまま黙って歩を進める。


「名前は」
「…リア、と申します」
「顔を上げろ」
「はい、」


顔を上げるとそこには想像した通りの悪の親玉、つまりいい年した強面おじさん、がいた。


「ふ…中々の上玉じゃねぇか」
「光栄でございます」
「おい、人払え」


彼の一言は回りにいた人々を一掃した。
…まさか…!


「こっちに来い」
「きゃ、」


親玉の膝を跨がせられる。
あ、安定感がない…


「イイコト、するか」
「い、いいこと?」
「おめぇだって分かってんだろぉ?」


と、親玉は部下と同じ様に下卑た笑みを浮かべ私の脚から上へと厭らしく撫でていく。


「ひ、」


背中が気持ち悪くゾクゾクする。
段々目が潤み、嫌悪感は増していく。


「だ、…め」
「気持ちいいんだろ?」
「ちが」


う、と続けようとした私の言葉は、扉の開かれるバァンという激しい音に掻き消される。
ジュディスが来たのだと思った私は、予想外の人物に息をするのも忘れるほど驚愕した。

――そこにいたのは、黒髪長髪長身の男、まさしくユーリだった。


「な、」
「んだてめぇは!?」
「あぁ?黙ってろよ…どうせお前今から捕まるんだぜ?」
「んな訳…おい!おめぇら!」


大声で叫んだ頭の声は、虚しく部屋に響き渡るのみだった。


「ッなんで誰も…!」
「はは、無駄だって…オレが全員伸してやったからな」
「ッチ…!」
「きゃ、」


私は焦った頭に突き飛ばされ、床に倒れる。
お尻を打った。かなり痛い。


「大丈夫かよ」
「!……なんで貴様がここにいるんだ」
「…依頼を受けただけだろ、」


そういった彼は、少し言葉に詰まったように見えた。
というか、心配してくれた?この私を?


「、…礼は言っておく」
「ほんと、素直じゃねぇ女」
「喋ってられるのも今のうちだ!!」
「おっと、」


憤慨した頭の攻撃をいとも簡単に避けてしまうユーリ。
…やはり、格好いい。


「傷つけたくもなかったんだが、」
「ぐあ、」
「抵抗されちゃなぁ…っと」


頭は腹部を思いきり強打され気を失った。
倒れ込む頭をそのままにし、ユーリはこちらに向かってきた。


「…で?立たねぇの?」
「あ、あぁ、」
「……立てねぇのか?」
「……………」


どうやらそうらしい。
流石に私の身体にはショックだったのだろうか。


「情けなさすぎる…もう、いい、お前は先に行っててくれ…」
「、…仕方ねぇな」
「!?なに、して」


いきなり膝裏に手を差し込まれたと思うと、宙に浮く感覚があった。
これは…まさか…


「(横抱き!?ありえない恥ずかしすぎる!)」
「(軽っ…)…帰んぞ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「黙ってろ」


有無を言わさぬその声に、私は従ってしまう。
なんだってこんなことに…!
夢、みたいだ…


「……(心拍が早い…!)」
「……(抱き上げてから気づいたけど、
…やっぱり露出多すぎる!)」


私と彼との間には沈黙が流れ、それはとてつもなく長い時間に感じられた。
だが、そう感じるのに私の心拍は弱まってくれなかった。

そんな私にジュディスからの冷やかしがくるのは、体感時間で遥か先、実際時間でもう少しの事である。






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名前変換すくなくてすみません!!




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