「という訳でリア、」
「ジュディス?」
「今回はあなたに決まったわ」
「…何が」
「じゃあ早速お出掛けしましょうか」
「だから何を!?」





* * *





「……どういう訳だ」


理解よりも疑問が勝る。
何故なにどうして私が、


「色仕掛けを?」
「あら、依頼よ」


さらっと言うジュディスは、何だか楽しそうに見える。
というか色仕掛けか…
旅してたとき以来、かな
あの時は私はやらなかったが…


「どうして依頼に色仕掛けを必要とするんだ」
「依頼の内容はね、盗まれたものを持ち主に返すっていうものなの」
「どこが色仕掛けに繋がるのか…」
「相手の盗賊の頭、」
「え?」
「女好きらしいのよ」


…絵に描いたような盗賊の頭だな


「私が色仕掛けしても相手は引っ掛からないぞ…」
「あら、でもあなたがやらなきゃ誰がやるの?」
「それこそジュディスで良いじゃないか…!」
「私?勢い余って騒動を起こしても知らないわよ?」
「………………」


やりそうだ、そう思ったのは普段の彼女を見ていればわかる。
…多分、結構な戦闘狂だ。


「それに、リアは可愛いわ」
「な、」
「意外と胸は大きいし、腰は細くて脚だってキレイよ。それから…」
「も、もういい…!分かったよやるからっ」


私のその言葉に、ジュディスは綺麗に微笑む。
しかしそれには有無を言わせぬ含みがあった。
私が褒められるのに弱いのを、彼女は知っているのだ。


「そうと決まれば、早速衣装を買いに行きましょう」
「…衣装?」
「男性を悩殺する衣装、よ」
「のっ…のうさつ…」


私は彼女に言われるがまま、街へ出た。








* * *








「なんだこれは…!」


用意されたのは、胸の頂周辺しか隠さない胸当ての布、
透けた素材で作られた、手の半分くらいの袖の長さの前が閉められないカーディガン、
短すぎる位のホットパンツ…仕上げにこれは…チョーカーか?
全体が黒で統一されている。
黒以外の色は、腹と足を丸出しにした私の肌の色。


「ジュディス…」
「よく似合ってるわ、リア
これなら男の人なんて一撃よ」
「ほ、ほんとにこんなんで…良いのか」


ジュディスはこれまた綺麗な微笑みで肯定した。
さぁ、一旦準備に帰りましょうか、そう言われ私は身を縮めながら帰路を歩いた。
…勿論着てきた長い上着を羽織るのを忘れずに。








* * *









「え…リアちゃん…!?」


帰ってジュディスと別れ、初めに会ったのはレイヴン。
失礼なことに此方を見てわなわなしている。なんだ。文句でもあるのか。
…もう開き直ってるなー…


「…何が言いたい」
「なにその格好!?」
「……気分悪くなるって言いたいのか」
「そんな訳ないでしょ!寧ろ最高よ!」
「それはそれで…」


なんというか…嫌だな


「で、どうしてそんな格好してるのよ」
「依頼。盗人の親玉を誘い出す」
「あぁ…なんか女性陣がそんな話してたわねぇ…」


成る程、そう相槌を打ちながらレイヴンは続けて、


「しっかしリアちゃん…スタイル良いのね」
「…は?どこが」


こんな全てにおいて貧相な身体の何がと言うのか。


「少なくともそんなにボーンとは…」
「ボーン?…骨?」
「やだリアちゃん可愛い!ここよここ」


そう言いレイヴンは自分の胸辺りを指差した。
……胸…


「っ!そ、そんなところ見てたのか!?
このおっさん…!」
「おっさんなのは否定しないけどさ!
だってリアちゃんいつもはそんなに目立ってないもの」
「…そうか?」


私はレイヴンから隠すように胸を抱きながら、自分の胸を盗み見た。
…うーん、


「…そんなに大きくは…」
「因みに…………サイズの方は」
「!」


このおっさんはなんてことを聞いてくるのか…!
だが答えない理由が無かったので、一応教えた。


「……アルファベットで、四番目」


様はDな訳だが。
…普通乳だと思う。


「あら、やっぱり大きめじゃないの」
「う、え…」
「おっさん良いこと聞いちゃったぁー、」「なっ、…」
「これからはリアちゃんも狙っちゃおうかなー♪」
「ばっ馬鹿言うな!」
「そうだぜ、こんな女狙っても損するだけだろ」
「…!」


レイヴンの言葉に思わずどもっていると、不意に後ろから聞こえたのは大好きな、あの男の、声。


「…ユーリ・ローウェルか」
「何言ってんのよ青年、青年だって………何でもないわ」
「…?レイヴン?どうした」
「(後で殺……いや半殺しにしよう)」


言い淀むレイヴンを不思議に思いながらも、好きな人が傍にいることで鼓動が激しい。
…彼と顔を合わせると何時もこうだ。
そして、私は何時だって可愛くない


「そんな格好したってどうにもなんねぇと思うけどなー」
「な、…誰から聞いた、この事」
「ジュディだけど。
聞いてちょっと見てやるかと思ったけど…やっぱりそんなもんだよな」


心臓が痛い
さっきまではドクドクと激しかった鼓動も、今この瞬間で氷水を浴びたかの様に一回波打って醒めた。
私もやっぱり女らしい。
目頭が熱いのは、けっして泣きそうなんじゃない。貶されて、怒りのあまり、だ


「っ、………お前にどう見られようが関係ない!
私は、私の使命を全うするだけだ」
「は、無理だって、お前じゃ役不足」
「黙れ!嘗めた口を…っ
私はこの依頼を立派に果たして見せる!」
「リアちゃん…」
「…ぁ…、…すまないレイヴン、私は部屋に戻る」


胸が痛いのは、普段出さない大声を出したから。
私は顔を見せないように足早に部屋へと戻り、ベッドに飛び乗った。








* * *








「あーあ…青年、酷すぎ」


リアちゃん、多分泣いてたわよ そうレイヴンが付け足すと、ユーリは目を見開いた。


「嘘だろ、…リアが」
「流石にこんな時に嘘なんてつかないわ。
彼女だって女の子なのよ、女の子な部分否定されたら傷付くに決まってるでしょ」
「!…ッ」
「青年は、どれだけ彼女を傷付ければ気が済むの」


責めるような口調でレイヴンがまくし立てると、ユーリははっとした表情をしてから、すぐに先程リアが走り去った方を向き歩を進めようとした。
だが、ユーリは一歩を踏み出すことが出来なかった。


「…まぁ、行けないのは当然よね、
これ以上青年には何もできないもの」
「ッリア……」
「…ホントにリアちゃん貰っちゃうわよ、いいの?」
「良い訳ねぇだろ…!」
「ふーん…じゃ、頑張ることね。
応援してるわぁ〜」


レイヴンはひらひらと手をだるそうに振ると、ユーリから離れた。
それと同時にユーリにはやりきれない思いが残る。


「くそッ…」


誰もいなくなり静けさに包まれた廊下に、壁を殴った音が無念に響く。
リアを渡すつもりは毛頭ない、が、彼女が本当に渡ってしまう気がする。嫌でもしてしまう。
そんな思いは頭をぐるぐると廻る。


「オレが、…リアを傷つけちまったんだよな」


なんてことだろうか。
愛しい相手なのに…


「ホント情けねぇよ、」


そう言い溜め息をつく。
…このままうだうだ言ってても仕方ねぇか

「せめてもの罪滅ぼしに、オレも同じ依頼受けっか」


そこでふとあの衣装のリアが思い出された。


「…………平気で居られるかよ…」


最初に見たときは心臓が飛び出そうだった。
リアと向き合ってたときだってはっきり言ってヤバかった。オレの色んなものが。


「……好きだ」


この言葉が彼女に届いたら良いのに








* * *








「あら、おじさま?随分疲れてる様に見えるわ」


ジュディスはリアの部屋に迎えにいくまでの廊下で、こちらへ歩いてくるレイヴンに会った。
そのレイヴンは何故か疲れた表情をしている。


「そうなのよ〜…青年ったらリアちゃんに酷いこと言うもんだから」
「ふふ、そうだろうと思ってたわ」
「ジュディスちゃん分かってたのね…」


ジュディスは、あの二人が会ったらまず口喧嘩だもの、と告げた。
実際、彼らが普通の会話をしている所は見たことがない。


「両思いなんだから…早くくっつきなさいよねもう!」
「あぁ、それで苦労したのね。
まぁそれができたら私だって毎日愚痴を聞くことが無くなる訳だけれど」


こうやって私達が陰で応援していることも知らないのだろう、彼女はそう思った。


「ユーリが言ってしまえば一発よ」
「はぁ…道のりは長いわ…」


だからこそ、面白いのよね












後編へ!






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