私には嫌いな奴がいる。
オレには嫌いな奴がいる。
品のない、言葉遣いが乱暴な男。
全く可愛いげのない男勝りの女。
ずっと大嫌いだ、多分これからも。
こんなことを言ったところで種明かし。
今まで言ったことは全部、
嘘です。
* * *
そう、好き…なのだ。
いつも視界に入るあの男が。
しかし絶対に言えない。恥ずかしすぎる。
というか…
「お前…本当性別間違えただろ」
こんなことを言ってくる位に彼は自分を嫌っている。
……最初は泣けてきそうになったが、今は慣れてしまった。
それに反論してしまう私が悪いと分かっているからだ。
「なんのことだ?お前こそ性別間違えたんだろ、女顔」
あぁ言ってしまった。
これでまた嫌われたんだろうな
「ってめ…」
「は、本当のことだろ?今さらどうした」
「…まぁお前、全然女っぽくねぇ女、に言われてもな…」
「…っ……お前だって男らしいのは背丈だけの癖に…!」
「あぁ…!?」
今日も言い合いが絶えない。
かくして彼との溝は深まって行くばかり。
* * *
そう、好きだ。
いつも近くにいるあの女が。
だが絶対に言えない。
…そんなこと言えるような男じゃない
というか…
「なんのことだ?お前こそ性別間違えたんだろ、女顔」
オレが照れ隠しに言った言葉にこんなことを言ってくる位に彼女は自分を嫌っている。
……最初は本当に心が折れそうだった、が、今は慣れてしまった。
何故か暴言をはいてしまう自分が悪いと分かっているからだ。
そうしてさっきの言葉、
これでまた嫌われたんだろうな
「ってめ…」
「は、本当のことだろ?今さらどうした」
「…まぁお前、全然女っぽくねぇ女、に言われてもな…」
「…っ……お前だって男らしいのは背丈だけの癖に…!」
「あぁ…!?」
今日も言い合いが絶えない。
かくして彼女との溝は深まって行くばかり。
* * *
「はぁ…」
これで何度目か知れない溜め息をつく。
言い合いの後は必ずと言っていいほど溜め息を吐いてしまう。
「あら、幸せが逃げてしまうわよ、リア?」
「、ジュディス…」
「また、かしら。
彼のことでしょう?」
そこで現れるのは大体この美女、ジュディスである。
時々レイヴンの時があるが、その時は大抵無視だ。
…レイヴンにこんな話したら、…何されるか分かったもんじゃない、から。
「そうだけど、」
「あぁ、もう分かってるわ。言い合いしたんでしょう」
…この人には何時だってお見通しだ。
まぁ私がこの話しかしない所為だと思うが…
「…そう、だよ」
「…素直じゃないのね、本当に」
「だって、……無理だよ、もう諦めてるんだ」
「あら、彼の気持ちも何も分かってないのに?」
「気持ちも何も、聞く前に決まってるじゃないか」
あれだけ色々言われて、自分のことを嫌いなのだと思わない方がおかしい。
その旨を伝えると、目の前の美女は呆れたように微笑む。
「…何がおかしいの」
「いいえ、ただ困ったわね、と思っただけよ」
「困る?ジュディスが?」
ええ、とやはり微笑む。
同じことを繰り返されて、私に呆れたのだろうか。
「…呆れさせた、かな?」
「私にとっては面白いわ」
「面白い、ねぇ…」
「決して傷ついてるあなたを見て、じゃないの。
…そうね、あなたが彼のことで悩んだりしてることが…かしら?」
「好きで、悩んでる訳じゃないよ…」
段々と落ち込んでいく私を、ジュディスは暖かく抱き締めた。
…これも、毎日の日課だ。
私は、これをユーリが嫌いになれるまで続けるのだろうか。
* * *
「あー…」
なんでこんな、思ってるのと真逆のこと言っちまうんだか…
どんどん嫌われてるよな、オレ
一人自己嫌悪に陥るオレの視界に写るのは、ふさふさした毛並の犬、ラピード。
「わふぅ…」
「元気出せってか?…無理だよ」
心配そうに見上げてきた犬を撫で、言う。
「男らしいのは背丈だけの癖に、だってよ」
好きな女に言われたら傷付くに決まっている。
…言わせてるのはオレなんだろうけど、
「…ホント、嫌になってくる」
こんなことしか言えない自分自身が。
「青年が素直じゃないからよ」
「チッ、おっさんか」
オレの後ろから声をかけてきたのはおっさんことレイヴン。
語尾に音符が付きそうな言い方に舌打ちをかましてやると、ちょっと!とか言われた。知るか。
「舌打ちだなんておっさん傷ついちゃうわよ!」
「あーはいそーですか」
「酷い!こうなったらリアちゃんと仲良くしてきちゃうんだからっ」
「…ふざけてんのか?」
癪だがこの男はオレがリアを好きなのを知っているはずだ。
「青年がおっさんを邪険にするからよー」
「…殺す」
「目がマジだ!ヤバい!ごめんなさいっ!」
オレが相当な剣幕だったのか、レイヴンはすぐに謝ってきた。
「リアに手ぇ出したら…オレでもどうなるか分かんないわ」
「こわっ……それだけリアちゃん好きならさ、早く言っちゃえば良いのに」
「、……………無理」
「リアちゃんがどう思ってるか分からないのに?」
「……どう思ってるって、んなの決まってんだろ…」
あれだけの暴言を言い合っていたら、何も言わずとも相手の気持ちは解る。
…アイツがオレに向ける視線、冷たすぎるくらいだからな
「はーぁ、青年って意外と純情ーっ」
「うるせぇな、」
「おっさん段々面倒くさくなってきた…」
「……?おっさんが面倒くさがる事なんて何にもないだろ」
「ここで言えたならどれだけいいことかー…っ!」
「…意味わかんねぇ」
そして溜め息をつく、悪い無限ループ。
オレは、これをリアが嫌いになれるまで続けるのだろうか。
* * *
「………あ」
はたり。
として会ってしまった。
何もこんなタイミング、相手のせいで落ち込んでいる時、でこんなこと…
神様は、何時だって私に優しくないのか。
いつもここで思うのは、謝らなければ、ということ。
しかしそうして謝れた事などただの一度もない。
「(ごめんなさいと一言言えたのなら、どれだけ良いことか)」
「……………」
無言でユーリを見詰めると、彼も私の目を見ていた。
とっさに睨んでしまう。
これも日々の反射になってしまった。
「………なんだ」
「!」
彼方から沈黙を破ってくれたのは非常に有難い、が、全く心の準備が出来ていなかったためビクリ、と身体が震えた。
「…お前には何の用もない。
邪魔だから退けてくれ」
また可愛くないことを言ってしまっている。
どうなっているんだ私の口は。何故こうも思っている逆を言ってしまうんだ。
退くなら私が退ければ良い話だろう!
「あ?お前が退ければいいだろ」
「(全くその通りなんだ!)
……何故私がそんな性に合わんことをしなければいけないんだ、貴様でいいだろ」
自分で自分を殴りたい。
あぁ、もう、なんでだ
「ほんっと可愛くねぇ女だな、それ以前に女かすら危うい」
「貴様こそレディーファーストという言葉を知らんのか?は、男の風上にも置けん奴だ」
「あぁ、自分ではレディーだと思ってるのか」
「…私が男だとしたらお前を優先しなければいけないか、お前は女みたいだからな
…ではどうぞお嬢さん」
私はユーリに道を開けた。
こんな言い方で道を開ける必要なんてなかったのに…
最初から無言で譲れば良かったんだ
「、…いちいちイラッとくる言い方だな…」
「どうしたお嬢さん、通らないのか?」
「…………チッ、覚えてろ」
「確実に忘れる」
そう言ってやっと私は彼に背を向けて歩きだした。
ああ今日も言い合いに始まり言い合いに終わった、
…最低の一日だ。
こんてぃにゅー…