頂きもの | ナノ


ヤマさんからの頂きもの






――自我が芽生える前から、三成とは常に一緒だった。

同じ夜に半刻の差で産まれた私と三成は、世に言う双子というものだ。

私が姉で、三成が弟。

二人揃って銀の髪に金緑の瞳を持ってはいるけれど、容姿の造形はまるで違う双子。

この戦国の世で珍しい双子故なのか、周りの人は皆、異形の姿の私たちを「忌み双子」と呼んだ。

実の親ですら異形の姿の私たちを厭うため、自然と私と三成は常に互いを信頼し、助け合う協力関係にあった。


私達に近付く害のある他者は遠慮なく互いに排斥し、作り上げた二人だけの世界。


言葉を交わさずとも相手の伝えたいこと、言いたいことを理解するほどにまで、私と三成は通じあっていた。



「……三成、」

「――あぁ。旭、」

「うん、了解」

「ふん」

三成と普段通りに会話をしていれば、何やら二つの視線を感じた。

三成と共にそちらに顔を向ければ、そこにはこちらをポカーンと見つめる家康とこちらを愉快げに見る刑部が。

「……今の会話、主語と述語すら無かったぞ」

「三成と旭は二人で一つ故。言葉などいらぬのよ」

何処か感動した様子で「これぞ本当の絆だなっ!」と笑う家康を見て、三成が不機嫌そうに鼻を鳴らす。

「貴様の言葉に無駄が多いだけだ家康」

「訳すと“君の語彙力は凄いね家康”だって」

「旭ぃぃぃいいいいっ!!!!」

「なぁに、三成。貴方の攻撃的な言葉を柔らかく噛み砕いて通訳しただけだよ?」

刹那に抜かれ向けられた刃を短刀で弾き返し飄々と言い返すと、家康が唖然とした面持ちで三成を見た。

その目は感動で微かに――否、もうこれでもかと涙を滲ませて輝いている。

「み、三成……!ワシのことをそんな風に思ってくれていたのだな……!!」

「なっ!?ちがっ――!!」

「……三成、否定するなら顔を赤くしやるな。それでは認めると同じことよ」

「っ!!?イィィエェェヤァァスゥゥウウッ!!斬滅してやるそこに直れぇぇぇええええっ!!!!」

「ハハッ!殴りあいか三成?お前との絆を深めるためならワシは受けてたつぞ!!」

拳(と刀)を交わしながらまるで追いかけっこのようにかけていく三成と家康を見送り、私は溜め息を一つ零した。

「もっと素直になればいいのに、三成……」

本人は至って認めないだろうが、三成は心の底で確かに家康のことを認めている。

同じ道を歩む良き宿敵として、友として家康のことを認識しているのに……素直に表に出さずに、今みたいにただぶつかり合うだけになってしまっている。

あれでは三成のことを周りが誤解してしまうのも仕方ない。

「せっかく私が三成の攻撃的な言葉を通訳してあげたのに……全く、素直じゃないなぁ」

「ヒッ!主と三成の深き絆は、時に本人が気付かぬ深層の本音をも暴くか」

刑部が愉快げに肩を揺らすので、それを小突いて笑った。

「双子の姉だからね。三成のことは全て分かってるよ。彼の気持ちも、何を考えているのかも」

ただ、そのせいで彼は自らの考えや思いをわざわざ表に出さなくなったのかもしれない。

楽な以心伝心の世界が通用するのは、あくまで二人きりの時だけ。

彼はその世界に慣れすぎて、人との接し方が不器用になってしまった。

そんな彼を甘やかして、私が三成の分まで周りとの意志疎通を図ろうと話すようになってしまったから、余計に彼は誤解を受けやすい性格になってしまったのだ。

そんな三成には、家康のように己と全く違う考えの友人が傍にいた方が、人との接し方の良い勉強になるだろう。

「いつまでも私が三成の言葉を訳している訳にはいかないでしょ?」

そう笑えば、刑部が引き笑いでそれに応えた。


「ヒヒッ!三成には徳川が必要だと説きながら、主が一番不愉快そうな顔をしやる」


「……………………」

グサリ、と刑部の言葉が胸に突き刺さる。

――そんなに顔に出ていただろうか。

片手で頭を掻けば「図星であろ?」と刑部が答え合わせを求めてくる。

「――そりゃあ、これまでずっと三成の傍にいたのは私だし?一番三成のことを理解してるのは私だけど……」

でもさ、何か最近、分からないんだ。

ポツリと小さく呟いた言葉は宙に吸い込まれて消える。

内心に宿る小さな不安を表しているかのようなそれに思わず不愉快さが込み上げて、唇を尖らせた。

「前までは本当に言葉なんていらなかったのに、最近では三成が家康のことばかり話してくる。家康が秀吉様と半兵衛様に信頼されているだとか、家康の茶会の時の礼儀作法がなってないだとか……」

自分が望んだ変化なのに、その変化が私の手ではなく、家康の手によって与えられた変化だというのが気に食わなかった。


「私が、三成のことを一番理解しているのに……」


ギリリ、知らず知らず奥歯を噛み締めていて、それを見ていたらしい刑部に

「――やはり主らは双子よな……」

と呆れたように呟かれた。

「……それ、どういう意味?」

「三成も同じようなことを言っておる。主が最近家康のことばかり気にかけておる、とな。そうわれに愚痴っては家康に突っかかりやるのよ、“何故私の大切な片割れが貴様ばかりを構うのか”と。あれは拗ねておるなァ」

今までずっと共にいて、自分だけを見てくれていた片割れが、違う男ばかりを気にして自分を見ない。

片割れの視線の先を占めるのは、自分とは真逆の存在の太陽を背負う一人の男。

どんなにこちらを向かせようとしても、片割れは何故か離れていってしまう。

ならば片割れの視線を占める男の傍におれば、自ずと自分のこともまた見てくれるのではないか。

「三成はただ、最も片割れの視線を自分に仕向けるのに最適な策を実行しておるだけよ」

家康ばかりを気にかけ、変わっておったのは主の方よ。

三成は主のことばかり気にかけておる。

諭すように、穏やかに言われたその言葉がズシリ、心に落ちて残る。


変わっていたのは、私……?


「――ちょっと、三成にけしかけてくる」

「あい、進め、進め」

刑部に言われて気付くとは、私は自分のことを理解していなかったようだ。

三成が他の人に取られると考えただけで、ここまで嫌だと思うとは。

母のように見送ってくれる刑部の優しい視線を背後にし、未だ斬りあい殴りあい駆け回る二人に向かって走る。

家康にしつこく斬りかかる三成に体当たりをかまし、そのまま抱き締めて「三成大好き」と叫べば、三成に

「何当たり前のことを言っている旭」

と不思議そうに首を傾げられて、やっぱり三成は変わっていなかったと笑ってしまった。




片割れが愛しいと月が喚く















――――――――――――…
なんとなんとなんとおおぉおお!!ヤマさんからの頂き物にございます!!
なんということでしょう、恩返しにと謎の発言とともにいただいた神的作品!!!
俺が頂いてもいいものなのか悶えること数日、このように頂いたのです…美味しい(^q^)

ヤマさん本当に本当に本っっ当に!!!!ありがとうございましたぁああああぁああああ!!!!







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