2-3
いくら考えてもうまい具合に方法が思いつかず日は完全に沈んでしまった。
うっは、真っ暗…
捉えられている内の何人かは既に夢の中、見張りの仲間だろう男も何人かこの小屋に戻ってきて、今は小屋の近くにあるらしいソイツらの隠れ家にいる、と思われる。
抜け出せるかなー…
『って、おい、アンタ何してんだよ』
「………」
『無視かこのやろ、』
さっきから何やらごそごそする少年。まったく、なんだってんだ。
見てみれば手首の縄を解こうとしているのだろう、痛そうにギシギシなっているよ、縄。
あれから一つ学んだことがある。この少年に触れると攻撃される。だから触れない。痛ぇのやだもん。
まぁ起きていても特に何かすることもないし、横になってその少年を眺めているとしよう。いい暇つぶしを見つけた。
必死に動くたびに動きに合わせてサラサラと揺れる髪は実にやわらかそうだ。
『少年、』
私が声をかけてもその少年は全く反応しない。聞こえてるのかが怪しくなってきたが多分聞こえているんだろうと話を続ける。
『ンでそこまで逃げようとする』
この小屋はこの子意外に子供はいない。他は皆年頃の女の子だ。美味しそうだねぇ…
いや、私にそんな趣味はないのだけれど、ほら、響きがさ…
『大人しく迎えを待とうとは思わないのか?』
見たところこの少年はそれなりの家の出なのだろう。他の者と比べると身に纏っているものの質がいい。
それに思ったんだがここは…なんだか、私の居たところよりも文明の発展が遅れているように思える。喋り方や発せられる単語、身に纏っている物や目に入る景色全てが…そうだな、江戸時代とか戦国時代とかそこら辺のものに思える。
刀だし、馬だし、笠だし。
『しくじったらタダじゃ済まないんだぞ?ケガぐらいで済めばいいが運が悪けりゃ命がねぇかもよ?』
普通の子なら泣きながら母でも呼んでいるだろう、だがこの子は意識のない時に口にした時以外は弱音らしき弱音を吐いていない。もっとも、あれも弱音と言えるほどの弱音ではなかったが。
武士の子とか言う奴かね?
「ただ待っていては手に入れられる機会ものがす、わたしはそんなばかではない」
お?
おおお?
なんぞ子供らしくないが的を射ている発言をしたぞ?
「くっ、」
おっもしれぇ〜なんて思っている間にも少年は一向に解けない縄にイラついたように噛み付いた。
私にはできん、歯が折れる。
しかしまぁ必死に奮闘するその姿かわいいかわいい…
顔真っ赤じゃんっ
「オラ、てめぇも大人しくしやがれ!!!」
『!!おっと、っぐッ』
「お前俺に近づくなよ?業がお前に感染ってたら俺が危ねぇ」
突然入ってきた男ども。内一人は乱暴に掴んでた者をこちらに放り投げるように離す。
咄嗟にその子を受け止めるために身体をすべり込ませる。おや、こちらも少年か。
肘痛ぇ…摩擦が、摩擦がァ…
そして別の男が意味のわからない言葉を口にする。この少年を放り投げた男と、そして私に向かって。視線がこちらにも向いたからそうなのだろうがまったく持って何を言っているのかわからん。
「ひっ、業!?業病なの!!?」
「やだ、アンタもこっちには近づかないでおくれ!!!」
それを聞いた女たちも騒ぎ出す。なんだってんだ、男どもはこの騒ぎに他人のふりをするかのように小屋から出て行くし。
よく見れば私の上にいる少年の足には包帯が巻かれていた。なんだ、怪我か?怪我人ならもっと丁重に扱ってやれよ…ったく、怪我人まで拐うとかもっと質悪ィ…
「…やれ、主もわれから離れよ…その身に不幸の星が降りやるぞ…」
ヒヒ、と個性ある笑いを小さく零す。
意味分かんねぇ…何言ってんだ?コイツ。
つか離れろって、いやいや、私下にいるから動きようがない。
『よっこ、いせ…』
落ちないようにゆっくり腹筋を使って起き上がる。この子には私らと違って縄がなかったから遠慮がちに私の服を掴んで落とされまいとした。
なー、痛いのやだもんなー
「いやぁあああたしはまだ死にたくないよおおぉ」
「離れとくれ!!近寄らないでくれ!!!」
『あーあー…ぎゃあぎゃあうっせぇな!!こちとらアンタらみたいなうっせぇのの近くには居たくねぇっての!』
ったく、どうすっかな…
考えることがまたひとつ増えたじゃねぇかよ。
こども二人