2-1
『いってぇ…』
体のあちこちから上がる悲鳴で目を覚ます。
動けねぇ…そんなに重症か…?と体に視線をくれてやれば手足を締める縄。
…マジかよ
動けないわけだと一人納得するも納得しない。
いやいや誰が納得するかよ!!なんで私が拘束されなきゃなんねぇの…つかこの部屋汚ぇな。牢屋か?いや牢屋にしてはボロすぎて脱出しやすそうだけどさー…
って、ん?私以外にも人がいるー。女の子率高ぇな…人攫いかよ、さっきの奴ら…いやでもみんな着物だしもしかしたら仲間かもしんないぜ?
「ひ…っ、」
もう一度見渡した際、一人の女の子を目が合うが…なぜか悲鳴みたいな声を発せられる。なぜだァ…
それを聞いた他の女も何人か私を見て同じように肩を震わして怯えた態度をとる。
なんだってんだ。
「鬼の目っ…」
聞き逃してしまいそうになるほど、小さな声だった。でも確かに聞こえた。
私の目のことか…
『フン…』
そう言う奴らは鼻で笑って放っておくに限る。
幼い時からこの目にはそういい記憶がないが、私はこの目が好きだ。私の好きな色、燃えるような血の色、全てを染め上げる焔の結晶よ。
なんて言えば聞こえはいいけどな、人は自分と違うものを除け者にしたがる。万国共通なのな。
腹筋を駆使して起き上がる。幸い手は後ろじゃなく前に結ばれてるためその気になれば結構好きにできる。と足の縄を解こうと試みていると視界の隅に入る白銀。
『あ?』
なんだろうとそちらを見れば横たわる青年。いや、まだ少年。
おいおい、よく見りゃああちこち傷だらけじゃねぇかよ…一体どうなってやがる、こんな幼い子にまで手を上げるなんて昨日のやからは相当不紳士と見た。
肩を軽く掴んで揺すってみる。
返事がない、ただの屍のようだ。
こんな綺麗なのが屍なら部屋に置いておきたくなるな。今だけ死体愛好家の気持ちのほんの一部の一部が分かった気になってみたりしたあとに全力で首を横に振った。
『私にそんな趣味は無い。少年、起きろ』
ゆさゆさと再び起こそうとしてみるとかすかだが、まぶたがぴくりと動いた。よし、生きてる。
しかしいい肌してんな。しっろい。白雪姫並だぜ。ってかなんで髪も白いんだ?日本人じゃなかったりして。ああ、頷ける。こんな美形が日本人であってたまるか。
うっわ、昨日のやつらは外国人をもさらうのか…ますますたち悪ィ…国際問題に発展したらどうするつもりだよ。
「、ぅ…」
お!意識戻ったか!?
顔を覗き込む。
「ち、…ぅえ……はは…ぇ…」
眉を顰めながら震える小さな声で紡ぐ。
さらわれる寸前を思い出しているのだろうか、夢見が悪くて泣いているわけではないとわかるのは彼の目が少し開いているからだ。
こんな小さいうちからそんな目に合えばトラウマになるだろうな…
周りはそんな彼を見るだけで何をしようというわけでもなくしばらくすると目をそらす。恐怖に震える子供を放って我が身のみを守るか。
いい大人が聞いて呆れる…
『しっかりしろ、少年…もう少し耐えろ…』
縛られたての間にいれ、腕にもたれかかるようにしながら抱きかかえる。手の自由を奪っているこの縄が忌々しい…
『大丈夫だ、少年…大丈夫…』
何の根拠もない言葉。
でも迷うことなく出た言葉。
『大丈夫だ…』
ひどく怯えてる…
考えてみれば簡単な話だ。周りの者がコイツに近づかなかったことにも頷ける。
コイツは私と同じなんだ…
抱きしめると小さく震えるそれは暖かく、脈打つ鼓動が私をひどく安心させた。
チャンスは、あるはずだ…逃げ出すチャンスは…
その機を大人しく伺っていよう、今は。
再び眠りに入る少年を見ながらひとりそう思った。
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