11-1
「なぜ外にいるのです」
『いいから早く着替えろ』
庭に面した縁側で、彼の部屋へと続く障子を背に愛らしい声で鳴く小鳥に目を向ける。
あー…穏やか。なんて穏やかなんだ。なんて思った時だろうか、はらはらと、黒い羽が数枚降ってきた。
『!!もしかして、ッ』
「……?どうしたんです」
もしかして、もしかしめあの紅い青年なんじゃないか。
ふと浮かんだ可能性に慌てて立ち上がって、足が汚れるのも気にせずに庭に出て屋根を見上げた。聞かなければならないことが、返さなければイケないものが、
『!!やっぱり、…待て!!』
「!」
『用があるんだ、少し時間をくれ!!』
目が、合う。
何か荷物を抱えているようだが、全身黒を纏った彼に黄色いそれはあまりにも目立った。それに紅い髪もあってなんだか危険物注意の看板を見ているかのようだと笑ってしまいそうになった。
「さっきから何を言っているのです、」
『顔見知りがいるんだ、中々下りてくれ…ッ!!?』
「……、…どうしまし―――…」
唐突に全身に強い風が襲ってきたかのような感覚がした。そして気づいたときにはさっきまで自分がたっていたあの場所がだんだん離れるかのように小さくなってって、障子越しに聞こえていた長髪の青年の声も次第に聞こえなくなっていった。
ひどい浮遊感、いや、なんだろう…なんと言えば…
って、ぇええええええええええええええ!!!!マジか!!!ちょ、マジか!!!!!!!
『飛んでる!!!!』
私いま大空を飛んでるぜ!!!ちょっ、これどういうことだよ!!!え、わっ、ちょ、これ落ちねぇ??落ちねぇ?!!?!??!!来年受験を控えた私に落ちるとかそんな不吉な、ってか、あ。まず自分の元いた場所に戻れなかったら受験もくそもないか。はは。
………わぁああああああああぁぁああああ!!!!!!!!!!
『マジか。夢か。白昼夢?』
「……………………………………」
『………………ん?って、おお!!お前か!』
なんだかものすごい視線を感じてその視線を辿るように見上げればあの紅い青年がいて、それで落ち着いて状況を確認すれば黄色い荷物を持っていない方の手で小脇に抱えられていた。
デジャヴ!!!あの時の佐吉と紀之介の状況を私が体験してるよ!!今!
『なんだ、急いでたのか?なんか、引き留めてごめんよ』
「……」
『……』
「……」
『………………なんか反応しろよ』
「Σ、」
返事をしないどころか頷きもしない全くの無反応だったから脇に軽いエルボー入れてやったら吃驚してこっち見た。フン。
しかししまったな。この青年は私をどこに連れていく気なんだろう。まつさん達に何も言っていないから急にいなくなるわけにもいかないし、長髪の青年にも何もいっていないし…ってか名前聞きそびれたし。しかも織田さんにも会えてないし。
『うわ、どうしよ。働き口がないぞ』
世話になったのになんかものすごい迷惑をかけてしまった。あと廻りに廻ってなんか国親さんにも迷惑をかけてしまうことになるだろうけど、なんだろ、なんか、まず働き口探さねぇと…。
『所詮世の中金よ』
「………、」
『お、お前もそう思うか?』
頷かれた。
だって金なきゃ食いもん買えねぇし着るもんもねぇ。逆に言えば金さえあれば国近さんとかまつさんとかンとこに謝りに行けるわけで、手紙も出せるわけだ。人雇ってどこの人たちかとかそういうのも調べてもらえるから。
あぁあ…お金って素晴らしい
はじめははしゃいでしまったけど……今の状態って結構怖い。なんか、いつの間に入ったのか森みたいなとこの木々乗り移ってる…なんだこれ。てか青年は疲れないのだろうかと疑問に思ってみたり。凄。
そういえば彼が抱えている黄色いものはなんだろう。
『……ん?子ども?』
「…、」
びくっと、気のせいでなければ小さく反応した気がした。マジか。子どもか。しかも生きて…
『おま、人拐いだったのか…』
「……」
なんか凄い残念なものを見る目で見られた。違うのか。わかったからそんな目で見るなよ分かったから。
反応したってことはこの子どもも起きているのだろう。運ばれても抵抗しないのは恐怖からか、それとも承知の上だからか…。とりあえずこの紅い青年が人拐いじゃないらしいから多分なんか事情があるんだろう。心配する必要がないほどの事情が。
話をしてみたい気もしないでもないがいかんせんこの移動手段じゃな…いつ舌を噛みきってしまうことか。そんな痛い死に方はしたくない。
…黙っとこ。
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