10-2
さあ、これから織田信長に会いに行こう!ってときの道すがら、まつさんらとはぐれてしまった。
…まさかこの年にもなって迷子になるとは思わなかったよ…
『どこだよここ』
まだ来たことがないところである上に迷子になってんだからそう言うのはしゃーないけど他に思うことはないのかと自分で自分に突っ込む。もちろん脳内で。そんなん口に出して不意に誰かに聞かれた暁には気狂いだと思われるかもしれん。それはまずい。
さてどうしたものかと天を仰げば目に入るのは今にも崩れ落ちてきそうなほど不安定な色を携えた曇天。
うっわ、不気味。というか曇天と評すには赤黒いしあり得ない雰囲気と色をしているような気がしないでもない。うん。気のせいだと頭を振る。そうでもしないとやってられるか、こんなの。
あー、せめて晴れてたら太陽の位置確認して方角確かめながら進めたのに。
あ、なんかデジャヴ。紀之介と佐吉と会う前みたいだ、はは。
なーんて思い出してさらに気が沈む…。あいつら生きてるかな…だといいんだけどな…帰れてるかな…
とにかく足を動かせ!人か何かには出くわすだろ。熊とかはやめてほしい。死ぬ。
それにしてもなんか進めば進むほど生えてる木の量が増えてるような気がしないでもない。怖。
『ん…?』
なんか…
なんかゆらり、白いものが見えた気がした…。
『はは、お化けとかは信じない派だぞ』
「奇遇ですね、私もですよ」
『!!!?!??!!』
ぎゃあぁあああぁあああああ!!!!!!!!!!だっだだだだだだだぁれぇえええぇええ!!!!?!?
誰だ急に背後に声をかける奴はぁああああぁああ!!!!と勢いよく振り返れば銀髪の
「…ゆ、………幽霊…」
「ふふ…失礼な人ですね…」
「あ、や、すいません」
相手が幽霊といえど気を悪くさせてしまったのなら素直に非は認める。そして一つ深呼吸をしてクールさを取り戻す。
……よく見ればきれいな顔をしている。おまけに髪同様肌も白い、綺麗、羨ましい。が、少年…青年のようだ。ちっくしょ、なんか色々負けてる。てかまた銀髪か。銀髪率多いな、佐吉といいヤサブローといい…………ヤサブロー…生きてる、よな…四国の宝だしな…目ェ腫らしてねぇかな…
『って痛い!!何すんだっ!!』
「だって貴方が私の相手をしてくれないから…」
だってって子どもか!!いや、子供か…といってもソーベーより、少し上くらいか…私と同じくらいだが…
何も髪を引っ張ることないだろ…お前みたいに髪長いんなら引っ張りたくなる気持ち分かるけど生憎と短いし…そうだよ、目の前の奴くそ長ぇよ、鬱陶しくねぇのかよ…まるで貞●だ…って、お、い…
『おま、怪我してんのかよ!!ちょい見せろ!!』
どこ怪我した!
聞きながら青年の身体をあちこちと調べていると"あっ"と艶声にも似た声を上げる…そして焦って距離をとる。私は何もしていないぞ…
「どうしたのです」
『いや、…』
「もう満足したのですか…?これからがイイところだというのに…」
なにがイイんだ、何が。何度も言うようだが私はそっちの趣味はない。
無駄に色気を纏う少年に目を泳がせる。と、何を思ったのかするっと腰に手を回される。…早ぇな、おい。何しやがる。全然見えなかったぞってか…
『どこ触ってんだ』
「…言わせるつもりですか、…ふふ、いい趣向をお持ちだ」
『違ぇーよ』
ぺしっと頭を叩くとまた艶声に似たそれを上げる。やめろ。
『で、怪我は?』
「してませんよ」
『じゃあなんで血なんか…』
ぐいっと頬についてる紅を拭ってやる。白い肌と髪に血の紅はあまりにも目立つ。すると濃くなる鉄の香りに自然、眉間にシワが寄る。青年はそれを楽しそうに見ているだけで特に痛そうにもしていないので怪我をしていないのは本当なのかもしれないと思ってみる。
「他人のものですよ。無理矢理入れてきた挙句私の顔に出そうとするものだから」
『……………………………は?』
「どうされました?」
何言ってるのかさっぱりわからん
『他人って誰だ』
「城の者です、名前は存じませんが」
『入れてきたって何を』
「ナニを、」
『……………………………………おま、』
…こいつ、襲われてきたのか…。
顔が歪む、奥歯に力が入る。ンでその後だっていうのにこいつはなんでこんな平気でいられるんだ
「なぜそのような顔をされるのです」
よく見れば彼の着物は乱れて、彼の足を紅が伝う。袖の縫い目も途中までとはいえ破れているし、上等な布を纏っている割りにはなぜか彼は裸足だ。
なぜ、気づかなかったのか…刀を手にしてはいないものの右手は彼の着物以上に血に濡れていることに。血が出るような傷は負ってないもののその白い手にはひどく目立つ痣や赤い斑点があることに。
『…痛く、ないのか』
「私の血ではありません」
『ッ、そうじゃない!!』
…うまく、口にできない。
蹂躙された身体を労る言葉…、あるいは心の方か。どちらにせよどうすれば傷つかず、かつ腫れ物に触るような言い方をしてしまわないか。考えれば考えるほど言葉につまり、握りこぶしに力を込めるだけに終わる。
「慣れとは恐ろしいものです」
『……』
「最早日常茶飯事と化してますので、」
『……』
「……お優しい方が乱世に迷いこんだようだ」
困ったように、笑われてしまった…。
けれども変わらずうまく言葉は出てくれなくて、ただただ苦し紛れに青年に目を向けてると先程会ったばかりだというのに不思議な表現をされてしまった。
「前田様と共にいらした方でしょう、城はこちらです。私が案内致しましょう」
本当に、何事もなかったかのように青年をそういって、歩き出しても中々その場を動こうとしない私の手を引いて、城へ続くだろうと思われる道を進んだ。
→