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9-2






「名前殿、加賀につきました」



駕籠が止まってしばらく、ソーベーが飛び出したのと同じくらいの時に小窓から顔を覗かせた。



『うわっ、マジですか。すみません、乗り過ごしてしまって』

「いいえ、こちらも少々ご無理をさせました。これよりまつめが腕によりをかけておもてなしをさせていただきとぅござりまする」

『あ、いえ、お構い無く…』



何を悠々と乗っているんだと慌てて駕籠から下りれば特に気を悪くした風もなく笑みを浮かべたまま城へと案内される。
訊けば犬さんは先に水を浴びに行ったらしい。……水を浴びるとはどういうことなのだろうかと考えていると何故だか水と戯れる犬の図が頭をよぎって仮にも織田さんの部下でこの城の城主らしい犬さんにそんな失礼なことを連想させてはいけないと己の想像に蓋をした。ダメ、絶対。

特に話すこともないからと黙ってまつさんの後を追っていれば二人ほど、城の兵士さんと思われる男性が慌てた様子でこちらに寄ってきて、片手にある刀がなんだかやけに光ってみえた。



「まつ様…っ」

「お客様です。粗相のないようお気をつけ下さりませ」

「………は、」

『……』


こいつが?みたいな目で見られた。おかしいな。今は制服じゃなくて国親さんとこでもらった着物身に付けてんのになんでそんな怪しむんだ。うまく紛れてると思ったのに。
とはいえこの城において自分が部外者であるということに変わりはない。(せめてこれ以上怪しまれないようにと)笑みを向けているとまつさんはそれ以上やりとりする気がないとでも言うように足を進めたから慌てて追いかけた。



「申し訳ございませぬ」

『え、何がですか?』

「先ほどの者たちがおきを悪くさせました。でも悪い人たちではないのです」



申し訳なさそうに苦笑するまつさん。



『いやいやいや謝ることはないですよ。それだけ城とまつさんの事を守ろうとしているってことですから』



むしろ羨ましいほどだ。家に自宅警備員を置くなら彼らのような頼もしい奴らが欲しい。なんてアホなことを思う。アホとか言うな。

あぁ、腹減った…

そしてタイミングを図ったかのように鳴く腹の虫。



「……」

『……』



…………………………………………。うわぁあああぁああああぁああぁぁああああああぁああ!!!!!!!!!!!!!!!ごっめっ!な、うわっ!!!!!!!!!もうはずいっ!!!穴があっても潜って隠れる余裕がないくらいに恥ずい!!!!!ぅぁああああぁぁああああああああぁああぁぁああああああぁああぁぁ



「ふふ、すぐにごちそうを用意させていただきまする」

『すみません…ホントすみません、』



あ"ー……はずい…。
なんだ、お構いなくとか言った傍から事故とはいえ空腹を訴えるとは…。ああ…だめだ…今なら羞恥を死因にあの世に逝ける。もう死因自体恥ずいわ、もうダメかもしれん…



「名前殿、加賀に居られます間はこちらの客間をお使いくださいませ」

『うわぁ…っ』

「それではまつめはしばし席をはずしまする。後ほど迎えに上がりますのでそれまではゆるりと御身をお休みいただければ、」

『はい、ありがとうございます』



思っていたよりも急いでる様子のまつさん。私が礼を言い終えると同時にどこかへと急ぎ足で消えていった。恐らく台所で、恐らく(というか確実に)私のせいだろう。
申し訳ないともありがたすぎて床意外に目線を向けられないとも思いながらも、思った傍から目の前の与えられた"客間"に目を向ける。



『すげぇ…』



ヤサブローんとこでも和室は見たけどやっぱすげぇ。今まで高校の礼法室ってとこ以外で見たことなかったけど、なんか、感動すんね。

それにしても国親さんといいまつさん(厳密には犬さん)といい、こんなどこの馬の骨とも知れない私に、よくもまぁぽんぽんとこんな広い部屋を提供できたもんよな。吃驚するわ。いや、ありがたいんだけど。

……そしてまた時間を盛大にもてあますことになるのか……。



『やってらんねぇ…』

















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