青 | ナノ




9-1






「名前さん、名前さん!!」

『……………、』

「!…はぁ、やっと起きたかい。ついたよ」

『………』



………―――誰か分からない存在に起こされる。
見れば…少年のようだが、彼に一体何の権利があって私に触れて、私を起こしているのだろうか――…、


ちらと視線をくれてやれば息を呑む音がした。


―――――――………ここはどこだ。

見慣れない場所……、室内ではあるが妙に不安定な感じがする。景色が、ではなくて…重心が…
……………そういえばこの少年は誰だ――…



「っ、名前さん!いい加減起きてくれよ!なぁってば!!」

『………………』

「……名前さん!!!!」

『うるさい、』



―――――……耳元で雑音がした。

構うほどでもないと放っておけば…調子づいたのか雑音は大きくなって、潰さねばとひとまず引き寄せた。


ら、ああ……なんだ、

それは熱を帯びていて、居心地いい柔らかさも兼ね備えたそれは最高の抱き枕と言ってもいいほどの、……………―――――












『悪ィ』

「ーーーッ////!!」



なぜか情けない声がして、目を開ければ腕の中にソーベーがいて、今にも泣き出しそうなほどに困り果てた顔をしていた。


ああ、そうな。やらかしたか。


とりあえず一言謝って腕を放してやるとものすごい速さで離れていった。とは言っても腕を頑張って伸ばせば届く程度の距離だ。見れば私らのいる場所はひどく狭い…室内と言ってもいいのかどうかさえ分からなくなる空間で、しかし壁も屋根も床もあるからと思っていると小窓を見つけて覗きこんで納得した。
ここはあれか、時代劇でよく目にする駕籠。どうりで振動もあるわけだ。

たぶん彼はあれだ、寝起きの私の、寝ぼけに巻き込まれたんだ。だけど仕方ない、あれは不可抗力だ。知らぬが罪って奴ね。あいにくと記憶が残っていないものだから何をしてしまったことに対しての細かい謝罪ができない。と一言の詫びで済ませる。



『そういえばここどこだ?船からいつの間にか下りてるようだけど』

「……………記憶ないの?」

『ないね。とりあえず船に乗ってから今この瞬間に至るまでずっと気分が悪いのだけは分かる』

『そうかい…』



あ、少し呆れられた。視線がそう言ってる。仕方ないじゃないか、覚えてないもんは覚えてないともう一度小窓を覗けばこの駕籠は馬に引かれて進んでいるらしい。人でないことに安心すると同時に牛ではないのかと不思議に思った。まぁ楽できるならどちらでもいいと思いいつつも私が乗ってもいいだろうかと少し申し訳なく思う。それくらいの心は持ち合わせている。



「俺ん家だよ、正確には利の屋敷だけどさ」

『へぇ、で、それってどこ?』

「加賀だけど…」

『どこ?』

「馬鹿にしてんのかい?」

『まさか。純粋にわかんねぇ…』



でも多分織田さんのとこからは近いだろうから気にしない。隣県くらいかな?四国よりは断然近いから悪ってもらえなかったとしても歩く。むしろその時の気分次第で面倒に思ったら…いやだめか。織田さんとこに働き手が居るか聞きに行くんだった。ついでにガチで生きてるのかも。
ああー…それにしてもあとどれくらいでソーベーの家とやらにつくんだろうか。手持ち無沙汰だ。こういうとき本当に何していいか分からない。佐吉らといた時は命の危機に反しているということもあってだらだらはできなかったし、それでも空いていた時間は紀之介の不思議な疑問に一緒になって頭抱えてたし、ヤサブローはとにかく質問攻めしてきたからそれを答えるのと頭を撫でるのにもう夢中だったし…

はてどうしたものか…



『そういえば恋っていいぞーみてぇなこと言ってたけど…なんで?』



ふと四国に居たときの彼の口から発せられたことを思い出す。見目はヤサブローと同じくらいだというのに悟りを開いたかのようにそんなことを言われれば不思議にも思う。そう言うからにはそう思わせるほどのことが起きたのかなんなのか…なんにしても彼の考え方が気になる。



「あー、あれね。その場のノリって言ったらいいかな、名前さんにしろ弥三郎にしろからかい甲斐がありそうだなーって」

『…………』



返事を(若干)気になっていればへへっと笑いながらそう返してきた。…さすがに呆然とする以外為す術がなかったというか…

お前ってそういうやつだったのか、ソーベー…。

まぁ世の中必ずしも第一印象通りなやつばっかってわけにはいかねぇよな。むしろそれが普通で、今まであってきた奴らがあまりにも素直ってかイメージ通りだったってだけで、これは彼の個性だ。うん。個性があっていいじゃないか、無個性とかそんなん空気扱いされちゃうしな。嫌だよな。
うんうんと一人頷いているとねぇねぇと声がかかる。



「そういえば名前さんってイイ人いないのかい?」



…またか。弥三郎にも訊かれたし、何より前にこいつから同じようなことを聞かれたような気がするんだが…。しかもさっきの話をしたばっかだとこいつが明らかにからかい目的だとわかって少し気が遠くなる。



『…どっちだと思う?』



なんて、敢えて同じことを返してみた。



「んー………いそう!」

『(うわ、まったく同じ回答かよ)』

「なんか女たらしって感じするし!」



…なんか、それもどうなんだろ。
ヤサブローもそう思ってたんかな…そう思ってああいう返しをしてくれたんならヤサブローは相当優しいやつか…将来悪い男に捕まるかのどっちかだ。…ああ…後者だったらすごく心配。



「あ、でも男でもたらしてそ…いてッ!」

『いつかお前はその口で自滅すんぞ』

「ひふぁい!んふぉほふるんむっ!!」

『口は災いの元って言うだろー?』



頬を潰してうりうりする。はっ、おっもしろい顔!そしてやらかい頬!!あー…癒されるぅ…今まで会った子らの中で一番歳上っぽいけどやっぱ子どもだって実感する。



『つかお前髪長いな。伸ばしてんのか?』



一房すくってみれば意外に髪質よくて、ヤサブローのそれとはまた違った意味で癖になりそうだった。佐吉と紀之介みたいにさらーってしてんじゃなくて、でもヤサブローみてぇにふわふわってわけでも、パッサパサしてるわけでもなくて…なんていうんだろ、難。



「そんなつもりはないよ。気にかけたことがなかったってだけで」

『もったいね』

「…は?」

『結構綺麗なのに』



銀髪には確かに驚かされたけどこいつの髪もまた目を惹く美しさってか、魅力がある。高く一本に結われてるそれは下ろせば多分肩くらいはある茶髪だ。自分の髪が黒だからなんてか、すこしいいなーって思う。あ、分かった。猫っ毛っていうのかな、こういう感触。くせになるなー…なんて思っているとバッと離れられた。撫でられぬ。

なんか、さっきからこういう状況が繰り返されてる気ィする。近づけば離れられ、近づかれればまた離れられる。そして自惚れる。


ああ、この子は案外嫌がってんじゃなくて照れてるだけなのかもしんない。なんて













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