青 | ナノ




6.5






※内容一部注意。あしからず









「そう言えば海で思い出したことがある」



名前はすごい。どこで学んだのかよく分からないくらい色んなことしってて、父上も秦惟さんも知らないようなことばっかりで、本当にすごい。



『この世に生きるモン全部、はじめは海にいたんだ』

「鳥も…?」

『ああ、全部』



名前は楽しそうに僕に話す。砕けた説明で教えられるそれらはすごく分かりやすくて、ちゃんとした名前があるだろうになにも知らない僕がすぐわかるように話してくれて、だから僕はすぐ理解できて頷く。そしたら名前はますます嬉しそうに微笑むんだ。



『元は目に見えないような小さな生き物で、生き残りをかけた生活で喰う喰われるを繰り返した成れの果てが今って感じだな』

「なんか、陸に逃げたり空に逃げたり大変だったんだね」

『そうそう、その考え方だ』



僕を撫でるときの名前の表情は僕に伝わったことが本当に嬉しくてたまらないとでもいうようで…言い過ぎって思うかも知れないけど僕にはそう見えた。つられて僕まで嬉しくなる。



『赤ん坊はお母さんの腹ん中で卵から魚っぽいものになってそれから少しずつヒトの形になっていくんだ。あー…700万年、くらいかけたヒトの進化を赤ん坊は一年もかけずにやっちゃう』

「わぁ…っ」



すごい、すごい…っ!
人って、みんな昔は一緒で、鳥も、魚も、狼だって元は一緒で、僕だってもしかしたら人以外のどれかになってたかもしれないんだ…っ!



『その進化の速さにお母さんの身体が耐えられなくてつわりが起こる』

「つわ、り…」

『妊娠中特有の気持ち悪さとか吐き気?』

「あ、…それなら…見たことある」



そっか…あの症状が、お腹の中で赤ちゃんが進化してるって証なんだ…なんか、なんともいえないびみょーな気持ちになる…。なんだろ、なんか変な感じがする…
そう言えばなんで子供って生まれるんだろう?ふと疑問に感じて名前に聞こうと目を向けた瞬間名前は分かったかのようにああと笑った。



『コウノトリがお母さんの腹ん中に命の元、幸の粒を運んでくれるんだ』

「こうのとり…」

『そう、幸の鳥。1億くらいの幸の粒をくれるんだけど、おかあさんの身体を守る部隊がいてな、ソイツら、そんな得たいの知れないものを入れまいとして殺しちゃうんだ』

「っ、あ、あんまりだよ!」

『ははっ、しゃーない。守ろうと必死なんだ』



お母さんの身体に、そんなかっこいい存在があったのは初めて知った。病気とか、厄災とかから守ってくれるのかな…頑張ってって、ありがとうって思うけどでも幸せにしようってしてくれた幸の鳥の善意を殺しちゃうのは…ひどい…、ひどすぎるよ。守るのに必死でそれどころじゃないんだろうけど、でも話し合って和解する方法だってあるじゃん。
ただでさえ国がその手を使わないのに、僕たちを産むお母さんたちの身体でそういうことしちゃう部隊がいたら、みんなそういう考え方をもって生まれてきちゃう…

ど、どうしよう…っ、こんなことを考えてる僕を産んでくれた母上にはその部隊が、母上を守ってくれる存在が減っちゃってるってことになっちゃう!だ、だから弟がいっぱいなのかな?嫌なことじゃないけど、でも、でも…



『幸の粒が全滅する時もある。というかほとんど全滅する。はじめのとこで五分の一にまでなるらしいし』

「……、…ッ」

『それでもどうしてもって頑張って、頑張って頑張って1つだけ、お母さんの中にある赤ちゃんの卵に最初にたどり着いた幸の粒が、そうして赤ちゃんを少しずつ、少しずつ育てていくんだ』

「……っ、…ひっ、ぅ、それ以外の…幸の…つぶは…?」

『死ぬ』

「っ!…ひっく、……ぅう…ッ、」

『……泣くなよ』

「だ、だってぇええぇ…っ」



ひどいよぉおおおおおおおお…っ、べつ、別にっ、別に悪いことなにもしてないじゃんかぁあああぁああああ!!!なんでそんな問答無用に殺しちゃうんだよぉおおお!!!



「みんな同時に入っちゃえばいいんだあぁっ」

『いや、そしたら双子三つ子どころかいくつになるんだよ』

「…っ、…?」

『そしたらお母さんの命が危険になってくる、し、まずないんだ』



次から次へと流れる涙に名前は困ったように笑いながら丁寧に拭ってくれる。困らせてるって、困らせちゃいけないって、わかってるのに涙は止まらなくて、情けなくなって名前に抱きつく。名前はいつものように僕を抱き止めて、抱き締めて、髪を撫でて僕を落ち着かせる。



『ま、そのごくわずかな可能性のもと生まれたのがお前だ、弥三郎』

「っ、…ひっく、……ぼ、く」

『ほうだ、全滅するーって分かってても何度も何度も試みて、何億もの幸の粒の内のたった1つがお前。だから本当にすごいことなんだ。だろ?』



だから命は大事にしろー、
わしゃわしゃと乱暴に撫でられる。だめだ、前がみえない、だれだよ戦をはじめた人ぉおおぉ…

それでも少しずつ落ち着いてきた涙と呼吸に目を閉じて名前の温もりに身を預ける。



『幸の鳥さん、母上、ありがとぉ…』

「なんでだよ」

『Σ!?!』



名前!!?!?な、なんで僕を…たた、叩いて…、



『いや、ごめん、つい。でもなんで幸の鳥にありがとうなんだよ』

「だ、だって、悪気はないとしてもいっぱいくれた幸の粒を母上の部隊が全滅させちゃってるのに何回も何回もくれるから、僕、生まれてきたし…」

『…………………………………………。』

「…な、なに…なまえ…?」

『……そうだよな、そうなるよな、うん』

「?、?」



名前を見上げると僕の頭を撫でながらもどこか遠くを見つめながら乾いた笑いをしてて、どうしたのって聞いてしばらくしてから僕に言った。



『お礼はお父さんに言ってやりな』

「?なんで?父上は何もしてない…」

『お父さんもすごい頑張ってるよ』

「……?」

『なんたってお父さんが呼んでくれてるんだからな、』








コウノトリを



(父上ぇえええええええええぇぇええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!)

(ん?どうしたやさぶ、ろ"ぉぉおおおおおぉおおおおお!!!?!?!!!)

(ありがとぉおおおおおおおぉぉ!!!!!!)

((説明すんのすげー苦しかった…))




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