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走り続けてどれくらいになるのだろう。
走れど走れど目に入るのは木、木、木…。
いい加減飽きてきたぞってか疲れた…っもう、一体どんだけ走らせりゃあ気が済むんだよ!!
先程まで馬に乗っていた輩は飽きもせずにまだ私の後を追っている。しかも馬に乗っている分早い。卑怯だ…私はひたすらこの両の足で走っているのに。
後ろから何度も止まれ止まれと声が聞こえるけど止ったらぜってぇ死ぬ…。走るのは苦手だけど命がかかってるとなれば走らないわけにもいかない。
『ってかなんで刀持ってんだよおおおォォおおおおッ!!!』
ゼェゼェと息を上げながらも言わずにはいられない。あれさえなかったらまだ勇気を振り絞って止まれるんだよ。
そもそもなんで私を追ってるのかが分からん。私が何をした。あれか、あの草原は我がテリトリー、とかあそこにある草花は我が唯一無二の友、とかここの空気は俺のものとかそんなノリか!ふざけんな!!
あ、思ったんだけどコイツら弓矢とか持ってたら私終わってたな。いやいや、どこの強豪弓道部だよ。ありえねぇよ。でも馬に乗ってるから弓道ってより流鏑馬になんのか?
『って、あ゛…』
ぐぎ…ッ、って今なっちゃいけない音が足からしたと思った瞬間いっッてええええぇぇええええッッ!!!!
捻った!!今足首ひねった!!!ほらよく見てみりゃあ木の根っこに気づかず中途半端に踏み外してんじゃん!!!
痛みでその場にうずくまる。反射で手で押さえたそれは気のせいだと願いたいが少し腫れていたような気がしないでもない。
「手を煩わせおって!!」
すぐ私の元までたどり着いた男はそう言うと乱暴に私の髪を掴む。
痛ぇよ離せクソが。
「口の利き方に気をつけろ!!」
『…ッ!!』
痛い、痛い痛い痛い…っ、
捻った足も、髪を掴まれた頭皮も、酸素を取り込みすぎた肺と喉も、張られた頬も…
…わけ、わかんねぇ…
なんでだよ…マジで私が何した…
いつもどおり過ごしてただけだろうが…いつもどおり目覚ましが鳴った二時間あとに起きて、着替えて、散歩気分で学校に向かって…授業のキリがつくまで裏庭で早めの昼寝して…
今までのようにゆっくり一日を過ごそうとしただけじゃん。
チャイムがなるのが遅いと目を開けたら見知らぬ場所に居て…それでも自分を保とうといつも通りの自分で居て…
なんでこんなに痛い目に遭わなきゃいけねぇんだよ…ッ
目元に涙を溜めながら、零れぬ様に、泣いてしまわないように、下唇を強く噛んで吐き出せない思いをぶつけるように目の前の相手を思いっきり睨んでやった。
捕まってん…