青 | ナノ




8-2






「んじゃあ一緒に来るといいぞ!」

『ん?』



どうした犬さん、頼むから私でも分かるレベルの人語を話してくれ



「殿に会いたいんだろ!」

『との…』



…さまがえる…。には、会いたく…ない、なぁ…。
思わず顔を障子の方に向ける…ああ、開いていれば庭の眺めでトノサマガエルに埋まったこの脳内をリフレッシュできたのに…いや、逆に現れたら終いか。



「わたくしと犬千代様は織田信長公に遣えてる身になりますれば、共に来て頂ければお会いすることもできるかと…」

『え、本物?』

「本物だぞ!」

『生きてんのかよ…』

「ぅおい、」



ベチンと国親さん方角から扇が飛んできた…なんでそんなもん持ってんだ…。
え、ていうか、え。マジで?冗談じゃなくて?ちょ、頭おかしいんじゃないんですかってかおーい…どうした犬さんなんで"との"とやらの素晴らしさを語……ああ…まつさんとね、うん。出会わせてくれた人?ああ、よかったね。
ちょ、まつさん止めろよ!!!だめだ、二人して惚気始めたかと思えばまた二人の世界に戻りやがった…

ちょ、っと国親さん、何とかしてくださいよ。
無理、俺も参ってる。

だめだ、国親さん案外使えねぇ。
とりあえずね!織田さんが生きてるのは分かりましたから!おちついて!!お二方!!!







『てことでソーベーと一緒に"お国"に帰ることになった。てか行くことになった』

「えっ名前さん俺ん家来んの!!?」

『悪かったな』



そのあともう私は用済みらしいので元の部屋に戻った。なんだったの?ってヤサブローに聞かれて今に至る。とりあえず明日出発らしいから今日はのんびり体力の温存d…



『っふぉっぐホォ!!?!』



腹付近に衝撃がっは…ッ
ってやっぱアンタかヤサブロー…もうお馴染みだな。いやここ数日だけだけどさ。

人の腰に両腕回して力いっぱい抱きしめるヤサブロー…息が…。とりあえず撫でて宥める。こうしてれば結構すぐ落ち着くんだよなー…落ち着くはず。落ち着いてくれ…



『どうした』

「…」

『………』



ちょ……ぅ、ぐりぐりするのは、ちょ…勘弁、リバースる…
ヘルプサインをソーベーに出してみるけどニヤニヤ楽しそうにこっちを眺めるだけで何もしない。裏切り者ォ…

無理強いするのは面倒だし、しばらくすればきっと飽きるはずだから私は待つ他ない。しばらくそのままにしておくことにした。

すればそう長くない内にソーベーは飽きたらしくじゃまた後でねーと部屋を出ていった。尚もヤサブローは動く気配なし。それどころか締めつきがよくなっていってる気が…



「なまえ…」

『……ん、』



ひどく、弱々しい声だった。



「…行っちゃうの…?」

『明日な』



答えればまたぎゅうと力を入れられる。どこにそんな力がってそういえば男の子だったの忘れてた。

また続く沈黙。
手は勝手に動いて、指でヤサブローの髪を遊び始める。ホント…クセになる。あー…これ弄れなくなると思うと…あぁああー…
わしゃわしゃわしゃあああぁと撫で乱す。でもやっぱり足りん、どうしようか。



『ヤサブローが足りん』

「!?」

『おお、』



バネフル活用したのかと思うほどぱっと顔を上げるヤサブロー…って目が、おま…



『何泣いてんだよ…』



涙を拭ってやると顔を歪ませて涙の量が増えた。泣き止むという道はないらしい。
でも、泣けるなら泣いた方がいい…

胡坐をかいて、来るように手招けば大人しくそれに従う。姫抱きにするように胡坐のあいだに座らせる。せっかく見上げてくれた顔をまたうつむかれてしまった。
泣き顔も可愛いけど良心がちくちくする。泣き顔がそそるとかそんな危ない人じゃないからね。

そのまま肩を抱き寄せてしばらく髪をすいていれば少しずつ、少しずつ泣き止んでくれた。泣いてる子、不安がってる子、不安定でいる子に心音を聞かせれば少しは落ち着くって聞いたけど、効果がないというわけではないらしい。心の中で小さく安堵の息をつく。



「もう、会えない…?」

『…わからない』



胸元に顔を埋められ、震える声で問われたそれに静かに返す。
絶対にここを去らなきゃいけない理由はないけど、タダ飯はな。職を探せばいいんだろうけど、とりあえず働き口ありそうな織田さんのとこにな…。
ああ、佐吉と紀之介ともゆったり別れればこんな風に離れたくないって駄々をこねる自分が現れたりなかったりするのかな、なんて他人事のように遠く思う。




「…僕が…」

『ん…?』

「僕が…名前が離れたくなくなるような…そんな国にしたら…」

『……』

「…迎えに行った時、ここに帰ってきてくれる…?」



ぎゅっと、胸元の着物を捕まれ、挙げられた顔の瞳はこちらに向けられていた。先程まで空色を濡らす雫は彼の目を輝かせる手助けをしているように見えた。

アンタ、そんな表情もできるのな…



『楽しみにしているよ』



いい男になりそうだ。
笑みを隠すことなく、いつものように彼の頭を少し乱暴に撫でてやった。




















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