8-1
なんで呼ばれたんだろ、
なんて考えながら国親さんの居るだろう部屋に向かっているけど多分あれだ。宮島に送ってもらえるんだ。
『国親さーん、名前ですよー』
「おう来たか。入りな」
失礼します、と声をかけてから普通に入る。女中とかヤサブローとかは一度座してから手をどーのこーのしてたけど分からんし正座苦手だからよしとする。
私が座る場所なのだろう、誰も座ってない座布団が一枚敷かれていた。そこに胡坐をか………こうとするがそういや見知らない人がいる。おとなしく正座しよう。
「こちらは尾張当主那古屋城城主が家臣、前田又左衛門利家殿。そしてその隣が正室のまつ殿だ」
「いやですわ国親様、まだ正室というわけでは…」
「いいじゃないか、まつ。そうなることには変わりないだろう?」
「犬千代様…///」
…うん?
なんか、どこからどこまでが名前なのかわかんねぇ…とりあえずこの二人は夫婦と。で?えーと、犬?さん?とまつさん?がどうしたって…
『この度諸事情により国親様の元でお世話になっています名前です』
名乗られたからには名乗らねば…でも長ったらしいのはなー、いや一応ちゃんとした場だしー…足したらああなった。呼び名に困らなければOK。
苗字とか言って自分の名前長くしたとこでなー…ほらまつさんとかまつオンリーだったし。国親さんとか国親さんだし、ヤサブローもそうだし。もしかしたら犬さんは名前が長いのが自慢なのかもしれん、なら自重しとこう
「弥三郎のところに宗兵衛は行ったか?」
『ソーベー?誰だ…』
「あ?行かなかったのか…アンタが来たからてっきり…」
『あ、ソーベーって黄色の』
「そうだ」
ほぉ、ソーベーってのか。初知り。で、ソーベー君どしたよ…え、もしかして犬さんとまつさんの子ども…
うわ…まだ未婚って言ってたよな…それであれほど成長…うわ…それで結婚しなかったら勢い余って犬さんに飛び蹴りかましそ…
「騒兵衛は某の甥だぞ!」
「ご迷惑をおかけしてなければいいのですが…」
『あー、全然。ヤサブローの相手をしてくれてますよ』
なんて我が子のように対応してみるけどヤサブローの親目の前にいる。
で、国親さん、この方々がどうなさったと言うんです、私要るの?要らねぇの?ヤサブローの元に戻っちゃダメかな、正座苦手なんスよ。
「悪ィんだがよ、名前」
『はい』
「前田殿が乗られる船で送ってもらっちゃあくれねぇか」
『ん?』
一瞬日本語がわからなくなったけどどういうことスか国親さんもっかいお願いします。
「厳島まで届けるって言った手前ほんっとに悪ィが…国の都合でそう悠長なことも言ってられなくなったのよ」
『あー、私は全然構いませんよ』
ただそれは犬さんとまつさんがオーケーするかどうかにかかるんじゃないスかね。
ちらとお二方に目をやる。……だめだ、自分らの世界に入ってやがる。
「それに関してはもう話はまとまったんだよ」
『おう、なんスかそれ自分の意見どっちでも良かったわけじゃないスか』
「ま、そういうことになるな」
カッハッハなんて笑う国親さんに飛び蹴りしたくなった。嘘。
まぁ手段なんかどっちでもいいや。どっちにしろ急いでるわけでもないし、拘りがあるわけでもないし、船に変わりはないから結局は酔うし。
『まつさん達も厳島行くんですか?』
「いや、尾張に帰られるから港からはアンタ一人になる」
『尾張?』
待てよ…なんかそれ聞いたことあるぞ。尾張のうつけってフレーズは中学の時散々聞いたぞ。それだけはテストで絶対書けてたからな。
『マジか。織田信長とか超会いてぇ』
「買Sフッ!!」
「犬千代様ぁああ!!」
お、おお…いつの間にかおにぎり口にしてた犬さんが盛大に吹いたぞ。私の横をありえない速さで米粒が通過してった。
なんでか咽る犬さんの背中をさすったり懐からハンカチ的な布出したり甲斐甲斐しく面倒を見るまつさん。いい奥さんになるぞ。
「アンタ…変なこと言うな…」
『ん?何がですか?』
「いや、なんでもねぇ」
いや、確かにもう亡くなった人に会いたいってのは…いやでも織田信長だぜ?どんな奴でも一瞬にしてミーハー化するだろ。ま、ミイラとか銅像とかいう類に興味はないから大人しく厳島行くけど。
→