青 | ナノ




7-1






『うっぷ…』

「……お兄さん、大丈夫…?」



あれから何時間たっただろうか…
ヤサブローに加え船長さんが私にこれでもかというほどの質問をしながらあれやこれやと話していた船の上…

そうだ、ここは船の上だったんだよ…

酔いもするだろ!!!!!



「なんだもう酔ったのか坊主」



情けねぇなぁと笑いながら待ってろよぅと船長室を出て行った船長さん。
無理だ…車も苦手なんだ、電車も、バスも、飛行機も…大丈夫なのはバイクとか自転車だな、長時間振動のある狭い空間にいるのが苦手なんだよ、

ヤサブローは船酔いするものに慣れていないのかわたわたしながらもうちわを仰いでくれている。

しかしどうしようか、私は広島の者だと思われたようだが…そこに家はないしなー…どうすっかなー。このままだととりあえず宮島に下ろされてとりあえず神社とかもろもろゆっくり巡って、その後完全な迷子じゃん。することねぇし行くとこもねぇじゃん。
うわ、目的もなく彷徨い続ける泥人形じゃん、うわ。

あー…バイトでも探して食費稼ぐか…泊まり込みとかあると宿に困らねぇんだけど。いやでも戸籍持ってねぇから面接すら受けさせてもらえねぇかもじゃん!!うっわ、うっわ…マジ泥人形じゃん!!うっわ、



「坊主!!」

『へい!!!』



バァン!!とものすんごい音たてて開いた扉から船長さんが私を呼んできた。なんだ。戸籍なしで雇ってくれるのか、ああ、海賊だからな、ありかもな、海賊だから。賊だから


追う夢はないから夢を追うことを生業としてる海賊に申し訳ないけど頑張ります!!


口にはしない。違ったとき辛い。つか何用ですか船長さん。



「表へ出な!」

『………』



……デジャヴ…。え、なんですか私売られるとか?ああ、海賊だからな、ありかもな、海賊だから。賊だから。

でも逆らうのも億劫だしそもそも逆らう理由見当たらないしとりあえずあとを追おう。とことこ後を追うヤサブローはさながらひよこか何かのようだ。



『……うわ…』



すげぇ…

いや、ホントに、すげぇ…



「どうだ、すげぇだろ」



出てみればホントにすごかった、いや船もすげぇんだけど、なんつーか、景色がさ…

全体的に紫に染まった一軍は統一性があるように思えた。帆も、旗も、船員の身にまとっているそれらも紫で、そういうひとつに統一されたものってこう、堅苦しいイメージがあるのになんかすごい自由を感じる。

船長さんの後を追ってそのまま前へ前へ足を進めれば自分も彼らの一員になった錯覚に陥る。あれをしろこれをしとけと傍から聞いていれば喧嘩になりはしないかと思ってしまうような呼びかけがあちこちでされているが彼らからすればそれは日常のようでちゃっちゃと頼まれたことや自分のするべきことをやっている。てきぱきと。

なんて効率のいい…



「風に当たっていれば少しはマシになんだろ、邪魔にならないところで弥三郎と話でもしていてくれ」

『手伝わなくていいんですか?』

「かっはっはっは、今のアンタにゃあ無理だな!!」



そうして笑いながら船長さんは離れていった…くっそ…バカにすんなよー…



「お兄さん、あっちでお話しよ…?」

『ん?ああ…』



彼の指差した先を見れば船頭だった、船頭っていうのかな、多分いう。あれだ、TITANI●で●ャックとロ●ズが鳥になるところだ。
旅行の際に乗った船では立ち入り禁止エリアになってたけどこの船はいいらしい、いいね、ヤサブローとやろうじゃないか。

手を引かれぐいぐい進むヤサブローの予想外の力強さに男を感じる。一応さ、女だからさ、不意打ちにそういうのあるとさ、きゅんとするのよ。



『ヤサブローいくつよ』

「え、えと…そろそろ、14…になる…」

『おお、』



仕草一つ一つホントに女の子みたいだったからさ、特に気にかけなかったけど肩幅とか、首筋のそれとか手のひらの感じとかが男の子のそれなんだよね…
ぎゅっと手を握り返してみるとびくっと肩を震わせたヤサブローが頬を赤めてこちらを振り返った。それを微笑ましく思っているとわたわたと前を向き直り、照れ隠しか急げとでも言うように手を繋いだまま歩く速度を早められた。



『うわ風がすごいすごい…』



でも居心地のいいそれは別段鬱陶しいとは思わん。鬱陶しいのはこの髪だね。女にしては短かったのが唯一の救いか、いや、長かったら一つに結べて今より鬱陶しくなかったかもしれん…うわ…



「ここだよ、ここ座ってようと思ったんだけど…大丈夫…?」

『あ?ああ、平気平気』



そんなの一々気にしねぇよと頭を乱暴に撫でてやれば俯かれる。つかなんだこのクセになる髪質は…すっげ触り心地いい。そのまま指を遊ばせていればちらちらと視線を感じた。からまた乱暴に撫でてやった。
すると私の手の動きに合わせて微妙にヤサブローの頭も揺れるものだからそれでバランスを崩したかれがうわっと小さく声を上げてこちらに倒れかかってきたから肩に手を添える。



「ご、ごっめ…」

『気にするなよこっちのせいでもあるし』

「ッ///」



懲りもせず撫でてやれば私の服を強く握り締められた。よーしよし、つかそのまま膝枕してやんよ!



「うあっ!!」

『大人しくしててくれー、こっちのが安定するだろー?』



顔を覗き込んで聞けば見られたくないのか見たくないのかきゅっと目を瞑られた。瞑られたが大人しく膝枕はしててくれるらしい、起き上がるような気配はなかった。

風を一身に感じる船頭で少し遠く感じる船員の声を耳にしながらふと空を見上げた。初めにこちらに来た時に見たあの草原の青空と同じように青いのに浮かぶ雲がないといいうのはなんとも不思議なものだ。というかあれからもう数日経っているというのも不思議。そろそろ捜索願とか出されているだろうか。

しばらくそのまま頭を撫でいれば膝に乗っていたそれから力が抜けたのが感じられてチラと視線を送れば私と同じように空を見ていた。その状態からだと見やすいだろうなーと思う。

ふと、気になった。



『アンタはさ、いつもこの船にいんの?』

「父上が、たまに乗せてくださる…」

『たまにか。だから肌白いのか』



たまにだけなら日焼けしていないのも頷ける。一瞬焦った、某魔法映画の●●フォーイの俳優みたく白い肌を維持するために強めの日焼け止めを何年も塗っているとかだったらどうしようかと思った。
その影響で髪まで白くなったらどうしようとか思ってゴメンな、心の中で謝罪する。



「日焼けは…しないんだ…」

『そうなのか』

「う、うん…だからしてみたいなーって…」



真夏の快晴の中一日中日を浴びてみたが倒れたのにダメだったという。それ熱中症じゃねぇか、どんだけだよ、羨ましい。
というかそれほどまでに日に焼けてみたいのか、望まずとも皆日に焼けているというのに。



「そう、なの?」

『ああ。目には網膜っていうのがあってな、網膜ほど透明な物体はあるんだろうかって医者が口を揃えるほど神秘的な自然な美しさがあるらしい』

「あ、開けるの…?」

『分からん、そういう実験』



ティッシュ一枚を濡らした時のあの薄さらしい網膜を見てみたい気がしないでもない。中学の理科の授業で牛の目を解剖したって映像は見れなかったけど。なんか苦手だ…変な顔になる。



『でそれはな、光を感じてその強さとか色とか形とかを識別する働きがあんだけど…ってわかりにくいか…』

「それが物を見えるようにしてる、ってこと…?」

『まぁそんな感じだ。物分りがいいな』



ホントに物分りがいい。一度髪をワシャッとしたあとまた指に絡ませながら遊ぶ。褒められたことが素直に嬉しいようでへにゃりと柔らかい笑顔を見せたそれに溶けたアイスクリームな気持ちになる。



『その網膜がな、日焼けをするものらしい』

「え、」

『聞いた話な。だから大人になるにつれて見える世界は色褪せていくものらしい。ガキの頃はもっと綺麗な世界だったのに、っていう大人とかいるけどそれは間違ってないそうだ』



見上げた先に広がるこの青空は本当に綺麗で普段の見慣れているそれと比べるとひどく鮮やかに見えるというのに幼かった頃の私の目がこれらを映し出せばもっと綺麗に見えるということになる。
というか私が見慣れているあの青空が子供の頃は今見ているこの青空のようであったと思えば…少し感動する。



『別に大人になることを絶望して欲しくはないんだけどな、今見えているそれを大切にして欲しい。今の内に色んなことをその目に映し出していて欲しい』



っていうのは過去の自分に伝えたいってだけだからヤサブローに言うようなことじゃねぇんだけど。大人になったヤサブローが今の私と同じようなことを思ってくれるかもしれないってことにしておく。

あー、でも夢を追う海賊の子だからなー…色褪せた大人の世界で昔と変わらないそれを探し出してくれるかもしれない。てかあの船長さんの息子だから出来ちゃいそう、てか船長さんがしそう。



「よぅ、仲がいいじゃねぇか」

『あ…』

「ちっ、父上!!!」



噂をすればとか言うけど脳内で考えるだけでも適用されるのな。自分を覗き込むのが私以外に父もいるとなると流石に羞恥心に耐えられなかったのか弥三郎が慌てて起き上り正座する。私がいじっていたせいで乱れた髪がなんとも言えない愛らしさを感じさせる。



「あのよー坊主」

『はい、』

「あー…その、なんだ…。安芸に送るって言ったが…少し遅くなっても構わねぇか…?」

『?』



目を泳がせながら髪をガシガシと掻き、言いよどむ船長さん。私もヤサブローも何をそんなに言いにくそうにしているのか、何を言いたいのかが分からず首を傾げる。



「一旦国に帰らねぇといけねぇんだ…」



国に残した嫁がカンカンみてぇでよぅ…

小さく、本当に小さく口からこぼされたその言葉にしばらく間を置いてから笑ってしまった。
奥さんの尻に敷かれてるとか…可愛いお人だ。よかったなヤサブロー、そういう家系っていいって聞いたことがあるぞと目で送ってみる。多分伝わんねぇけど。むしろ伝わったらすげぇ。



『構いませんよ』



笑ってそう返した。




















[index]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -