青 | ナノ




6-3






天使に導かれるまま着いた先は船長室だった。舵あったし。



『得体の知れないのをこんなとこに連れてきてよかったのかー?』



別に怪しいモンじゃないけどさ、いやこの子からしたら充分怪しいんだろうけど、とにかく部外者をこういう船の大事な所に連れてきてしまってもいいのか。しかもこんな可愛い子と二人きり。
そっちの気がある者からしたらかなりオイシイ状況だろ、これ。



「お、お兄さんは…大丈夫だと、思って…る、から…」

『……………がおー』

「煤I?」

『冗談冗談』



軽く腕を上げて百獣の王に似つかない声を上げてみればこんなにもやる気のない動きだというのに狙われた小動物のように震えこちらを見たまま固まる息子さん。
ぽんぽんと頭に手を置いてやると肩の力を抜いたのがわかった。面白い子だ。



『名前なんていうんだ?』

「え、と…」

『取って食ったりしないって。呼び名に困ってただけだから偽名でもなんでもいいよ、なんなら息子さんってそのまま呼ぶけどさ』

「や、さぶろ…」

『ヤサブロー?』



聞き慣れない名前だ、最近の流行りか、はたまた親父さんに変な趣味があってその影響でも受けたのか…どちらにしろ呼びにくい、紀之介のもな。佐吉ってすごい呼びやすい名前だったのな。



『ヤサブローはさ、なんか好きなモンとかあんの?』



…うん、なんか話そうと思った時って無難な話題から入っちまうよな。私悪くねぇよな。これで花とか蝶とか答えられた暁には……


あかつきには……





とりあえず抱きしめとこ。



「好きな、もの…?」

『そー、花とか蝶とか魚とか』

「!!」



お?花?超?やっぱ好き?それとも魚?さかな?私深海魚好きだぞ



「う、海が、好き…」

『海ィ…?』



おう、なんだこの予想外の返し。どうした。
でも海かー…まぁ、お父さんが海賊やってるくらいだから好きになるか。いや、好きになった理由なんかわかんねぇけどさ。てことはさっきのは魚って単語に反応したのか。おもしれぇ



「波がどこから来てるのかとか、気になる…」

『おお波か。私も昔気になってた。あれは風とか地震とかだろ?海じゃあ地震は感じられねぇけど地殻変動とかはあるからなー』

「ちか、く…?」

『まぁざっくり言えば地面が微妙に動くことな』

「動くの!!?」

『びっみょーにな』



一つのことを話せば十の質問で返してくるようなヤサブロー。好奇心旺盛というか知識欲旺盛というか。ま、良きことよ。
身を乗り出してキラキラとした眼差しを向けたまま話を促される。おいおい、さっきまでのうるうるきゅるるん小動物はどこに行ったよ。いや今もある意味そうだけどさ。

そうしてしばらく話していれば彼は頭の回転が早い子だと気づいた。すぐ理解して、すぐ疑問を持って、それを解決すればすぐにまたその上の段階を。本当に面白い子だ。生徒がみんなこんな子なら教師は楽なのにな?

そうしてしばらく二人して話に夢中になってると話題は海をかける船に変わり、自分の記憶の中にあるそれを口にすればさっき以上に輝く目を向けられた…



「じゃあ父上は炎の婆娑羅だから火力!?」

『ばさら?んー…石炭とか燃やして水熱して出る蒸気で発電機回してな?』

「火だけじゃ駄目なの…?」

『わかんねぇけど火を電気に変換しねぇとなんじゃね?』

「電気…?電気…雷、とかは…?」

『あー、あれ使えるようになったら便利だな、すっげ便利』



全然花とか蝶じゃなかったよこの子。船とか機械とか電気とかだったよ、すんげ男。いやそういうの好きな女の子もいるけどな?
でもなー、ホントに雷自由にできたら便利だよなー。あれさえあればエアコンガンガンにした状態を24時間×10日分だぜ?一回で。電気代要らねぇえええええ!!!!
そう考える欲しい!!!めっちゃ欲しい!!!電気扱える力!!!

ま、そんな奴いたらNASAとかよくわかんねぇけどそういうプロの国の研究機関に捕まりそうだけどな。そんなん嫌だ。



「おお、ここに居たか」

「!!父上!!」



戸が開き、さっき見た海賊の船長さん(仮)が入ってきた。多分この人仮とかじゃなくてリアル船長さん。じゃねぇとそんな普通に船長室に入ったりしないはずだァ…ヤサブローともども。

父の姿を認識すると満面の笑みを浮かべて抱きつくヤサブロー。可愛い。てか喜んで抱き上げる船長さんも可愛い。いい親子の図。



「今お兄さんからたくさんたくさんお話を聞かせていただきました!」

「おーそうかそうか!面白ェ話は聞けたか?」

「はいっ!!」



あー…

ほのぼのする…。佐吉とかも家帰ったらあんな感じかな?なんか褒められたがる子に見えるし…だったらすっっっっげ可愛い…。犯罪の域だな。紀之介は不意打ちで撫でられたりして赤面してそうだ。

ホント、帰れたかなー…



「よぉ坊主、」

『ん?私のことですか』

「おうよ。お前実家どこだ」

『どしたんすか急に…』

「送ってやろうと思ってな」



おー、親切心。
しかしそう言われるとどこかとは答えられん。なんかなさげだし。さてどうしたものか。



『ちなみに今の進行方向は…』

「土佐よ」



四国だよな…ほら坂本さんだし、板垣さんだし。詳しくは知らねぇけど。
ん?てことは広島近くね?厳島神社!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



「厳島ァ…?ってーと安芸か…」

『え、読心術…』

「思いっきり叫んでたのになんだこの言われ様はよぅ」



うわ、出てたのか。まぁいい、口を動かす手間が省けた。既に動かしたようだが。
そうと決まりゃあ届けてやろうじゃねぇか!!となんか妙に張り切ってる船長さん。と何故かキャッキャしてるヤサブロー。


まぁ、たのしそうだからいっか。















マジ天使




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