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5-3






「はなせ!!きさま、忍のくせにッ、!!!くびりころすぞ!!!」



忍に抱えられたまま次から次へと木々を飛ぶ。その感覚にもそろそろ酔うてきた。

佐吉は元気よなァ…ゲンキ。われには抱えられたまま暴れる気力などないわ。


飽きもせずに抵抗する佐吉を尻目に今度はあの場に留まった女の事について考える。
臆すことなくこの身に触れ、もの好きにも見知らぬ童二人をかばうような真似をしやった。挙句我が身を温める服を差し出し、身を守るための短刀と引き換えに我らを里に帰そうとは…しかもそれを突然目現れた忍に。

…われには到底真似できぬ、それどころか頭の中で候補としてすら上がらなんだわ…



「まこと、不思議な女よなァ…」

「!」



われが口にした言葉が名前を指すものだと気づいた佐吉は何故であろうなァ…落ち着きやったのか大人しくなりやった。



「やれ、もう逃げ出すようなことはせぬのか?」



尋ねれば下を向き、返事をすることなくただ小さく"なまえ…"と呟いた。

ヒヒ、いつまでも下を向いておると酔うぞ、ヨウ。
この佐吉はあまり人になれるようなタチには見えなんだが…分からぬなァ…。
この忍もよくあやつの言うことを引き受けたものよ。その気になればあの場にいた我ら全員をその手にかけ、このような面倒なことをせずとも短刀を取り返すことができたというに。





初めて体験するこの速さにもようやっと慣れた。
ふと横にいるであろう佐吉に目をやれば今にも泣き出しそうな顔をしておった。

やれやれ…どれ、本来は名前の役目なのであるが…今はおらぬゆえこの場だけはわれが引き受けよう。なに、借しよカシ。



「佐吉よ、名前から主へと贈りものよ」

「………わたしに…?」



そろそろと顔を上げ、横目で我を見る。

…こやつめ、名前の名を出さなかったのならこちらに目を向けなかったであろ…いかにも億劫といった様よ…



「ぬしが羽織っておる名前の着物の…なんといったか…ぽけとやらに入っておる」

「ぽけ…?この着物についた妙な袋…穴…のようなものか…?たしか、ぽっとではなかったか…?」

「どちらでも同じよ、オナジ」



同じではないッ、とやたらと突っかかってくるような気がせんでもないがその態度でいられるのなら少しはマシになったと思うてよしとしよう。われのヤサシキこと。

ごそごそとぽっととやらを漁る佐吉。いや…とっぽであったか…?



「!!これは…」

「左様。あめよ。日に一つしか口にしてはならぬと言うておったが、主は今日、まだ口にしておらぬであろ?」



食え食えと促せばひとつ手にする。名前が好いていた白いそれ。われも一度口にしたが甘ったるくてやれなんだわ。
佐吉は好んで口にしていた故、気が紛れて泣かずに済むであろ。

ホレ、少し花を飛ばしておるわ…ヒヒ、

初めて手にしたときは包を開けるのに手間取っていたが今ではこの慣れ様。難なくあめを取り出すと大事そうに口に入れた。



「……あまい…」



……やれ、

逆効果であったか…


こぼれそうだった雫が一度引っ込んだと安心していればポタポタとそれが止まることを知らぬように流れ出た。



「泣きやめ……、」



……ナキヤメ…、


ぬしがそのように涙しておると、われにも移りそうになるゆえ…。



佐吉から視線を外し、目の前の遠くを見つめる。こうすれば酔わぬことに気づいたのでなァ…

チラと背後より視線を感じる。しかしそれはすぐに逸らされ、忍にも気遣いというものがあるのかと笑うた。















わかれ




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